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【エッセイ】ロンリー・ウルフ

高校三年生の冬の夢をたまにみる。
卒業式まで2ヶ月をきったくらいの冬。
夢の中の自分はとても強気で今まで溜めに溜めた不満を「おい!それはおかしいだろ!」くらいの勢いでぶちまけている。
卒業式までもう2ヶ月をきってるのをいいことに、もうどうなってもいいという投げやりで強気になっている。
気まずくなったらそこで学校に行かなくても、もう卒業は出来るんだから…と。

卑怯な考え方かもしれない。

だが、たまに定期的にそんな夢をみる。

高校に限らず学校生活というのは本当にサバイバルだなと思う。
いじめられないように処世の術を学んでいく。

昨日までいじめていた(いじっていた)三人組の一人が翌日にはいじめられて(いじられて)いたことを目にしたことがある。
その三人はまさに不敵な笑みが似合うニヒルでクールな中学男子でどこのクラスにもいるであろうどこかおどおどしていて休み時間も席から立たずにうつ伏せて眠っているふりをしてる子が、そんな三人のウルフの餌食になる。

あからさまに殴る蹴るなんてことはさすがにない。
ただ陰湿に、からかうのだ。

もうその子以外考えられないだろうというあだ名を連呼して返事がない(もちろんあるわけがない)とケラケラ笑っていじる。それを繰り返す。周りはそれぞれのグループでかたまっていてあえて触れない。自分も居心地のいい少数グループでいつもの場所でいつものように会話したり戯れて休み時間を過ごし、何もその子に関わらなかった。見て見ぬふりも同罪…。その通りなのだ。自分も同罪なのだ。それはその場から関係なくなった今だから言える。

一人は狙われる率が高い。
だからかたまっていた方が安全だ。
その机に突っ伏した生徒の前に狙われていたのも一人(ピン)の子だった。

ウルフ三人組は三人とも仲良かったはずなのにその一人がはぶかれた形になったようだ。
昨日まで不敵な笑みで物静かで何の害も非もない一人の生徒をいじっていた一人のウルフがわかりやすくからかわれ二人のウルフにいじられていた。

仲間割れ?一過性のもの?

そうではなかった。
それから三人に戻ることはなく二人のウルフは相変わらず仲良く新しい仲間を加入させたり好き放題していた。

はぶかれた元ウルフは顔つきも弱々しくなり何かに怯えていた。気づけば陰キャのグループに紛れ込んで笑って話なんかしていた。
だがそのロンリー・ウルフには不本意だったろう。
馬鹿にしてからかっていたグループに紛れ込むしか身を守る方法がなかったのだから。
だが少し虫がよすぎるんじゃないかと解せない思いを抱いた。言い方は悪いが「都落ち」「左遷」なんじゃないか。そう思うのはかつてのいじりっぷりが陰湿極まりなかったからである。その加害の側にいたひとりが今目の前で被った側にしれっといるのだから。

因果応報である。
それだけのことはしてきたのだ。
虎の威を借っていたのだ。
されて嫌なことを散々してきたのだ。
三人のウルフの中で一体何があったかはわからない。でも、呆気ないものである。たった一日で味方から敵にされるのだから。

一寸先は…
絵に描いたような光景だった。


いじられないためにどうするべきか。
そんなことを10代のこどもたちは考えて生きている。

キャラを演じる。
馬鹿騒ぎに乗じる。
クラスでのポジションを確保する。
先生に気に入られる。
異性を味方にする。
特技をもつ。

選択肢は沢山ある。

だが今はそこまでしなくても学校に行かないという選択肢がある。
当時もなくはなかったがそれでもあの時代は「それは逃げだ」「負けないで頑張れ」「そんなこといってたらこれから先やってけないぞ」の重石がひどくのしかかっていた。

小中高の12年間、なんとかサバイバルして生き抜いて卒業することは誰もが容易く出来ることでもないのだと思う。
だから定期的に高三の冬の夢をみるのかもしれない。

きりたくてもきれなかった理不尽に対する啖呵。
まだ心の木の枝にビニール袋がひっかかっている。
風が吹くとバタバタ音を鳴らす。

遠吠えは悲痛な叫びだ。
ロンリー・ウルフになりたくないと。
三人のウルフのはじかれたあのロンリー・ウルフのひきつった笑顔が今でも忘れられない。




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