見出し画像

room キンカザンへ。再び、

一年ぶりにroom キンカザンを訪れることができました。
room キンカザンは、昨年、石巻で開催されたリボーンアート・フェスティバル2019の際に、詩人の吉増剛造さんが常宿としていたホテルニューさか井の一室で、今年いっぱいいつでも見ることができます。部屋の中は吉増さんが滞在していた時と変わらないままあって、本とCDと文具、カメラ、カチーナ人形(?)、クジラの骨なんかが丁寧に並んで、吉増さんが触れていた空気を感じられます。窓や鏡には、たくさんの言葉が鮮やかな色で描かれて、耳をすますと言葉の奥へ奥へと見たこともない世界が開けていくような気がします。

窓の外には、金華山。そして、果てしもない海。

昨年、私がここを訪れた時は9月の半ばで、幸いにも「詩人の家」に宿泊した時でもありました。リボーンアート・フェスティバル2019の期間中、吉増さんが鮎川に滞在し、この「詩人の家」で夕食と朝食をともに過ごすことができたのです。吉増さんのファンである私は、まるでアイドルを追いかける少女のように何も話せないまま、唯々お話に耳を傾けておりました。

フェスのあとも、コロナの影響が出るまでは、頻繁に石巻を訪れていたという吉増さん。

今回、ここを訪れる前に、「石巻 まちの本棚」へ行くことができ、吉増さんのお話を伺うことができました。また、「石巻学」vol.5にも吉増さんが登場していて、金華山は訪れないと決めていたことや恋焦がれるように眺めていた旨も読むことができました。

石巻というまちのなかに吉増さんの気配を感じながら、再び訪れたroom キンカザン。

ドアを開けて、眩い海の光とともに飛び込んできたのは、懐かしい記憶とやはり、吉増さんの気配。

しかし、それはあの色濃い気配ではなく、静かに薄れていく気配です。
滞在していた頃から一年という時間が経っていて、窓ガラスの文字もずいぶん色褪せています。

しばらく、その景色をぼんやりと眺めていました。
それはまるで、牡鹿の光や空気に言葉が同化していく過程を見ているようなのです。

こんな風に、目の前の景色の一部となっていくこと。

一度存在したものは、決して消えることはありません。形を失っても、空や海や葉や空気になっていくことを、窓に描かれた言葉は証明するようで、こうして耳を澄ましていると、金華山と文字が交信し続けた時間に思いを巡らすことが出来るようで…。

まったく、私の勝手な思いなのですけれども。

鮮やかな光は去年と変わることなく、この部屋を照らして、そうしてまた色鮮やかな、吉増さんの言葉がやってくるのを待ちながら、ここを後にしました。

変わらない金華山をまた来年、見ることはできるでしょうか。変わらないということが、実は多くの変化と奥深さを担保していることに気が付きながら。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?