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リーンという言葉が生まれた頃にリーンマネジメントした昔話。

題材にした本

細野 真悟さんの「リーンマネジメントの教科書」。簡単に紹介すると、、、日本を代表する企業のマネージャーたちが絶賛する超実践講座を書籍化。驚きのセオリー&明日から使えるツールが満載。とのこと。細野さんはリクルートキャリアで、リクルートエージェントの事業モデル変革に関わった方で元リクの方に勧められて読みました。とても良い本です。

考えたこと

結局、この本で細野さんが言いたいのは「他人と過去は変えられないので、自分と未来を変えていきましょう」ということと「過去や経験にとらわれることなく頭を使い、手を動かしましょう」ということだと理解してます。まえがきにも「会社を変えるのではなく、チームを変える」とあるし、後半はより具体的な事例や手段を解説してくれているので。

で、結論。みんな分かってはいる。でもできるわけではない。

さて、「同じ業界」というのも烏滸がましい(おこがましい、絶対漢字で書けない)くらい規模も知名度も社会への影響も異なるけど、前職は人材ビジネスをやっていました。何年か前に「リクルートエージェントがKPIを見直して、めちゃくちゃ利益が改善した」という話があり、それがどのようなものだったのかも知人を通じて知っていました。それが、この本の著者である細野さんが仕掛けたこと。売上100億アップって規模が恐ろしい。。

本の中身については、それこそ日経ビジネスでも記事になっているので一神教マネジメントやらリーンマネジメントやらの説明はかいつまんで書いても価値を出せないので、切り売りするなら自分の過去の経験だろうと、前職で立ち上げた事業を事例として説明しながら、この本に書かれている内容について読者の皆様にも考えてもらえたらと思います。

事例:2012年に開始した若年層向けの人材サービス

前職で担当していた若年層向けの人材事業を立ち上げたのは入社直後の2012年3月でした。

正確には入社前から人材紹介をやる部署はあって、その部署の人たちの離職と私の入社がちょうど入れ替わりでした。名前すらなかった事業を引き取り、その事業に目的を与え、名前をつけたという形なので、事実としては立ち上げたというか引き取ったというかは悩むライン。小郡商事とファーストリテイリングみたいな関係と言えなくもない、無理矢理こじつけると。

当時の市況がどんな感じだったかというと、以下の図のように2009年に有効求人倍率が0.42 と底を打って、回復はしかけているかなーという感じ。当時は民主党政権で、アベノミクスがはじまる前年です。結果だけみるとはじめた時期が良かったというようにも見えるけど、2013年以降、さまざまな企業が若年層分野に進出しては消えていき、今、それなりの規模でこの市場で価値を出せている会社は一握りなので、必ずしも時期要因だけではないはずです。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201030/k10012687521000.html

このような市況において社会人経験のない若年層の人材紹介事業を立ち上げ、結果的には同分野で国内で最大のサービスにまで成長させることができたわけですが、当時の人材ビジネスは、経験豊富なハイクラス、また専門性の高い職種(エンジニア職や医療系の有資格職)以外はかなりきびしく、人材ビジネス不遇の時代でした。

私がいた会社は入社時点でエンジニア領域(これが祖業)がメイン、医療系の領域でかなりの投資をして事業開発をしておりました。事業について社長と話をしていく中では市場の成長が見込める別領域を打診されつつも、その領域は競合も大きく投資する分野であり、現状の使えるリソース(人員としては私一人、お金も既存の二つの領域で多額の投資しており、余裕はない)を鑑み、選んだのが若年層領域。当時は知らなかったけど、当時の環境から必然的に「リーン」でやることが前提となっていました。

若年層領域で人材紹介事業をしようと考えた際に頻繁に言われたのは「未経験の人をエージェントを使って採用する会社なんていない」「未経験層は手間ばかりかかって儲からないよ」ということでした。この一つ目が本書でいうところの、最初のリスケストアサンプション(最も危険な前提)。

未経験者をエージェントを使って採用する会社があるかどうか

採用にエージェントを使うかどうかは手段でしかなく、結局のところ、一人の採用にかけられる「お金」が、どれくらいあるかという観点で考える。「積み木」としては、その前の会社の採用コストがありました。その会社では求人サイトに毎月100万以上をかけて、コンスタントに月3〜5名程度を採用していたので採用あたりのコストは20〜30万円。この段階ではN=1ではありますが、少なくとも「ゼロではない」。あとは他にもいるのか、いたとして意図的に開拓することができるのか、ということを確認しないといけません。

