素敵なお姐さん
私は学生時代、新興宗教にはまっていた。
場所はカリフォルニア。
その頃の人生最大の悩みを「大丈夫、解決できます」と言って勧誘したアメリカ人。
若くて無垢な私はずぶずぶとはまってしまった。
活動資金調達のために、訪問販売をした。
当時はやらされている感はなく、修行の一環だと思っていた。だから辛くなかった。
車で街の一角におろされて、一軒一軒家をまわる。
売っていたのはB5くらいのプリントイラスト。
キリスト様やマリア様、こねこちゃん、わんちゃん、すぐ飾れるように厚紙で額がしつらえてある。
ピンポンを押して、出て来た人に
「ドラッグ撲滅のための学生活動です。資金の為に寄付を募っています。どうかこの絵を6ドルで買ってください。」
マニュアル通りの英語をしゃべる。
実にいろいろなところへ行った。
大抵は門前払い。特に高級住宅街は全く買ってくれない。
まず怪しまれて、IDを見せろ、どこの大学だ、等等。
守るものが大きいと、猜疑心が高まって、人の心はせまくなるのだ。
けれど、信じられないほど親切で優しい人はいる。
そこはいわゆるショーパブだった。
夜も更けて暗くなって来た時間、ログハウス風の木でできた重たい扉を開けると別世界のように華やかな酒場が広がっていた。
ショーの真っ最中で、おっぱいがすごく大きいお姐さんが何人もポールダンスでくるくる回っている。
はやし立てる周りの男性客、耳をつんざく音楽と指笛。
「こんなところで『ドラッグ撲滅運動』なんていって場違いも甚だしいのでは・・・?」
と思いつつも、修行中の私は真面目に楽屋前に待機する。
ショーが終わって楽屋に戻ってくるお姐さんの一人をつかまえて、
「絵を買ってください」
とお願いする。
「あらーそうなのー♬ ちょっと見せて。あら!可愛い!このねこちゃん欲しいわ。」
胸の谷間に挟まったお札から6ドル払ってくれる。
「ちょっとこっちへ来て、皆にも見せてよ、だってあんまり可愛いから」
彼女は親切にも楽屋に通してくれたのだ。
「みんなーこの子、絵を売ってるのー見てあげてよー」
といって他のお姐さん達に薦めてくれる。
お姐さん達は全員優しくて、
「えー、どれどれ」
「いやーんこれ可愛い!」
などどいいながらとてもたくさん買ってくれた。
私がどこの人間だとか、なにが目的とか、全く聞かずに絵を買ってくれた。
これは奇跡だ、と思った。
彼女達が本当に絵を気に入ったのか、それはわからない。
けれどそのとき、私は確かに神様を感じていたのだった。
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