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タジキスタン・パミール再訪記6 〜ドゥシャンベ散策・前編 シュグニー語で行こう〜

2023年4月23日(日)、私はタジキスタンのドゥシャンベ国際空港に無事到着し、宿に辿り着いた。今日はこれから遅めの昼食をとって現地SIMを入手し、本屋に行ったり市内散策したりする予定である。

食堂探し

宿を出て、まずは宿の人に教えてもらった食堂と思しきところに向かったが、宿の人の言っていたとおり今日は休みのようだったので、さらに駅方面に歩いて食堂を探した。

宿の前の道。壁の向こうに客車の屋根が見える。
宿の前の道。駅方面から振り返る。
上の写真とほぼ同じ場所。ナウローズ(ペルシア暦新年=春分の日=3月21日頃)のお祝いの幕があった。

程なくして、何となくタジク料理っぽいけれども何となく営業してなさそうなレストランに行き当たった。お店の扉は一応開いていたので中を覗いてみると、おじさんが二人話をしており、こちらに気付くとやはり今日は休みのようで「明日」と言われた。

ドゥシャンベ駅方面への道。扉は開いていたけど休業日だったレストランの近くあたりだった思う。

さらにもう少し歩くと、ジョージア(サカルトヴェロ)料理店があった。こっちは営業中のようだったが、どうせならタジク料理が食べたいのでパスした。もしここで食べていたら、朝に続いてのジョージア料理になっていた。

ジョージア料理店

食堂とシュグニー語

そこから更にもう少し歩いたところで、ひょっとしたらタジク料理かもしれない店を見つけたのでそこに入った。席に座ろうとしたところ、カウンターの近くにいた店員のお姉さんが電話に向かって

「ソーズ、バシャーンド」

と言った。

(ん? シュグニー語?)

私は一瞬驚いた。「ソーズ、バシャーンド」はシュグニー語でよく使われるフレーズで、直訳すれば「良いです、素晴らしい」となる(意訳するともっと軽いニュアンスになると思う)。この店員のお姉さんはパミール出身のシュグニー語話者なのだろうか? パミール行きタクシー乗り場も近いとはいえ、まさかドゥシャンベの食堂でシュグニー語を耳にするとは。。。

かなり気になったが、こちらからお姉さんに話しかけるだけのコミュニケーション力は無いので、そのまま席に座った。

料理は、カウンターの中のおばさんが「これを食べていけ」的な感じに鶏のグリル的なものを勧めてきたので、かなり量が多いなと思いつつもそれを注文した。例によって、食べるのは途中からややしんどくなった。

件の店員のお姉さんは、他の店員さんとはタジク語で話をしているようだったが、お客によっては「ヤデート(お入りください)」とシュグニー語と思しき言葉を使っている(知り合いの人だろうか?)。ふと気付くと、店の中では小さな男の子も手伝いをしていたが、件のお姉さんを「ナーン」(お母さん)というシュグニー語の単語で呼んでいた。この男の子はお姉さんの息子さんのようだ。そして、お姉さんがシュグニー語話者であることはほぼ間違いなさそうだ。

お会計の少し前に、お姉さんが話しかけてきたので、思い切ってシュグニー語で

「トゥット・アズ・ポーメーロー?(パミール出身ですか?)」

と訊いてみた。すると、やはりパミール出身とのことだった。

お姉さんとその息子さんとは、シュグニー語でしばし歓談をした。私は二人に、パミールが好きでシュグニー語を勉強している、明日パミールに行く予定だ、といったようなことを話した。その後支払い(80ソモニ=約1000円)を済ませ、やや名残惜しい気持ちで店を後にした。

ドゥシャンベでの昼食

お金を無心される?

ところで、この食堂で鶏のグリル的なものを食べている時、これを勧めてきたカウンター内のおばさんがタジク語で「お金、60ソモニ」的なことを言ってきた。支払いなのだと思って60ソモニ(約750円)を渡したが、どこかコソコソとしていたというか、どうも代金を受け取るという雰囲気ではなかった気がする。後でパミール人のお姉さんに支払いを言われた時、「あの人にもうお金を渡した」と言おうとたが、言語力不足とおばさんの側の知らんぷりとでうまく通じなかった。

どうも、おばさんにはお金を無心されていたようである。が、まあ良いかと思った。

現地SIM購入

食堂を後にし、現地SIMを入手すべくドゥシャンベ駅近くのTcellショップに行った。

Tcellは前回も使ったキャリアで、タジキスタンにいくつかあるキャリアの中でどうしてAさんがTcellを勧めたのかなどということは全く考えていなかったのだが、今朝アルマトイでタジキスタンのSIMについて調べていた時に、Tcellがアーガー・ハーン財団系のキャリアだということを知った。

