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意外と知らないヨーロッパのリーグ考察~オランダ編~

「意外と知らないヨーロッパのリーグ考察」第5弾です。5大リーグ以外のヨーロッパのリーグについて、公開されているレポートを発見できたものについて、まとめていきます。

今回はオランダ-エールディヴィジ (Eredivisie)-編です。

色々と探し回ったのですが、リーグや会計ファームが発行している年次レポートが見つからなかったので、FIFAやUEFAの会計ファームのレポートに載っている情報や一般サイトの情報を少しずつ参照しながら、リーグの考察をまとめていきたいと思います。

エールディヴィジ (Eredivisie)の概要

オランダリーグと言えば、かつては小野伸二選手がフェイエノールトに在籍し、今までにも多くの日本人選手がプレーしたリーグですので、既に知っている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。現在では、堂安律選手がPSVに所属していることでも有名です。

Wikipediaを参考にした情報はこちらです。

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18クラブによる2回総当りで基本的に8月終わりに開幕して翌年5月に閉幕する。優勝クラブは次年度のUEFAチャンピオンズリーグへの出場権を得る。4位~7位がヨーロッパ・リーグ出場枠を賭けてリーグ戦終了後に勝ち抜き戦形式のPOを行う。最下位 (18位) のクラブはエールステ・ディヴィジ (2部リーグ) に自動降格 (代わってエールステ・ディヴィジの優勝クラブが昇格) し、16位17位 とエールステ・ディヴィジの8クラブが入れ替えPOを争う。

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2019-20シーズンまでのErdivisie所属クラブの位置は上記の通りです。(Wikipediaより)

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歴代優勝チームはこちらの映像をどうぞご覧ください。

外国人枠規制と育成リーグ

Erdivisieでは外国人枠が存在しない代わりに、外国人選手の最低年俸が定められています。20歳未満の選手年俸200,000€以上(≒2,400万円以上 @120円/€)、20歳以上の選手年俸は400,000€以上(≒4,800万円以上 @120円/€)とかなり高額となっており、これにより実質的に外国人枠を規制しています。
リーグ規模としても上記の高額年俸を払える財務体力のあるクラブは少数のため、外国人選手にとっては狭き門となるリーグです。

18チームで平均23.7人の選手を保有している内、外国人選手は平均9.9人です。これは海外に開かれているベルギーリーグの外国人選手の平均が15.4人であることと比較すれば、その割合の低さがわかります。
一方で選手年齢の平均は24.4歳であり、ベルギーの平均24.6歳とほぼ同等であることからも、オランダが若手の育成リーグの立ち位置を確立していることは確認できます。

参照:Transfermarkt

UEFAリーグランキング

こちらは2020年8月24日時点で10位となっており、ヨーロッパ内での地位は比較的高いリーグです。(UEFAリーグランキング

しかし、Ajaxなど国際的に有名なクラブが所属するリーグの割にはUEFA内での序列が高くないことを意外に思う方もいるかもしれません(ベルギー、ポルトガル、ロシア、ウクライナより下)。

Jリーグとの比較から見えてくるもの

今回もオランダのプロリーグの規模感をつかむためにJリーグと比較していきたいと思います。

まず、国全体の経済・人口規模を比較します。

オランダ  GDP:0.91兆USD 人口:1728万人
日本    GDP:4.971兆USD 人口:1.265億人
(2018年 Google検索より)

経済規模では日本の20%程、人口は日本の15%程です。

Erdivisie
1部チーム数18チーム
2018-2019 総観客数5,511,437人 Ave.18,011人  ※1
2018-2019 クラブ合計総収入: 594M€ ≒ 723億円 (120円/€) ※2
(※1参照:Transfermarkt)
(※2参照:Deloitte Report 2020 P13)
Jリーグ
1部チーム数18チーム
2019年 総観客数6,349,681人 Ave.20,751人 ※1
2018年 1部リーグ総収入856億円 ※2
(※1参照:J League PUB report 2019)
(※2参照:2018年度J1クラブ決算一覧)

