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健康社会学からみたストレス負荷の男女差

日本人の平均寿命は、女性87.14歳、男性80.98歳(2016年)で、いずれも過去最高を更新しています。

ところが、医療技術がどんどん向上して、人生の豊かさを痛感できるようになってきても、男女の寿命の“格差”は縮まるどころか拡がる傾向があります。

自殺率は女性についてはほぼ一定で推移しているのに、男性は1990年代後半から急増していることが知られます。

また、心疾患による死亡率は40代以上の女性で低下しているものの、同年代の男性では高止まりしていることも知られます。

これらに加えて、女性ホルモンが高血圧や動脈硬化に予防的役割を果たすことや、体脂肪率が高く基礎代謝量が低い女性は少ないエネルギーで活動できることなどが、男女差となっているともいわれます。


健康社会学者の河合薫氏は、新刊『面倒くさい女たち』(中高新書ラクレ)の中で、「SOC(Sence Of Coherence)」という考え方を紹介されています。

ひとことでいうと、「困難や危機に対処し、元気でいられるように作用するポジティブな心理的機能」。

河合氏によると、SOC自体の男女差は報告されていないものの、その「リソースの種類や使い方には男女差がある」そうです。

例えば、女性は何でも話すことができる友人がいることが多いのに対して、男性は他人に弱音を吐くことを嫌う人が多い。

同じことを何度も何度も考える「反芻思考」や他人のいい面を見つけようとする「肯定的評価」も、SOCの機能を強化する方向に働くといいます。


「男らしさ・女らしさ」という古典的なジェンダーの価値観が揺らいでいるといわれて久しいですが、それが男女の生き方や行動様式のみならず、それらを通じてもたらされる寿命の“格差”にも影響しているというのは、鋭い問題提起だと思います。

人生100年時代となった今日、「私は絶対100歳まで生きるわ」という妻と、「俺はそんなに長生きしなくてもいい」という夫の会話を耳にすることも少なくないかもしれませんが、「他人にも自分にも寛容に慎ましく生きる」とか、「決して他人に甘えずに自力でたくましく生き抜く」といった価値観自体が、ジェンダーによる規範に染められているといえるでしょう。

もとより価値観は人それぞれですが、「他力を求めず今を全力で力強く生きる」という男性的なジェンダー価値観は、男性自体を苦しめたり苛んだりする可能性があるだけでなく、女性に対して支配的で抑圧的に働く可能性も指摘されています。

ぜひ、河合氏が紹介されるようなSOCの概念にも学んで、男女ともに分かち合いながら人生100年を謳歌できる生き方を目指していきたいものですね。


学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。