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女だから「女装」を楽しむ時代・・・

雷が鳴り響く豪雨が収まったと思ったら、真夏のような厳しい暑さ。きっともう梅雨明け。
こんな時代ですが、昨年は夏がかなり短かったから、今年こそはしっかり満喫したいものですね。

最近はたまにファッション誌を見るのですが、『STORY』8月号(光文社)に上野千鶴子さんのインタービュー記事がありました。
上野さんといえば、2019年の東大入学式祝辞や『おひとりさまの老後』で有名ですね。あの奇抜なファッションと女性学の権威としての存在感がオーバーラップして、やはり見る人の印象に残る方だと思います。

インタービューのタイトルは、「「セレブな専業主婦になりたい」娘に語る言葉」。『STORY』が40代のミセス向けのファッション誌ということもあって、高校生前後がボリュームゾーンのその娘を意識したテーマ。
今の若者たちの間では、確かに専業主婦志向も強いといいます。女性の社会進出が加速することでより上昇志向が強い人が増える一方で、その反動として「専業主婦」という生き方を選びたい人も増え、二極化しているのかもしれません。

上野さんの回答は、ずばり「専業主婦になるのはリスクが高すぎる」。統計上、男性の年収はかなり減っているから、「セレブな専業主婦」は狭き門。それ以前に、年収上位の男性の多くは仕事中心で自己中心的だから、その妻は一生「女子マネ」を務めなければならない。
男性の価値基準も変わり、エリート男性ほど「良妻賢母」ではなくエリート女性を求める傾向が強くなっているという上野さんの見立ても、とてもリアルで興味深いですね。



次のテーマは、「女らしさ」。
「女らしさ」と思われることが嫌ではなく、素直に嬉しいという女子高生の声に対して、上野さんは「女らしさ」は「一生ナンバー2に甘んじます」宣言みたいなものちとバッサリ回答。
妻として母として「女らしさ」を背負って生きることに犠牲がともなわなければいいけど、今の日本ではそういった仕組みになっていないと解説します。
個人的には、女性であれ男性であれ、自分自身が周りから「どう見られたいか」という欲求への価値観は人それぞれなので、「女らしさ」を否定するのはややもすると偏ったものの見方ではないかと思いますが、社会学者として女性学を極めてきたお立場からすると、否が応でも男女平等の壁となっている社会の構造への視点に重きを置かれるのかもしれません。

それはそれとして、私がもっとも目を惹いたのは、“「女らしい」はバカらしい 「女装」は楽しんで”という見出し。
普通「女装」というと男性が女性の格好をすることを指すと思いますが、上野さんのあえて女性がより女性らしい格好をすることを「女装」と呼んでいます。この視点はとっても面白いし、ある種の本質を得ているなと思いました。

女性にはさまざまなコーデがありますが、やはり相手の目線や常識を意識すると、仕事やデートといった場面ごとにそれらしい格好をする必要があり、なかなか個性を自己主張する服を着るのは困難。そんな「不自由」をあえて役割演技的に楽しむのが、「女装」なんだと上野さんはいわれます。
もっとも典型的な「女装」が和装だというお話しは、感覚的にも良くわかる気がします。あえて不自由で快適でないどころが動きにくくて仕方がない着物姿を装うことで、自分自身がある意味変身して非日常を演出することができ、その姿をみて周りが褒めてくれたり笑顔で話しかけたりしてくれる。この変身の効果は偉大ですし、あえていうなら「女らしさ」を創るという意味で「女装」かもしれません。



社会の構造としての「女らしさ」には「一生ナンバー2」甘んじる危うさが付きまとうけど、「女らしさ」を服飾として装う「女装」にはあえて不自由さをリアルな役割演技に置き換える威力がある。
「女らしさ」を構造と表象に分けて、あえて表象の部分に大きな意味があると指摘される上野さんの見方は、とても深いし今の時代の構図をリアルにとらえていると思いました。

ひるがえって、男性はどうなのでしょうか。きっと男性にも「男装」という側面があるでしょう。男性の場合はそれを装うことで、社会性や権威性を強化してきたのが今までの世の中だったと思います。その意味では女性の「女装」とは真逆の効果かもしれませんが、これからの世の中への見取り図はどうなのでしょう。いろいろなことを考えたりします。
女性の「男装」、そして男性の「女装」。こんな視点について、ただ単にファッションやサブカルチャーとしてではなく、社会の構造と表象との関係やその変遷という見取り図でとらえることは、なかなか奥深いことではないかと思いました。

上野さんも、「男子と女子の意識のギャップは大きくなっている」と語られますが、保守的な志向が強い男子たちががこの先未来に向けてどんな変化をみせていくのかが、「女らしさ」「男らしさ」の将来を占う大きなバロメーターなのかもしれませんね。

学生時代に初めて時事についてコラムを書き、現在のジェンダー、男らしさ・女らしさ、ファッションなどのテーマについて、キャリア、法律、社会、文化、歴史などの視点から、週一ペースで気軽に執筆しています。キャリコンやライターとしても活動中。よろしければサポートをお願いします。