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オモシロ老害 アリアル・戸巻のはた迷惑な好奇心




〇しょうがないわね。おじいちゃん。

 太陽系を実質支配する一大コンツェルン、アリアル・コーポレーション。その総帥であるアリアル・戸巻は加齢を理由に第一線を退いたが、もちろんそれは表向き。実際のところ、裏から口ばかりではなく、時には手を上げたりもする。会社の名前に自身の名前を付ける人間の自己顕示欲を侮ってはいけない。このご老体、政界まで影響する影響力と有り余るほどの資産を利用していつでもやりたい放題。はた迷惑な鶴の一声で、振り回される周囲の者は見ていて気の毒だが、傍から見ているとこれほど面白いものはない。ではその思い付きの一部を紹介しよう。

〇事件簿その① どっちが強い

 戸巻は好奇心が旺盛だ。それは成功を収めた人物に共通する傾向だが、戸巻のそれはタガが外れている。
 あいつとあいつ、戦ったらどっちが強い?
 不幸中の幸いで、その対象が人や生物になることはあまりなく、おもに兵器がその対象になる。戸巻は武器の類が大好きなのだ。
 戦車のプラモデルを器用に組み立てながら、側近を呼ぶ。
「この戦車とこの戦車、どっちが強いかこの目でみたい」
側近は凍り付く。子供じみてバカげた考え。だが下手に文句を言うと、どんな仕打ちがくるかわからない。目の前の老人はその一声で、先進国の国家元首を挿げ替えることのできる人物だ。戦々恐々としながら、彼の〝夢〟に実現に奔走することになる。こうして各国自慢の戦車——10式、エイブラムス、レオパルドなど——を集めた「キングオブタンクトーナメント」の開催である。参加人数3千人、死傷者千人強を産み出したこの大会に、戸巻はご満悦。第二回大会の開催をその場で決めた。

〇事件簿その② 俺様が正義

 戸巻は激怒していた。地球の某独裁国家に。自身の欲望や権力を維持するために、国民を飢えさせてまで軍備を増強する彼の国に。
 許せん。戸巻はこの国を亡ぼすことにした。しかし、どうやって? 自前の軍隊を使うのは簡単だ。手っ取り早いし。だが、それでは独裁者に〝屈辱〟を味わわせることができない。自分の名前を出せばすぐに屈服するに決まっている。あるいはビビッて奥に引っ込んだまま出てこないかもしれない。解放までにかえって時間がかかるかも。そこで彼は考えた。戦車でキャノンボールレースを実施させ、その際にその国を乗っ取ってしまえ。もちろん、あとからこっそり援軍を送る……。レースは成功し、独裁者は国民の手によって処刑された。しかし、事を成した後、彼の国を統治する組織を作っていなかったため内乱が勃発。現在も国民通しが殺しあう状況が続いている……。戸巻の方は、もう飽きたのかこの国のことをすっかり忘れてしまった。

〇事件簿その③ ルールは俺が決める。

 太陽系全般において、医療法など複数の法改正が行われることになった。人工臓器やサイバネスティック技術等を人体の治療に用いる場合、生命の維持が困難な場合を除いて、その比率は全体の80パーセント以内に納めなければならない……。通称:人間法である。サイバネスティック医療の発達により、人間とアンドロイドの区別が曖昧になってきたからである。人間と機械の境界線をある程度決めようという働きは、アンドロイドの社会進出による危機感を抱いている人間がかなりの数に上ることを意味している。このままでは、いずれアンドロイドが人類に置き換わるのではないか?
 戸巻は不思議に思う。「別に、いいんじゃねぇ」
 実際、戸巻のその比率は99パーセントを超えている。脳細胞の一つか二つが本人のもので、あとはもう人工物に置き換えている。戸巻は表向き70代とされているが、その実、齢200を超えつつある。戸巻はもう機械でも人間でもないのかもしれない。そして……。
 戸巻は後継者を自身のクローンか、自身に模したアンドロイドに指名しようと準備している。だから、全力で関連法案の成立を阻止し、代わりにとある法案の成立の準備を急いでいる。
「アンドロイドに人権を与えれば、義務として税金の徴取ができる……」
 まさにバカと人権は使いよう。こうして新たな形の搾取と奴隷制が誕生する。

〇好奇心の強いあなたへ

 こうして強欲さを維持し続ける戸巻には、当然のことながら不満分子も多い。しかし、戸巻は気にしない。むしろ好ましく思っている。敵がいるなら、対抗措置がとれる。どんな方法で敵を潰してやろうか。戸巻はほくそ笑み、人生を楽しんでいる。
 なお、何らかの方法で戸巻にオモシロ・アイデアを伝えることができたのなら、もしかしてそれが採用されるかもしれない。実際に地球・日本に在住の少年Y君の思い付きが採用され、『旧式の戦艦大和でも100隻いれば、最新鋭の空母にも勝てるんじゃねぇ?』という企画が進行中。実現に向けて、大和のレプリカが数隻完成したようである。


2052年 米国 配給:ユービックファクトリー

〇配給元からのお知らせ


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