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連載エッセイ「弱い自分」第16回「作家に向いていないとわかった日」

ある日、ベテラン放送作家さんと一緒に食事をすることになった。
話が進んでいくと先輩作家は自分がラジオをよく聴くことを話してくれて、それがきっかけでベテラン放送作家さんが担当しているラジオ番組のスタッフになった。

とは言っても作家としての仕事ではなくリスナーからのメールをプリントするだけの雑用だった。でも念願だったラジオの仕事に自分は嬉しかった。
本番前に出演者とともに打ち合わせに参加したり、ラジオの舞台裏を見ることができたりと毎週楽しみで仕方なかった。
だが、人見知りの性格からスタッフさんとはあまり喋ることがなかった。打ち合わせではただ黙って聞いていたり、本番が終わってもスタッフさんと話すタイミングがなく、その場に去ることが当たり前だった。
これがスタッフとの亀裂を生むことになるとはこの時思わなかった。

ラジオの仕事をしてからもうすぐ1年になろうとしていた頃、ベテラン放送作家さんに呼ばれた。
「もうすぐ1年だから。番組を卒業してもらう」
この時自分はすぐに気づいた。
卒業という名のクビだ。
さらにベテラン放送作家さんはこう言った。
「ラジオ番組は積極的に意見をいなければならない。君はあまり話に入っていなかったし、スタッフさんとも話していない」
ショックだった。人見知りという性格のせいで最大のチャンスを逃してしまったのだった。

この時確信した。自分は作家に向いていないと。
このままではまずいと思い、人見知りを治すために帰りのエレベーターの中で近くのメンタルクリニックを探したのだった。

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