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合同捜査:火星から来た女



〇死体が二つ?

 FBI捜査官、アマンダ・ショウは困惑していた。思わぬ大物、しかも死体でのご対面に。
 山口隆史。中華連邦を含む東アジア最大のマフィア、カブラギグミのワカガシラだ。実質組織のナンバー2。LAのスシバーのゴミ箱の中に放り込まれていた。死因は心臓に向けての弾一発。
「他に死体はないの?」部下に問うアマンダ。組織の幹部が護衛もつけずに、食事をするのは考えられない。だが、今の所一人のみ。怪訝に思うアマンダに問い合わせの一報が入る。
 警視庁マーズジャパン公安部外事課、スミレ・サクライ警部補からだ。
「こちらに死体があがった。黒焦げだ。パスポートから地球人だと判明。出国情報があるか確認したい。名前はタカシ・ヤマグチ。カブラギグミのヤマグチだ。DNA鑑定もそう言っている。データを送るから照会願いたい

〇合同捜査へ

 ロスでの死体と火星での死体のDNAは一致した。死後経過も同じ二、三日。同時期にお同じ死体が上がった。二つの場所は遠く離れている。どんなに早い便を使ってもひと月半から三か月はかかる……。マーズジャパンのスミレからの情報提供。我々は以前からカブラギグミの動向に注目していた。ドラッグの密売の件でだ。この一年、火星でのドラッグの蔓延が著しい。前年比の倍だ。販路を広げるため、カブラギグミが関与している可能性が非常に高い。そこで、スミレから提案があった。互いの情報交換を進めつつ、捜査を進めよう。地球側は殺人事件、火星側は薬物捜査を。現地で協力しながら捜査を進めた方が、効率が良い——。双方の上層部もそれに合意する。
 合同捜査である。

〇瞬間移動?

 合同捜査が決定。しかし、それはまだ先の話になるだろう。火星は遠い。光の速さでも3分はかかる距離。マーズジャパンの捜査員が来るまでに、こちらでも捜査を進めておくとして、正直、ヤツらの相手をするのは面倒くさい。自分たちでやる方が早く進むのではないか。
葛藤もつかの間、客人がやってきたとの連絡が。
「警視庁マーズジャパン公安部外事課、スミレ・サクライ警部補でございます。この度は——」
「おい。あんた前からいたのか? 先を読んだ?」

〇量子テレポーテーション

 量子もつれを利用したテレポーテーションだ。とスミレは言った。
「量子もつれ?」
「正直それについてはよく分からない
 要は火星側と地球側に送受信室があって、一方の部屋(火星側)でスミレの全データ(細胞やDNA情報を含む)を〝分解〟・スキャン、そのデータをもう一方の部屋(地球側)で受信し、〝再構築〟する。光速のレーザー通信で行われるため、〝移動〟の時間も短縮される。彼女は量子送受信センターを利用して、火星から来たのだ
「しかしな」とアマンダ。「問題はないのか?」〝分解〟されて移動してくるんだろう。リスクはないのか? それに——。
「もちろん、国際法違反だ」
 通常、貨物などに対して行われる技術で、無機物のみ利用許可がおりている。貨物専用だ。食糧などの有機物でさえ、周囲に与える影響から禁じられており、ましてや人体など……。〝分解〟された人間が元通りに〝組み立て〟られる保証は全くないのだ。
「それに目をつぶるだけの理由があるのさ」

〇裏社会を支配するもの

 火星の裏社会は抗争に明け暮れているという。きっかけはカブラギグミの火星進出。日本のネオヤクザがナノドラッグの販路を拡大するためと言われているが、実の所は違う。侵略を受けているのはカブラギグミの方で、新興勢力に押され気味なのだ。事態打開を図って、幹部の山口が陣頭指揮を執っている矢先のこの事件だ。
「目星はついているのか」
「おみやげは持ってきたつもりだが」
 ホシはAIだ。それも量子コンピューターの。裏社会を捜査している中、スミレは、カブラギグミのシマを荒らす者の痕跡が全くないことに気付く。人が人を始末するなら、何らかの足跡は残すからだ。カブラギグミや他の反社組織も、必死になって情報を探しているが、一向に〝抗争相手〟の正体を掴めぬままだ。ただ一つ、量子送受信センターを除いて。
 抗争が起きる度に、量子送受信センターが稼働し、山口の目撃証言も得られたからだ。山口だけでなく、他の反社組織のメンバーも。
 そして量子送受信センターは、量子AI:マルコム・マクラーレンによって運営されている。

〇疑念

「だからといって、〝犯人〟とは限らないのでは?」憶測に過ぎないだろう。
「だが、少なくとも〝重要参考人〟ではある」手がかりはこれしかないんだ。「これは仮説だが、量子送受信センター内には山口のデータがある。そのデータを使って山口の複製を作って行動させたのでは?」
 山口が死んだことは、裏社会に知れ渡っているだろう。それによって、地球側の反社組織の動きを見たい。とスミレは言う。真犯人がAIなのか、そうではないのか。それではっきりするだろう。
「しかし、なんでAIが犯行を犯す?」AIの反乱? だから上層部が?
「さあ。人類を支配するためかな。裏社会の方が目立たないし、誰も気にしない」
 ともかく二人は協力して捜査を進めることに合意した。
 しかし、アマンダの部下は彼女に新たな情報をもたらす。身辺調査により、スミレ・サクライは幼少期に両親を殺害されている。ジャンキーによって。その中毒者に薬物を売り払ったのは……。カブラギグミである。部下は耳打ちをする。彼女はその復讐のために山口を殺害したのでは? それに、スミレは無事に〝組み立て〟られているではないか。マルコムと組んでいるのはスミレではないのか?

 果たしてアマンダはスミレの相棒となれるのだろうか? 可能性が生み出した想像力が飛躍し、人を疑心暗鬼にさせてしまう。この商売をやっていると、人の善意を信用することが難しくなってくるのだ。

1968年 日本・カナダ・アメリカ共同制作 配給:ユービックファクトリー


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