【エッセイ】そんな自分が嫌いでね

私は歪んだ性格を持っている。
意地が悪い。ただ、それを自分の中だけで完結させる。他人は巻き込まない。

古着屋でのこと。
後方から賑やかな(うるさい)声が近づいてくる。
輩だよ…。あぁ、めんどくさ…。

「テロテロの生地でさー」
「あっ、あそこじゃない?」
「あーあー、近いかなー」
「◯◯(他店の名前)の方がよくね?」
「うわ!ちょっ、これー」
「キャハハハ!たかしじゃん!この前着てたやつにそっくりじゃね?」
「だっさー!まじで?ローソンの制服じゃん!」

声の数からして男3の女1計4人か…
見ると具体的に苛ついてしまうので振り向かない。
甘ったるい香水とシトラス系の制汗剤くささが入り交じる。
なんとなくパターンは浮かぶ。
でも、見ない。
距離をとろう。
私はスッと背中を向けたまま通路を行く。
タバコの匂いも漂わせていたので二十歳…いや、あのノリは18か19だろう。

しばらくすると静かになった。
散ったかなと物色途中だったコーナーに戻ることにした。
ハンガーを右から左へずらして生地を触る。
最近は着心地重視。生地にこだわる。実際触ってみないとこれだ!に、出会えない。

油断していた。

突然さっきの声たちがまるで私の影から生まれでたように現れた。
咄嗟に振り向いてしまった。

短髪で金髪、夏前でこんがり焼けた肌。日サロか。同じ顔の男が3人。その後ろに黒髪ロングで腕を組んだ女が1人。

見てしまったぁ………。

見てしまうと私の悪い癖が暴走し始めた。
じっくり見ても顔が三つ子並に似ている短髪で金髪の濃ゆい3人の男。
センターで比較的話をリードしているのがリーダー格か。
その横でポケットに手を突っ込んでセンターの男にケラケラ笑いながら同意しているのが2番手か。
ツリ目で強面のクール女子が猫撫で声で残りの男に「ちーがーうーかーらー」と、体をこすりつけている。この2人はカップルか。
4人組で珍しくない組み合わせである。

大体関係性を把握するとどんな会話がなされるのか答え合わせ気分で見入ってしまう。

あぁ…これが嫌なんだ…。
だから見たくなかったんだ。
私は下世話だから勝手に決めつけてドラマを描いてしまう。
なんて歪んだ性格だろう。

帰ったとばかり思っていた他の客の迷惑なんて関係ありません的振る舞い四人衆を横目に妄想が膨らむ。

基本買う気ないセリフが連発される。
「ダサい」「ウケる」「ありえない」

既に一着腕に掛けている私はこれらの言葉が矢のように刺さる。

(俺、買うよ…)

とにかく店内の古着の匂いと彼らの強烈パヒュームが絡み合ってマスク越しでも臭い。

年齢を重ねるごとに匂いや音に敏感になっていった私にはあまり使いたくない言葉だが、「スメルハラスメント」

離脱すればいいのだが、彼らの人目も気にせず手を叩いて馬鹿騒ぎしている会話が気になって仕方ない。離れられないのだ。

花火大会は最後に盛大に乱れ打ちして幕を下ろす。
彼らも一足も二足も早い納涼花火大会を古着屋でぶちかまして今度こそ去っていった。

私の当初の見立てで間違いないだろう。
ただ、センターのリーダー格の男がふと一人になる時があったのだが、とても静かにハンガーを右から左へ動かしていた。
買う気あったの?それ、さっき貶してたテロテロ生地のシャツだよ。

緩急を目の当たりにするとちょっとした親心になるのだ。フフン的な。
騒げるのも一人じゃないからであって、一人になったら意外とお行儀が良くなるから面白い。
一人でも騒いでいたら本物だ(同時に危険だ)

梅雨前で小麦色に焼けた肌が少し寂しげであった。

私は腕に掛けていたシャツをレジに持っていった。
やっぱり私は一人で買い物する方が楽だな。

そして、この人間観察といえば響きの良い趣味だが実のところは意地悪で下世話な妄想ごっこという悪い癖を止められない己に嫌気がさすのであった。




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