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【翻訳】「英雄はいない」ピーター・センゲ、システム・リーダーシップを語る

ひさしぶりに、翻訳しました。My Learning Sandboxに投稿したものです。

MIT Leadership Centerのインタビューより。

聞き手 まず、あなたの人となりを知ることから始めたいと思います。あなたのシステムに対する関心に火をつけたものは何だったのか、何か感じるものはありますか?

センゲ ロサンゼルスで育ったことです。それだけでは分からないかもしれませんね? 決して忘れられないことなのですが、子どもの頃はロサンゼルスのサンフランタバレーに住んでいました。両親の車の後部座席に座って、何マイルも続くオレンジとレモンの果樹園を眺めていました。今では、想像もつかない光景です。大学に通う頃までには、そう、10年かそこらの比較的短期間で、すべて無くなってしまっていたのです。ショッピングモールや開発地区に変わっていました。「空気が悪すぎるので、子どもたちは外に出てはいけません」という警報が出たものでした。10年間のプロセスが、このとんでもない手に負えない開発、すばらしい自然の住空間を破壊して、本当に誰が考えても暮らすのに望ましくない場所を創り出したのです。

この経験を通して、ひとつの問いが明確になりました。誰も、誰一人として、コントロールしていないのです。誰もこんなことを成し遂げたいと思ってもいなかったのです。計画を立てていた人がいたとして、それが些細な影響しか与えなかったことは明らかです。巨大な開発の雪崩が、起きていました。これが私に気づかせたのは、システムが、そのシステム自体をコントロールしているということでした。そのプロセスをコントロールしていたのは、そのプロセス自体でした。

聞き手 少し早送りで進めます。あなたは多数の書籍を書かれています。企業、行政、学校や、多くの組織と協力して、それらの取り組みは、世界に対して大きな影響を与えてきました。どの仕事をとっても、簡単なものではありません。それらにおいて、もっとも重要な、コアとなる考え方を3,4つ挙げれるとすれば、どのようなものでしょうか?

センゲ そうですね、ここまで子どもの頃の話、ここまでどうしてきたのかをお話してきましたから、そこから言ってみれば「ほら、誰のせいでもない!システムが、それ自体をコントロールしているんだ!」というのが、今もコアとなる考えだと言えるでしょう。こんなふうに言っても良いでしょう。いったい誰が、朝目覚めて「気候を不安定化させたい!」と思うでしょう?「貧困を生み出したい!」と思うでしょうか? 私たちが直面するあらゆる世界のシステム的な課題を、誰が創り出したいと思っているでしょうか? 答えは、誰もそんな人はいません。しかし、誰が創り出しているでしょうか? 私たち全員です。ですから、私たちの願いと、私たちのエージェンシーの乖離が、根本的な問題です。これが、まさに世界の問題だと言っても良いほどだと思っています。いつもすべての中心に存在しています。

その後、私は実践的なシステム思考やシステム・チェンジの、より詳細なポイントをたくさん学びました。こうして5つのディシプリンのフレームワークが、次第にかたちづくられていきました。そこで明らかだったのは、本当に頭角を表した人たちが、共有ビジョンを築くことに実に長けていたということです。

聞き手 では、1つ目にシステムが支配していること。2つ目、ビジョンという言葉ですが、あなたが話しているのは、個人ではなく、集合的(コレクティブ)なビジョンですね。「私はこれが欲しい!」という個人のものではなく、より大きな善のため、人々が団結して、私たちが未来においてどんな場所にいたいか? というすばらしい考えのことですね?

センゲ そして、その2つに、3つ目を加えることができるでしょう。本当のシステム・チェンジのプロセス、つまり「やり方」の部分です。ある意味、かなり不可思議だと思うのです。組織論にはあらゆるモデルがあり、「計画された変化」があります。主流のリーダーシップ論も、みなさんご存知のように、「個人または少人数がビジョンを言語化し、計画を立てて、人々を巻き込む戦略を立てて、誰かのビジョンに向けてどうやって人々を動かすか」です。

これが、状況によっては、完全にうまく機能したことに疑いの余地はありません。しかし、私は、深いシステムの課題を扱うときに、このやり方はまったく完全に不適切だと思っています。つまり、気候変動から私たちを助けてくれる者は、誰もいないのです。気候変動に関して、私たちは自分で自分を救わなければなりません。深いシステム課題のどんなものでも取り上げてみれば、気づくでしょう。いつも重要なのは、さまざまな場所から、さまざまな形での、多くの人のリーダーシップなのです。

聞き手 では、そのシステムをどうすればよいのでしょう? ビジョンがあり、人々は準備ができている。そのとき、次のステップは何ですか?

センゲ ある種のつながり(connectedness)の感覚が育っていて、これから発達し始めると思います。ここで言うつながりとは、「私たちはひとりではないし、私はひとりではない」という感覚です。私たちが、システム思考でよく使っていたマンガがありました。こんな風に傾いてボートの端に、2人の男が立っています。ボートが反対の端から沈んでいるのです。そのとき、これは取るに足らないことではないのですが、2人は顔を見合わせて言います。「穴の空いているのが、あいつらの側で本当によかった!」と。

これは「私がOKだから、これでOKだ!」というマインドセットです。しかし、そんなことはありません。重要なのは、「私たち」がOKかどうかです。ボートのどちら側に穴が空いていても関係ありません。これは、変化のプロセスにおいても同じことが言えます。

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私たちが、彼らの側の穴に取り組まなければならないのです。このマインドセットが必要です。ある意味、悟りを開いたようなマインドセットと思われるでしょうし、その通りだと思います。しかし、とても実践的なマインドセットでもあります。だから、このボートのマンガがいつも効果的なのです。みんな、分かるのです。2人の男が良い気分なのが、分かるでしょう?

何年も前になりますが、ニューヨークの人たちが大勢言っていました。「もし海の水位が5メートルや10メートル上昇するなら、マンハッタンを壁で囲めばいいじゃないか」。彼らは、ボートの自分の側を見ていたのです。このマインドセットに囚われるのです。自分と、自分たちのものだけを守ればいい。遅かれ早かれ、これがシフトしなければなりません。

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