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女が男になりたい瞬間と、男が女になりたい瞬間。

今は良くも悪くもジェンダーが揺らいでいる時代です。女性が男性になりたいと思ってもまったく変ではないし、男性が女性になりたいと思っても不思議ではありません。

ジェンダーについての価値観や考え方はまさに十人十色ですが、かなりの比率で男性になりたい女性、女性になりたい男性が存在するといわれます。

例えば街中でタクシーに乗るとき、若い女性ひとりだと運転手さんからタメ語で話しかけられることは珍しくありません。同世代の男性ひとり客がスーツ姿で乗車したら、まずタメ語で話しかけられることはありません。

セミナーやシンポジウムなどに参加して登壇者に質問するときなども、女性に対する対応と男性に対する対応が違うこともしばしばあります。檀上に上がるような男性からすると、とりわけ自分よりも若い女性よりは知識や見識があると見せたがる傾向が今の世の中でも色濃く残っています。

逆に若い男性が婚活をしたり合コンに参加するような場面では、よほどの社会的なステータスがないと、女性に対して圧倒的に不利な立場に立つことになります。同世代の男女比率の問題もありますが、それ以上に男性たるもの力強く主導権を持たなければならないという、昔ながらの価値観が支配しているからだと思います。

ビジネスシーンにおける服装もファッションに興味のある男性にとっては圧倒的に女性よりも不利であり、これだけクールビズやテレワークが推奨される時代にあっても、男性は基本的に襟付きシャツにスラックスという定番から逸脱することは許されず、女性のように自由なスタイルやカラーを選択することはほぼ困難です。



昨今のジェンダー研究では、X染色体しか持たない女性と、Y染色体を持つ男性との違いは、必ずしも先天的な違いに由来する要素からのみ導かれているとは限らず、文化や教育、家庭や職場を取り巻く環境、社会的や制度や規範によって後天的にあてがわれている要素が大きいといわれています。

女の子が女の子らしいのは必ずしも女性に生まれたからではなく、「女の子」になるように社会的に育てられたからであり、男の子が男の子らしいのは男性に生まれたからという事実からのみ導かれたのではなく、「男の子」らしい考えや行動をとることを期待されて過ごしてきたからだといえるのです。

そうすると、女性が男性になりたい瞬間があったり、男性が女性になりたい瞬間があるのは、多くの人にとっては当然のなりゆきだともいえるでしょう。かつての社会では、女性が男性の要素を持ったり、男性が女性の要素を持ったりすることは、社会的に“逸脱”だとされてきました。

でも、今はもはやそのような時代ではないでしょう。

ジェンダーには、
①からだの性
②こころの性
③好きになる性
の3つの性があるといわれます。

この3つは、必ずしも一致するとは限りません。そして、一致しないことが異常だとか、異端というわけではもちろんありません。

その意味では、女性が男性になりたいと思い、男性が女性になりたいと思うことは、とても健全な心の働きだともいえます。

かつての世の中では、①②③は一致するのが当然で、それに疑問を持つこともなく、「本当の自分」と向き合うこともなく人生を送るのが一般的でした。

その結果、1つでも要素を異にする人は“逸脱”と見なされ、あえて「本当の自分」を隠して社会生活を送る人も少なくなく、「男らししさ」「女らしさ」のステレオタイプの呪縛に一生縛られることになりました。

ジェンダーとは、揺らぎであることが知られています。ある日、ある瞬間、こころの性が変わったり、揺れ動いたりすることは十分にありえ、またそれがもとの状態にもどることもあります。



女性が男性になりたい瞬間。男性が女性になりたい瞬間。これはその人の一生の中でももっとも素直に「本当の自分」と向き合うチャンスに恵まれた瞬間だといえるでしょう。

今はLGBTのことが話題になることも多いです。それはもちろん重要なテーマですし、社会全体が必要な政策課題と向き合っていかなければならないと思います。

一方で、逆にいうとLGBT以外の人は、いわば“単に男性”“単に女性”として、あまり個性や特徴と向き合うことなく乱暴に議論されてしまうことも多いものです。

私は、ジェンダーとはいわば生き物であり、だれでもいつでも、常に変容しうるものだという認識を社会で共有することが大切だと思います。

LGBTは特殊な人、それ以外は単に男と女という乱暴な議論は、もちろん根本から間違っています。どの人も特殊な人などではなく個性を持っており、逆に絶対不変の“ふつうの人”などは存在しないのです。

その意味では、女性が男性になりたい瞬間、男性が女性になりたい瞬間というのは、リアリティとして人間がジェンダーの揺らぎと向き合うとても幸せな機会だともいえるでしょう。

こんな機会、こんな瞬間を、大切に人生を歩んでいきたいですね。

あなたは、どんな瞬間、男性(女性)になりたいと思いましたか?

そして、それはなぜそのようの感じたのでしょうか?

こんな振り返りを通じて、「本当の自分」と向き合っていきたいものです。


学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。