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浮浪者と牛丼

 私はそのとき頭にひとつのアイディアを持っていた。

女性の浮浪者を主人公にした漫画のストーリー。浮浪者が行きずりの少年と仲良くなる。少年は義理の父にひどい虐待を受けていた。それを知った彼女の行動は・・・。

 白髪まじりの長髪は肩まで伸び、垢で束になっている。何年も洗っていないだろう顔、ひからびた唇からは不揃いの黄色い歯がのぞいている。サイズの合っていない服は汚れて何色だかもわからない・・・。裸足だ・・・。寒いだろうな・・・。

 次のシーンで私はその人と差し向かいで牛丼を食べていた。

必要以上に明るい店内は、真っ黒に泥が詰まっている爪を照らす。
その手は割り箸の清潔さを際立たせて、ガツガツとドンブリからご飯をかき込んだ・・・。

 次のシーンで私はもうベッドに寝ていた。

 あれっ夢だ・・・。
ああ、夕べ酔っぱらって帰って寝て、あのストーリーがそのまま夢になったんだなあ・・・。
 
何気なく財布を見ると。「すき家 並×2」というレシートが入っていた。


 私は、偶然駅前にいた浮浪者と本当に牛丼を食べていたのだった。

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