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詩「春の川」

一台
また一台を見送って
あれが最後の一台のはずだと
道を渡るところまでは覚えていて
後のことは覚えていない
今となっては
それさえも記憶違いのように
日々はあって

水面に映る影を覗き込むと
見覚えがあるようで
知らない街が見える

朽ちた実がやがて
路上で枯れ果て
雪で染められても
まっさらにはなれなくて

春の路上に
立っているのは
雪とともに解けた
何ものか

文字をなぞって
はじめて知るように思い出す
この川を渡った人の
目が浮かぶ
その目を借りて
見上げた空に
鳥が群れをなして

あの日
道を渡ったわたくしは今ごろ
どこを歩いているかもしれず

鳥が群れをなして
渡っていく
何度も見た景色として
見送る

春の川は
まるで
何事もなかったかのように
空を映し
幾筋もの
光の束を浮かべて
眩しい


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