見出し画像

三笘薫選手が所属するロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ古豪復活の秘密とは?

このシリーズではヨーロッパサッカークラブ、主に5大リーグ以外のサッカークラブで公開されている財務諸表を日本語に翻訳し、解説していきます。

欧州サッカークラブの財務諸表は以外とオンライン上で公開されています。しかしながら、現地言語での公開が多く日本の皆さんは手に取りずらい情報でもあります。その内容を翻訳し、ヨーロッパのサッカークラブの等身大の現実の情報を皆様にお伝えすることが本シリーズの目的です。

ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ(Royale Union saint-gilloise)

ベルギー1部リーグに所属するロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ(Royale Union saint-gilloise、以下USG)はベルギー首都近郊を本拠とするクラブです。現オーナーはプレミアリーグに所属するブライトンと同一のトニー・ブルームがオーナーとなっています。

川崎フロンターレでセンセーショナルな活躍をし、東京五輪でも活躍した三苫薫選手がブライトンに移籍しましたが、プレミアの登録規定の関係とプレー環境を用意するため、USGへ移籍しています。

USGの1部リーグ昇格は1972-73シーズン以来、実に48年ぶりの快挙となりましたが、USGというクラブ自体は1900年~1930年代にかけてはベルギーリーグ11度の優勝を誇る強豪クラブでした。1933年~35年にかけては60試合連続無敗記録を打ち立てたほどであり、この記録は未だベルギー国内で破られてないようです。後のUEFA大会へつながる1900年代のヨーロッパ国際大会であるクープ・ポントス杯を3度勝ち取っており、まさにヨーロッパ内の雄でもありました。しかし、1940年代に入ると力を落し、1963年に1部から降格するとそれ以降、ベルギーの表舞台に中々戻ってこれない時代が続きました。

そして、2020-21シーズンに満を持して1部リーグ復帰を果たしたストーリーを持つクラブです。なので、今回のデータはUSGが2部時代の財務データの分析となります。

財務諸表分析2018-19・2019-20

【資料の見方】

画像1

貸借対照表と損益計算書が入っています。

画像2

画像3

貸借対照表、損益計算書共に、2ヵ年分の数値とYoY増減の数値と%を確認できます。円貨への換算も規定のセルの為替を変更すればすぐに変更されます。また、各勘定科目の構成割合も算出しています。

↓元データ

↓DropBoxデータ

※Google翻訳と会計用語を結び付けて翻訳していますが、オランダ語/フランス語の翻訳に精通している方で、翻訳に不備があるようなら教えていただけると大変助かります。

貸借対照表

まず、一番最初に目に飛び込んでくるのは、負債の大きさだと思います。純資産が2020年6月末時点で▲16億円、前年から▲8.6億円の増加です。これはコロナによる影響かと思いきや、次のPLで説明しますが、売上高は逆に上がっていると同時に費用も増加していることから、財務構造として昇格狙い一択の強気投資を敢行している現れです。

資産を見た時に無形固定資産(選手移籍金)は前年から7800万円増加の1億9千万円なので、選手獲得に投資していることが伺えます。

運転資金は増資ではなく、借入金で賄っているようで、1年以上固定負債が26億9千万円あり、前年から12億7千万円積みあがっています。

財務健全性から言えばもちろん✖ですが、潤沢な資金を持つプレミアオーナーをバックに強気の投資をしていることがBS財務諸表から伺い知ることができます。

損益計算書

売上自体は8億4千万円程しかありませんが、コロナの影響が出た2019-20シーズンにおいても、売上は前年から2億円ほど増えています。2019-20シーズンにYoussoufou Niakaté選手が2億6千万円で売却されているデータがあるので、この選手売却分がそのまま売上増加になったと考えて差し支えないと思います。

一方費用サイドは16億8千万円を計上し、最終赤字が8億6千万円となりました。前年の赤字額も8億6千万円だったので、2部から1部への昇格を目指した強気な姿勢が現れています。人件費は9億8千万円使っており、2020年6月末では人件費/売上高は116%となりました。減価償却費も合わせるとその比率は130%まで増加します。

2部リーグを制するための予算がわかる

2部と1部の間での経済格差は大きなものがあり、1部にいかに早くあがるか?これがオーナーにとって重要な点だったと思われます。近年のベルギー2部リーグを見ていると、2部を制するには予算で10M€~15M€のくらいの予算が必要になってきているようです。

読者のみなさまの中には、「これリーグライセンス大丈夫なの?」と思われる方もいるかもしれませんが、オーナーの資金保証があればリーグライセンスは問題ありません。

ベルギー2部は8クラブでリーグ戦が2期に渡って行われています(コロナの影響があった2020-21シーズン以降は1期)。放映権料も1部に比べて低く(8000万円程度)、如何に1部に早く昇格するか?が外国人オーナーとしては重要になってきます。コロナ前は1部16クラブで1クラブしか昇格・降格の入れ替えがなかったため、8クラブのリーグ戦と言えども昇格は狭き門でした。しかし、コロナの影響で現状1部は18クラブとなり、入れ替えクラブ数も2クラブに増えています。

USGに関して言えば、2020-21シーズンを勝ち点70、2位との勝ち点差18のダントツの優勝を勝ち取ったので、コロナの影響の利を生かしたというわけでは無いですが、2018年のオーナー交代後の3年目の正直で、継続した投資により1部昇格を勝ち取りました。オーナーであるトニー・ブルームはプロのポーカーギャンブラー、彼は賭けに勝ったと言えるのかもしれません。

今期は三苫選手も移籍し、6試合終わった9月11日で2位と好位置につけています。是非日本からのDAZN観戦でも注目してみてください!

#サッカービジネス
#サッカーファイナンス
#フットボールファイナンス
#スポーツビジネス
#ファイナンス
#財務分析
#ヨーロッパ
#ヨーロッパサッカー