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「ぶつかりおじさん」はなぜエスカレートするのか?

都内の駅構内などを中心に、すれ違いざまの女性にわざとぶつかるおじさんの存在が、社会問題とされています。

数年前から新宿などでは問題視されていましたが、最近のYahooニュースにも取り上げられるなど、実態は変わっていないようです。

こんな困ったおじさんのことを「ぶつかりおじさん」と言うそうですが、意図的にタックルをするような勢いで体当たりしてくるのは明らかに犯罪で、暴行罪に問われてもおかしくありません。

サンダルやヒールを履いて歩いていたり、重いキャリーバックを引いていたり、小さな子どもを連れていたりするときなどは、単なる悪ふざけではすまないほど危険であり、バランスを崩して第三者を傷つけてしまう可能性もあります。

ぶつかりおじさんは若いおとなしそうな女性を狙い、男性でも小柄で温厚そうな人はターゲットになるようです。その意味では、“弱者”ばかりを狙い撃ちする点でも卑劣な行為だといえるでしょう。

これだけ問題視されているのに、ぶつかりおじさんは姿を消すどころかニュースになるほど増長しているのでしょうか。私も何度か新宿で目にしましたが、今のご時世、減るどころかむしろ増えているように感じます。



ある分析によると、ぶつかりおじさんには明らかな共通項があります。

年齢層は40代、服装はスーツ姿、職業はサラリーマン(管理職)、家族構成は既婚者、そしてストレスを抱えた疲弊した表情をしている。

要は、日本の典型的な中間層のサラリーマンですね。そして、ターゲットにあうのは20~30代のカジュアルスタイルの女性。10代の若者や、あまりに派手な格好をしている女性は狙われにくい。

ここから、ある推測が成り立つでしょう。つまり、典型的な男性が、典型的な女性をターゲットにしているということ。

小柄な男性が狙われる場合も、カジュアルな服装の人が多く、スーツ姿の場合は狙われにくいことからも、そうした想像ができるでしょう。

身体もココロも、疲弊しきった「中年のおじさん」。彼らの病理は、スカートやワンピースを着て、サンダルやヒールで歩く、典型的な女性を襲うのです。

だから、いわゆるビジュアル系の若い女性や、男性と同じような制服を着た人は狙われにくい。



彼らは、(おそらく)男であることに疲れているのです。大学を出て、それなりの企業に就職し、動きにくいスーツに身を包んで、昼夜仕事を頑張って、配偶者や子どもを扶養し、住宅ローンを背負い、管理職になるくらい働き続けてきた。

でも、時代は変わりました。いわゆる典型的な男性のライフスタイルは、女性が男性と同じように働き活躍する社会になったことにより、間違いなく地盤沈下しているのです。

だから、彼らは(潜在意識の中で)典型的な女性たちのことを疎ましく思うのです。昔の女性と違って、今の女性は実力があるし、行動的だし、経済力もある。今までの何十年に渡る男としての人生が、彼らの中で無力感に苛まれているのです。

男性とは違って笑顔でコミュニケーション豊か、ファッションも色とりどりで、固定観念にとらわれずにぐいぐい前進できる。そんな女性たちの存在が、心の中でうらやましく感じられるのかもしれません。



素直に女性的なスタイルを好感的にとらえ、女性的な行動様式やファッションを学び取り入れるという方法もあるはずです。でも多くの中年男性は、よく分からないプライドがそれを許さない。これは、病理の根底にあるのだと思います。

男性が定型的なスーツ姿をやめて、女性的な要素を取り入れたカジュアルスタイルで仕事をしたら、おそらく「ぶつかりおじさん」は激減すると思います。それくらい、ファッションには人の気持ちや行動に影響を与える力が宿っています。

私は男性の格好もするし女性の格好もするので、ある程度は経験に照らしてリアルに感じ取ることができるのですが、社会は基本的に性別というファクターを第一順位に他者を認識するように仕組まれています。保守的な土壌が根強い日本では、なおのことです。

このような環境においては、男性はより男性的に、女性はより女性的に見せるような同調圧力が強く働きます。人は、人格形成の中で男性的な要素と女性的な要素の両方を獲得していくので、それは見た目と中身がどんどん乖離していくことをも意味します。



女性が、思い切って男性の格好をしてみたら。戦後しばらくの日本ではありえなかったことですが、今の時代は当たり前のように男性的な姿をした女性が闊歩しています。それは、女性の社会進出の加速という国の理念にも符合しています。

それでは、男性が思い切って女性の格好をしてみたら。内心、女性になりたい、そこまでいかなくても女性の格好をしたいと考える男性は少なくないものです。でも、なぜか、「男は女の格好をしてはいけない」という同調圧力はまだまだ根強いです。

結論から言えば、男性が女性の格好をしても、何の問題もありません。それどころか、それまでは気づかなかったさまざまなことに気づき、素直に学ばされることになります。

「ぶつかりおじさん」の存在がどれだけ怖いのか、身をもって認識させられます。同じ人間が、男の格好をしていたらぶつかられなくて、女の格好をするとかなりの確率でぶつかられるのですから。



今の時代に合わなくなった男性特有のビジネススタイルやスーツ文化を問い直して、男性が適度に女性的なカルチャーを受容することができれば、深い病理に苛まれた「ぶつかりおじさん」たちを解放させることができるかもしれません。

夏の暑い季節は、涼しげなカットソーにワイドパンツ姿で仕事をしてみたら。私は本気でそう考えています。おじさんたちの“仮想敵”を認識を変えるには、自らのカルチャーを変えるのが一番ですよね。

危険きわまりない「ぶつかりおじさん」が没滅することを心から願っています。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。