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人口6.6万人の街で近年最もベルギーで結果を出すクラブの1つゲンクのクラブマネジメントとは?

このシリーズではヨーロッパサッカークラブ、主に5大リーグ以外のサッカークラブで公開されている財務諸表を日本語に翻訳し、解説していきます。

欧州サッカークラブの財務諸表は以外とオンライン上で公開されています。しかしながら、現地言語での公開が多く日本の皆さんは手に取りずらい情報でもあります。その内容を翻訳し、ヨーロッパのサッカークラブの等身大の現実の情報を皆様にお伝えすることが本シリーズの目的です。

KRCゲンク(RSC Genk)

ベルギー1部リーグに所属するKRCゲンク(RSC Genk)は、リンブルフ州にあるゲンク市を本拠とするチームです。ゲンクは炭鉱の街として知られ、人口は6.6万人程度です。ベルギーのリンブルフ州全体では86万人の人口規模があるようですが、その中にはSTVV、ロンメルと言ったクラブも含まれており、STVVとは激しいライバル関係にあります。

現在、伊東純也選手が所属しているチームです。過去にも鈴木隆行選手が所属していたので、ご存知の方も多いかもしれません。

現在ではG5と呼ばれるベルギーリーグの5つのビッグクラブのうちの1つに数えられるゲンクですが、1998-99シーズンに初めてベルギーリーグで優勝するまでは1地方の中小クラブでした。そこから、ユース選手の育成に成功し競争力のあるクラブへと成長させました。ベルギー代表GKのクルトワ選手やMFデ・ブライネ選手の出身チームでもあります。1998年以降で、リーグ優勝4回、カップ優勝5回、ベルギースーパーカップ優勝2回と強豪としての地位を確立しました。ヨーロッパの舞台ではまだ思うような結果は出せていません。

財務諸表分析2018-19・2019-20


【資料の見方】

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貸借対照表と損益計算書が入っています。

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貸借対照表、損益計算書共に、2ヵ年分の数値とYoY増減の数値と%を確認できます。円貨への換算も規定のセルの為替を変更すればすぐに変更されます。また、各勘定科目の構成割合も算出しています。

↓元データ

↓DropBoxデータ

※Google翻訳と会計用語を結び付けて翻訳していますが、オランダ語/フランス語の翻訳に精通している方で、翻訳に不備があるようなら教えていただけると大変助かります。

貸借対照表

まず、一言で言ってしまえばゲンクは”超”の付く財務健全なクラブです。2020年の流動比率は400%を超え、自己資本比率は62%もあります。純資産額は75M€(≒97.5億円、130円/€、以下同)の資金余力はちょっとやそっとではびくともしない金額規模です。たとえコロナで業績が悪化したとしても全然余裕で耐えられるでしょう。

その安定した資金力を通じて、選手補強も買い手クラブとしての力を持っており、無形資産(≒補強選手移籍金)は35M€(≒45.5億円)を保持しています。

長期負債もほとんど持っておらず、流動負債も16M€(≒20億円)程度で、流動比率が高い水準であることから、その資金繰りも当然安定している状態です。

損益計算書

2020年は前年から売上高+70M€(≒91億円)+118%という驚異的な成長を記録しました。130M€(≒169億円)はクラブレコードです。その売上を支えたのは、推定80M€(≒104億円)となる移籍金収益と15M(≒20億円)以上はあると予測されるCL分配金です。まさに、ピッチ上の成功がそのまま収益の成長に直結している好例と言ってよいでしょう。

一方で、人件費は35M€(≒45.5億円)、売上に対する比率で27%に抑えられ、選手移籍金の減価償却費を加味しても42%の水準です。このコストの調整により29M€(≒38億円)の税引後最終利益を計上することに成功しました。

サッカービジネスの本業でPLをしっかり稼ぎ、それをBSへ蓄積していくという、サッカークラブ経営のまさにお手本のような決算書と言っても過言ではありません。

近年の成功の裏に有るもの

ゲンクはベルギープロクラブの中で唯一NPO法人で運営されているクラブです。その経営意思決定は理事会で合意決定されます。この理事会は地元経済会の有力者が名を連ね、近年のクラブの成功はこの有識者グループによる合理的意思決定が上手く機能しているからと言えます。

それは、ピッチ上での成功と経済的成長を両立していることから明らかでしょう。毎年選手を高額移籍させつつも、コンペティションでの競争力を維持し、毎年タイトル争いに絡みながら、クラブとして最高売上をたたき出し、純資産を75M積上げるその手腕は、ベルギーの一地方都市でのマネジメントとして欧州でもトップレベルと言っても良いかもしれません。足りないものはCL、ELでの結果だけですが、ここも背伸びせずあくまで優秀な若手選手を獲得し、試合で選手価値を上げて高く売却するスタイルを貫き、地に足付いた経営を行っています。

クラブの会長であるピーター・クローネンは、プロリーグの代表も務めるなど、今クラブとしての影響力は過去の中でも最も大きくなっているかもしれません。

またマーケティングについて、地元密着を基本にとても質の高いものが展開され、地元コミュニティとの密接な繋がりを作り上げています。この近年の成功と地元密着によりリンブルフ州でのゲンク支持者は増加しています。国際的なマーケティングや投資受け入れを行わずに、人口6.6万人の街でここまでの結果を出せるのは、日本のJクラブにも参考になることでしょう。


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