アーガー・ハーン財団は、パミール人の主要宗派であるイスマーイール派(ニザール派)のイマーム(精神的指導者)であるアーガー・ハーン四世殿下の率いる財団で、パミールで最も重要なNGOである。敬虔なイスマーイール派ムスリムのAさんも多分その関係でTcellを勧めたのだろう。

私も、パミールに興味を持ったきっかけ、および興味を持ち続けている大きな理由の一つは、イスマーイール派への関心であり、イスマーイール派ファン(?)として今回もTcellのSIMを買うことにした。アーガー・ハーン財団系なのだからパミール方面での通信に強いかもしれない、という期待も少しあったが、タジキスタンの国情を考えると必ずしもその限りではないかもしれない、とも思った。

ドゥシャンベ駅。駅前にはトロリーバスがたむろしていた。
ドゥシャンベ駅前の通りの歩道

SIMショップとシュグニー語

オフライン地図での場所とは少しだけ違う場所にあったTcellショップに入ると、店内は店員のお姉さんが一人いるだけだった。

お姉さんは電話をしており、「チレタ?(どうしてる?)」とシュグニー語と思しき言葉を発したところでこちらに気付いて電話を置いた。

(ここでもシュグニー語?)

先述のとおりTcellはアーガー・ハーン財団系なので、店員さんもひょっとしたらパミール人かもしれない、と淡い期待はしていたのだが、まさか本日二度目のシュグニー語(もし私の聞き違いでなければ)である。

私は「サロェーム」とシュグニー語風の発音でお姉さんに挨拶をし、「バヒーヒェート、スィム、ホーイホム(すみません、SIMがほしいです)」と拙いシュグニー語で言った。

お姉さんのほうからは特別な反応は無く、英語でプランの説明を始めた。プランはどれにしようか迷ったが、199ソモニ(約2500円)で30日間有効の15GBのSIMが良いかなと思い、半分独り言のような感じで

「ショーヤド・イド・モルド・フォールト」

と言った。「私には多分これが良いです」と言いたかったのだが、「フォールト」(好む)ではなくて「ボーフト」(適する)と言うべきだったかも、と後から思った。

私はもっぱら(拙い)シュグニー語で話し、お姉さんはもっぱら英語で応えていたが、ともかくもコミュニケーションは成り立っていたようである。スマホも無事ネットにつながるようになり、お姉さんにシュグニー語で「コロギ・ビスヨール」(どうもありがとう)と言ってショップを後にした。

店員のお姉さんに後でどう思われたかは不明である。

お金を無心される? その2

Tcellショップを出て少し歩き、大通りの反対側にどこから渡ろうかと考えていると、一人のお兄さんが話しかけてきた。

お兄さんとタジク語で少し話をすると、「ヒソールから来たが、帰るお金が無いので50ソモニ(約600円)くれないか。バクシーシだ」といった趣旨のことを言われた。

バクシーシは、ペルシア語で「赦す」という意味の動詞「バフシーダン(bakhshīdan)」の名詞形「バフシシュ(bakhshish)」が語源で、ペルシア語好きとしては微妙に気になっていた単語なのだが、実際にバクシーシという単語を生で聞いたのはこれが初めてだった。(なお、シュグニー語で「すみません」「ごめんなさい」を意味する「バヒフ(baxhkhixh)」も、この「バフシシュ」がシュグニー語風に音変化したものである。)

また、ヒソールはドゥシャンベの西にある町で、要塞の遺跡がある観光地でもあり、私も今回パミールからドゥシャンベに戻った後に行きたいと思っていた場所である。

お兄さんのお金が無くて帰れないという話が本当なのかどうかはわからないが、「本当は困っていない人にお金を渡すことを避ける」ことよりも「本当に困っている人にお金を渡さないことを避ける」ことのほうが大切だと思い(ルーミー関係の若干ニュアンスの似た話を思い出した)、50ソモニを渡した。「バクシーシ」「ヒソール」というキーワードもポイントが高かったのかもしれない。お兄さんは名をラウシャンといい、ヒソールに来たら歓迎してくれるとのことだった。

***

なんだかいろいろ出費したような気はするが、ともかくも昼食もとり現地SIMも入手した。期せずしてシュグニー語を話す機会にも複数回恵まれた。次は本屋に行く予定である。

(続き)

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