この確認については人材紹介ビジネスなのでとても簡単にできました。人材紹介はサービスを利用するかの検討フェーズと、実際に料金が発生する紹介フェーズが分かれている点で、「こういう金額感でこういうサービスあったら使いますか?」的な実験を行わなくても、普通にテレアポ一つで自然に簡単ができます。

実際に1日に100件を目標に1週間程度テレアポ(ちなみに30歳過ぎてはじめてテレアポというか営業を経験、新鮮でした)をしてみると話も聞いてもらえない会社がある一方、採用コストとして30万円で検討のラインに乗る会社もそれなりにいました。また前任者時代の取引先でも15〜30万というラインであれば経験問わず採用したいという企業が複数あり、そこはありがたく契約を締結させてもらいました。

「未経験でも採用するよ」という会社を抽象化して

  1. 人手不足の業界

  2. 労働集約型で人がいることで売上が上がるビジネスモデル

の二つを満たす会社はエージェントを使って採用するという仮説が導き出されました。

低価格での人材紹介で収益化が可能かどうか

次のリスケストアサンプションはビジネスとして成立するか、端的にいうと利益が上がり、持続可能な事業となり得るのかどうか、という点です。

当たり前ですが、人材紹介のような初期投資がかからない粗利率が高いビジネスであっても、基本的には最小単位で利益をあげられないと、規模は拡大できたとしてもいつまで経っても収益化はできません(本当に当たり前ですが、継続できればいつかは、、みたいな幻想を抱いている人が意外と多いです)。初期投資がかかる場合はそれがいつ回収されるのか、そこまで持ち堪えられるだけの資金的な余力があるかどうかも大事になってきますね。

まず考えるべきは最小単位においてビジネスが成立するかどうか、人材紹介ビジネスであれば一人の担当者の業務において収益が上がるか、もしくは、一人の候補者の成約において収益が上がるか、という観点での仮説検証が必要です。

私が立てた計画は簡単に書くとこんな感じです。

  1. 1日8時間の中で候補者との新規面談に充てられるのは4時間(根拠なし)

  2. 面談(ヒアリングから企業紹介)で1.5時間とし一日2〜3件(計算)

  3. 月間50件の面談に対し、選考に進む方は40%とする(根拠なし)

  4. 20人が選考に進み、内定が出る方は50%とする(根拠なし)

  5. 10名が内定となり、未経験層なので承諾率は80%と置く(根拠なし)

  6. 8件が成約、単価は25万(前の実験から得た料金内)

  7. 担当者あたりの売上は200万となる(計算)

これに対し、かかる費用として

  1. 早期退社の返金分を原価として粗利率は90% と置く(一般的なライン)

  2. 集客にかけられる広告費は粗利の30%(一般的なライン)

  3. 200万円の売上に対し、原価20万、広告費54万(計算)

  4. 広告費を除いた粗利は126万(計算)

  5. 営業の給与3倍の法則を適用すると月収42万、年収500万相当は支払える

ここで初月である2012年4月の数字(少し数字は丸めてますが、イメージとしては大きな違いはない)を見てみると

  1. 前任者時代の登録者のうち、未経験層の方に面談に呼び込み

  2. 結果的に50件の面談を実施(想定どおり実施可能)

  3. 面談した50名のうち、選考に進んだ方は30%程度(思ったより悪い)

  4. 選考に進んだ15名のうち、内定が出たのは8名(仮説通り)

  5. 8名のうち、承諾した方は5名(思ったより悪い)

  6. 5名の平均単価は28万円で初月の売上140万円(単価は思ったより良い)

ちなみに未経験者に絞ったことで他のエージェントがターゲットとしない求職者になったため、集客コストは想定よりもかなりかからず面談あたり1万円を大きく下回っておりました。

仮説通りにはいきませんでしたが、新規事業担当として入社した訳ではなく、入社月の3月はもちろん4月も100%、この事業にコミットできておらず、人材ビジネスどころか営業すら未経験であったことを差し引いて、十分に収益化可能と判断し、5月からは増員していく判断をしたわけです。

まとめ

今の会社の社内読書会向けに急ぎで書いたので後日、わかりにくいところをもしかすると補完するかもです。それなりに反響があれば、後日譚もあるかもね。

はじめたての頃にかいた「これ」の続きになるのか、と思ったけど、これは前々職の話だったので、4年くらい間が空いてますね。

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