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3年D組 あたおか先生


〇着任

 新しい担任が来る。都内某普通科公立高校、3年D組 橋川元はほくそ笑んだ。今度はどんな方法で追い出してやろうか。気の良い同級生とくっちゃべりながら、筋トレとか爆音サブスク映画祭でも開催しますか。それともクラス全員でニンテンドー千本ノックでもいい。いずれにせよ、授業なんてまともに受けるつもりはない。その価値もないだろう。だったら、無駄な時間を過ごすつもりはない。青春を浪費するのは犯罪だ。大人たちは、俺たちの権利を、未来を守る義務がある。みんなそうだろう? なあ。橋川は隣の席の久保に肩をかける。気弱な男。橋川のポチ。使い走りだ。久保は力無く頷く。久保と同じようにクラスのヤツらも同じ考えだ。お前の泣きっ面を早く見せてくれ。さあ、楽しませてくれよ。
 

〇異形の教師

 その男には異形の圧があった。年の功は50代後半。短躯な肥満体。黄ばんだグンゼのタンクトップ。汗だくの身体。縮れた毛が生え揃った乳輪が透けて見える。落ち武者ハゲのザンバラ髪。落ちくぼんだ眼の光は鋭く威圧感があった。教壇に向かう足取りは重く、一歩踏み出す度に真夏の蒸した空気の歪みが汗の匂いと加齢臭が入り混じって、じっくりとこちらに広がってくる。
「自己紹介をしよう。俺の名は北村みちお……」
 当然、無視だ。いや、好き勝手にやらせてもらう。いつもの儀式のように、3年D組の面々は各々、雑談を始めたり、スマホを覗いてみる。相手がどんな野郎だろうが構わない。やることは同じだ。舐められてたまるか。さあ、学級崩壊の始まりですよ。
 そんな風景を見て、北村は突如拍手を始めた。
 

〇スクールカーストの頂点たちへ

「素晴らしい」と北村は言った。拍手を続けながら。「さすがは、スクールカーストの頂点たちだ。これから続く長い人生において、早い段階でピークを迎えようとするとは。なんて潔い。……まあお前らの人生、後は落ちるだけだな」
「舐めてるのか」ヤンキー枠の栗山が突っかかる。
「もちろん、舐めているよ」北村は前列の生徒が持っていたシャープペンシルを取り上げ、栗山の目にさしてえぐった。
「乾燥してるじゃねえか。ドライアイだな」えぐり取った目を口にして「みなさん、スマホの見過ぎには気を付けましょう」。言い終えると、自身のパンツの中からバカでかいサバイバルナイフを取り出し、刺した。心臓を一突きだ。「安心してください。死んでます」
 

〇地獄絵図

 それを機に北村大暴れ。栗山がとなりにはびらせていた女子生徒の制服を破り、片オツをむんずとつかみ取ってそのまま千切りとばした。次の瞬間、ナイフは頸動脈を切り裂き、彼女は死んだ。そして次の標的へ……。
 北村はまるで一流のアクションスターのように、リズミカルにナイフを捌き生徒たちを血祭りにあげる。
 「あいつ、あたまおかしい……」橋川は怯えていた。失禁してその場にへたり込んだ。次は自分の番だ——。震えが止まらない。
 そして——。
 警官隊が突入してきた。警官のそばには久保がいた。彼が通報したのか? 警告にも関わらず、ナイフを捨てない北村に対して、警官は銃で威嚇する。それでもひるまず北村は、橋川に襲い掛かろうとする。やむを得ず発砲する警官たち——。
 北村みちおは射殺された。
 

〇どこかで……

 新しい担任が来る。都内某普通科公立高校、3年D組 橋川元はほくそ笑んだ。今度はどんな方法で追い出してやろうか。気の良い同級生とくっちゃべりながら、筋トレ、爆音サブスク映画祭でも開催しますか……。橋川は首を傾げる。何となく、デジャブ。前にも経験しているような……。
新しい担任が来た。知っている。おれはコイツを知っている。
「自己紹介をしよう。俺の名は北村みちお……」
逃げろ。だが声にならない。
栗山の目がえぐられた……。みんな死ぬ。いや。俺は生き残るはずだ。なぜなら……。
「久保。お前にはがっかりだよ。お前だけは生かしておこうと思ったのに……」久保の首が飛んだ。北村の手には日本刀が握れられていた。さっきと違うのか……。
 殺される——。
 乾いた音が一つなると、北村の頭がはじけ飛んだ。飛び散る脳髄。スナイパー。警官隊の狙撃犯が一仕事を終えたのだ——。

〇これは誰の?

「素晴らしい」と北村は言った。まだ拍手をしながら。「さすがは、スクールカーストの頂点たちだ……」北村がそう言うと、橋川は我に返った。
これはループだ。タイムループ。同じ時間を繰り返している。俺たちはさっきから何度もこのおっさんに殺されている。ここから抜け出さなくてはならない。じゃないと、永遠に殺され続けるぞ」
「その通り」と北村は言った。「だが、いくつか勘違いをしている」 
 これは俺のループなんだ。お前たちのではない。俺のループだ。そして、おれはこのループを抜け出すつもりはない。永遠に殺しを楽しみたいのでね。
 橋川は悟った。自分は北村の人生の中の単なるモブキャラで消耗品に過ぎないことを。そして、天国と地獄が永遠に繰り返されることを……。
 
 
 
2038年 制作:日本。 配給:ユービックファクトリー


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