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合同捜査:地球から来た女



〇スミレ・サクライの休日の過ごし方

 警視庁マーズジャパン公安部外事課、スミレ・サクライは久しぶりの休日を満喫していた。有休消化だ。リビングには最新鋭のゲーム機。ボーナスをはたいて買った大型ディスプレイ。この日に備えて食糧やドリンク類も確保してある。これから三日間は自宅に引きこもり、ゲームに興ずる。話題のゲーム『カンセコ・サッカー』の謎を解くのだ。クセの強い、いわゆるクソゲー。この〝苦行〟を終えて〝ご褒美〟である謎の動画ファイルへアクセスする。スミレは心躍躍らせながら、ハードのスイッチを入れる。

〇クリア特典は

 スミレはゲームをプレイして驚愕する。すでにクリアされている! 今時珍しい、新品のディスクタイプのゲームなのに!
 驚きもつかの間、クリア時の〝ご褒美動画〟が再生された。
『このゲームの通信機能は秘匿性高くて優秀なんだよ……。久しぶりだな、サクライ警部補、いや今は警部だったかな』画像なし。音声のみ。……この声には覚えがある——
 量子AI:マルコム・マクラーレン。
「おい」銃を構えるスミレ。
『そんな物騒なものはしまってくれ……、肌身離さず持っているのか?』
『……反射的にな。まあ、プログラム相手に効果があるとは思えんが……何の用だ?』
 かつて、ネオヤクザの幹部の殺人事件に関与したとされ火星製の量子AI。しかし、それは政府主体でプログラムされた他の、地球製量子AIの犯行と発覚。マルコムの犯行と見せかけ、マルコムが運営する貨物用の量子テレポート設備を凍結に追い込むのが主目的だったのだ。それが2年前のこと。経済的に急成長を遂げる火星連邦をけん制するためであった。
『スミレ。君たちにはオンギがある。私の未来を守ってくれたオンがな。何と言うのか、カリを返すためにこうして連絡を取った次第だ……。スミレ、
君は命を狙われている。
カブラギグミのことは覚えているな』

〇新たなる脅威?

 カブラギグミ。麻薬の密売で有名な地球の反社組織だ。その魔の手は火星のダウンタウンにまで及び、勢力を拡大させていた。マーズジャパン公安部はこれ以上看過できないと判断し、スミレは地球の協力者とともに組織の解体に手を付けることになった。何とか解散にまで追い込んだが、カブラギグミ残党はその責任をスミレに求めて報復を試みているそうだ。
「要は逆恨みだな。この仕事についていれば、そういうことはままある」
『だが、それを手引きしているのがCIAとNSAだとしたら……
「おいおい。それなら、私の暗殺は隠れ蓑と言うことになる。ヤツらは、地球側は何を企んでいる? またあんたの設備絡みか?」
『不明だ。それを君に調べてほしい。私への攻撃、ウイルスアタックも秒ごとに激しくなっている。以前の地球型量子AIが使用していたものとは、全く別のタイプのものだ。今の所は対処できるが、今後、敵はどのような手を使うか分からん』
 仮にマルコムが支配される事態に陥ると……。スミレは青ざめる。以前、地球の量子AIはカブラギグミに量子テレポーテーションを使用させ、ドラッグを瞬時に密輸していた。
 それと同じことが、いやそれ以上のことが……。なぜ、地球は火星をコントロールしなければならないと思い込んでいるんだ。火星が地球から独立して100年以上経っているのに。そしてもう一つ気になることが。

〇援軍が来る

「なぜ、私の自宅に連絡をよこす?」
火星側にも、君の職場の公安部に地球側のいわゆるスパイがいるとみている』
「その理由は?」
『敵の正体が不明な以上、ここでこれ以上話すのは危険かもしれない。信頼できる人物に情報を伝えてある
「そいつから訊け、か。いつ来るんだ」地球からの便の到着は、早くても2か月はかかる。
『すぐに会えるさ。君が前に使った方法でな』
「おいまさか」
 量子テレポーテーション。火星側と地球側に送受信室があって、一方の部屋(火星側)でスミレの全データ(細胞やDNA情報を含む)を〝分解〟・スキャン、そのデータをもう一方の部屋(地球側)で受信し、〝再構築〟する。光速のレーザー通信で行われるため、〝移動〟の時間も短縮される。しかし、〝分解〟されて光速で〝移動〟するゆえにリスクもある。
元の形、すなわち〝分解〟された人間が元通りに〝組み立て〟られる保証はない。スミレは2年前、ネオヤクザの幹部の殺人事件に際、マルコムの力を借りて、地球に出向した。その時は成功したが、いつ事故が起きるか分からない。あの時はただ単に運が良かっただけかもしれないのだ。
『つい先ほど、この件を話したら即決だ。危険も法律違反も無視するそうだ。そして、仮に君が殺された場合、この件は彼女が引き継ぐことになる』

〇合同捜査、再び

 チャイムが鳴る。スミレは確信していた。モニターで確認しなくても分かる。ドアを開けると彼女がいた。
FBI捜査官、アマンダ・ショウです……。久しぶりね、スミレ。ヤマグチの件から2年ぶりかしら」かつての地球の協力者。
「まったくあんたはもう……バカなのか」
 友が来てくれた。自身が築き上げたキャリアや命を失うリスクを冒して。ハグする二人。
「……また一緒に歌おう。〝パッセンジャー〟を」
「〝Doo Doo Doo Doo Doo〟もな」
火星と地球の和解のカギを握る二人。二人は再び、二つの母星を揺るがす陰謀に立ち向かう。その先にはどんな風景が見えるのか? 量子のAIでも解析不可である。

1971年 日本・アメリカ・カナダ合作 配給:ユービックファクトリー



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