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リーグ優勝最多34回を誇るビッグクラブRSCアンデルレヒトはなぜ債務超過に陥ってしまったのか?

このシリーズではヨーロッパサッカークラブ、主に5大リーグ以外のサッカークラブで公開されている財務諸表を日本語に翻訳し、解説していきます。

欧州サッカークラブの財務諸表は意外とオンライン上で公開されています。しかしながら、現地言語での公開が多く日本の皆さんは手に取りずらい情報でもあります。その内容を翻訳し、ヨーロッパのサッカークラブの等身大の現実の情報を皆様にお伝えすることが本シリーズの目的です。

RSCアンデルレヒト(RSC Anderlecht)

ベルギー1部リーグに所属するRSCアンデルレヒト(RSC Anderlecht)は、ブリュッセル近郊のアンデルレヒトの地域を本拠とするサッカークラブです。

日本人選手は過去に森岡亮太選手が所属していました。

ベルギークラブの中で最も輝かしい歴史を誇り、

【国内】
リーグ優勝34回(最多)
ベルギー・カップ優勝9回
ベルギー・リーグカップ優勝1回
ベルギー・スーパーカップ優勝13回

【欧州】
UEFAカップ優勝1回(1982-83)
UEFAカップウィナーズカップ優勝2回(1975-76, 1977-78)
UEFAスーパーカップ優勝2回(1976, 1978)

と国際大会の舞台でも1970~80年代にその存在感を発揮しました。1990年代以降、5大リーグの台頭により国際的な舞台では結果を出せなくなりましたが、依然国内リーグではビッグクラブとしての地位を保持しています。

しかし、近年その財政悪化が原因で競争力が低下してきている傾向にあり、クラブ改革が内外で叫ばれている状態となっています。

財務諸表分析2018-19・2019-20

【資料の見方】

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貸借対照表と損益計算書が入っています。

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貸借対照表、損益計算書共に、2ヵ年分の数値とYoY増減の数値と%を確認できます。円貨への換算も規定のセルの為替を変更すればすぐに変更されます。また、各勘定科目の構成割合も算出しています。

↓元データリンク

↓翻訳データ in DropBox

※Google翻訳と会計用語を結び付けて翻訳していますが、オランダ語/フランス語の翻訳に精通している方で、翻訳に不備があるようなら教えていただけると大変助かります。

貸借対照表

総資産は2020年6月時点で91M€(≒118億円、130円/€以下同)の規模です。J1リーグの2019年12月時点で最も総資産が大きい鹿島で40億円なので、規模はその2倍あります。

移籍獲得選手の資産残高となる無形資産合計は39.4M€(≒51.2億円)です。これだけでJ1トップクラブの総資産を抜いてしまいます。が一方で、手許現金は1.6M€(≒2.1億円)しかありません。

純資産に目をやると財務の不健全性が露わになります。2020年6月時点で23.8M€(≒30.9億円)の債務超過です。特に利益剰余金のマイナスが64.2M€(≒83.5億円)と総資産の実に70%にもなる大きさです。

上記債務超過であることからわかるとおり、負債も大きくなっており総負債は114.8M€(≒149.2億円)もあります。その内、固定負債が47.7M€(≒62億円)、流動負債が49M€(≒63.7億円)あり、流動性比率は68.9%であることと手許現金の量を考えるとかなり資金繰りに窮していることが伺えます。

自己資本比率は▲26.2%となり、財務健全性は赤信号です。

損益計算書

売上トップラインはコロナの影響が3月から始まった中でも前年比+5.5%の伸びとなり、89.5M€(≒116億円)となりました。この年、選手売却を多く行い推定で33.5M€(≒41億円)ほどの収益を得たはず(Transfermarkt参照)で、売上の35%を移籍金から稼いでいる計算です。UEFAのコンペティションに出場できなかったことからUEFA分配金が手に入らなかったのはアンデルレヒトにとっては大きな痛手でした。

人件費は58.5M€(≒76億円)となり、費用内比率では48%ですが、売上比率でみると65%の水準です。減価償却費も合わせた売上比率は88%(選手獲得費以外も含まれるが目安として割合算出)となり、売上のほとんどをチーム強化に使っている計算です。その結果、総費用が122M€(≒158.6億円)と売上を大きく上回りました。また、その大きな負債に対する支払金利は年間で1.9M€(≒2.5億円)にも及んでいます。最終損益は▲34.9M€(≒45.4億円)という巨額の赤字を計上することになりました。

なぜ債務超過に陥ってしまったのか?

このような放漫財政によりアンデルレヒトは一気に債務超過に陥ってしまっています。

2017年12月より、現オーナーとなるMarc Couckeというベルギー実業家により買収された所から雲行きが怪しくなります。彼はOmega Pharmaというベルギーの製薬会社で財を成した人物で、同じベルギーのKV Oostendeのオーナーを直前までしていました。典型的な昔のオーナーの手法で資金を投入して選手を購入し、チーム強化を図りました。2016-17~2019-20の5シーズンで103M€を移籍市場に投じ(Transfermarkt参照)ており、選手人件費もおよそ3倍に膨れたと言われています。しかし、自ら陣頭指揮を執った放漫経営は結果が伴わず負債を増やすばかりになり、2020年5月に会長職から退くことになってしまいました。引き続き株主としては残っていますが、現在、追加の増資により債務超過を解消すると報道されている状態です。

2020-21シーズンからVincent Kompanyが監督として指揮を執るようになり、ヨーロッパでも定評のあるユースの出身選手や若手主体の布陣で結果が上向いてきました。EURO2020で活躍したJérémy Doku(2020年10月にフランス1部のStade Rennaisへ移籍)などはその一例です。経営を健全化し、再びベルギーの盟主としての力を取り戻すことができるのか、今後の動向に注目が集まります。

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