見比べてみると、観客動員数、リーグ収入共に大きな差はないように見えます。しかし、人口比率でみると日本は延べ5%の人が観戦していますが、オランダは延べ32%の人が観戦しており、サッカー人気の差は明確です。

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収益の内訳はOther commercialが大きく226M€ですが、これはUEFAの国際大会での賞金と分配金が大きく影響しています。特に2018-19シーズンはAjaxがチャンピオンズリーグの準決勝まで勝ち進んだ年でした。
それ以外には、やはりスポンサー収益、ゲーム収益が他のリーグに比べても高水準となっています。一方で放映権料が73M€≒87億円(120円/€) しかないのは少し意外かもしれません。ご存知の通りJリーグと契約しているDAZNで年間210億円の契約と言われているので、オランダリーグは放映権ビジネスのポテンシャルを生かし切れていない可能性があります。
ただ、ここの数値には移籍金収益は含まれていないので、さらに収益水準としては高くなっていると予想されます。

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また、例としてPSVの数値を見てみると、

営業収益:62M€≒74億円 (120円/€) 2017-18シーズン
クラブ人件費:35M€≒42億円 (120円/€) 2017-18シーズン
税引後利益:0.2M€≒2400万円 (120円/€) 2017-18シーズン
スタジアム収容率:95% 2017-18シーズン
選手市場価値合計:160M€≒192億円 (120円/€) 2019年1月時点
SNSフォロワー数:200万人 2019年1月時点

(参照:KPMG The European Champions Report 2019)

であるので、Jクラブのトップレベルの収益規模とは同等レベルであることが確認できます。

選手価値合計
Transfermarktにリーグ所属クラブの選手価値が掲載されているのでJリーグと比較してみたいと思います。

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リーグ全体の選手価値合計はオランダリーグの方がJリーグの4倍もあります。特にAjax、PSV、AZ、Feyenoordのビッグクラブのクラブ選手価値が非常に高くなっており、Ajax単独のクラブ選手価値がJリーグ全体のクラブ選手価値合計より高くなっています。。。

スタジアム保有
スタジアムの保有状況は、7クラブが自分たちで保有し、5クラブが地方自治体所有で、6クラブが第3者の保有となっています。
(参照:UEFAレポート P34)

外国資本

現在Erdivisieにおける外国資本は3クラブのみとなっています。

ADOデン・ハーグ (ADO Den Haag):中国
フォルトゥナ・シッタート (Fortuna Sittard):トルコ
フィテッセ (SBV Vitesse):ロシア
(2020年8月24日時点)

他の1部15クラブは全てオランダ資本となっていて、海外からの投資は盛んにおこなわれているというわけではありません。また、個人オーナーが所有しているクラブも少なく、大半はクラブ自身の自己資本で成り立っているので、経営が外部圧力に対して独立している事が特徴としてあげられます。

エールディヴィジ (Eredivisie)の考察まとめ

今まで考察してきた国(ベルギー、ポルトガル、トルコ、ロシア)の中ではベルギーと近しい印象を持ちますが、そのリーグ設計やクラブ運営手法は全然違ったものとなっています。隣国で同じオランダ語を話す地域でありながら、サッカーのプロリーグに対するアプローチの仕方が違っている事は非常に面白さを感じます。

クラブ収益では、移籍金を勘案した場合にはJリーグよりも大きな経済規模となると推測され、国としての経済力や人口と比べるとオランダにおけるサッカー産業の大きさを改めて知ることができます。

意外にも外国人への規制が大きいため、自国選手の育成に主眼をおいたリーグと考えることができます。また、4大ビッグクラブがリーグを牽引する存在であることは間違いなく、Ajaxに代表されるクラブが5大リーグのビッグクラブと対等以上に渡りあうことでリーグ自体の競争力も高めていると言えます。しかしながら、国内ではビッグクラブの支配が圧倒的で、リーグ自体の魅力が薄れてしまっている遠因ともなっており、それがひいては放映権料の上昇を抑えている要因にもなっていると捉えることもできるかもしれません。

歴史的に日本との結びつきは強く、今までにも多くの日本人選手がプレーしてきたリーグでもあることから、今後も継続して日本人選手の活躍を見ることができることでしょう。

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