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夢オチ、ナイトメア


〇夢オチ①

 下澤裕子は追われていた。金髪で碧眼の外国人。屈強な肉体に白ふんどし。手には日本刀を持っている。理解できない言語で奇声をあげ、刀を振り回している。変質者。たまたま目が合ったのだ。反射的に逃げる。当たり前だ。逃げた先は森の中。湿った落ち葉に足を取られて転ぶ。慌てて起き上がる。手足は泥だらけだ。払う間もなく後ろを見る。いない。安堵したつかの間、目の前に男がいた。まるでお約束だ。四肢を切断され、首を刎ねられた。叫ぶ間もなく、裕子は起き上がる。夢だ。脂汗とともに胸を撫で下ろす。

〇夢オチ②

 憧れのニホントウだ。幼少の頃から日本の文化に、特にサムライの持つ刀に心惹かれて、デトロイトからはるばるやってきた。ジェフリー・アークは刀を振ってみる。妖刀ムラマサ。何でも呪われた刀らしい。HAA、HAA、HAAH……。気分が大きくなる。これもマジックソードのなせる業か。次の瞬間、ジェフリーは凍り付く。足元に何かが、ある。首だ、女の首。ジェフリーは腰を抜かし、その場にへたり込む……。ジェフリーは起き上がる。夢だ。脂汗とともに胸を撫で下ろす。非常に生々しい。まだ夢の中にいる様だった。ジェフリーはシャワー室に向かう。目を覚まさなければ。

〇夢オチ③?

 もう少しだ。もう少しでヤツに手錠をかけることができる。ホワイトカラーの爆弾魔
インテリジェンス・ボムマシン向島紀伊をしょっぴくのだ。5年前のサンユウデパート爆破事件。5階建ての建物ごと爆破して死傷者数百人を出した大惨事。俺の妻や息子も犠牲になった。俺はヤツを殺すかもしれない。刑事、木島正はホテルの一室の前に立ってそう思った。その恨みからくる情念から担当を外されたが、眠る時間を惜しみ、非番を利用してようやくヤツの潜伏場所を突き止めたのだ。もう誰も止める者はいない。いきり立つ思いを何とか隠して木島はドアをノックする。
木島は拳銃を構えながら、部屋に侵入する。ベッドに誰か横たわっている。
「起きろ」女が横たわっている。ヤツの情婦か。手を上げろ。声は立てるなよ。その時、女は奇妙なことを言った。
「おばさん、誰?」

〇何を言っている?

 何を言っている? 木島は思わず自身の容姿を確認した。そして慌てて鏡を探す。確かにババアだ。だが、俺はおっさんでは無かったのか。困惑する木島。
「お前何をした?」
 女が悲鳴を上げる。シャワー室から男が出てきた。筋肉質の白人。ふんどし姿で手に日本刀を持っている。
「お前は誰だ?」木島は銃を突きつける。
「俺は黒人だぞ、なんで白人になっている? ここはどこだ。ジャパンか? 俺はデトロイトにいたんだぞ」
「何を言っている?」
 女が逃げようと部屋から出る。しかしすぐに戻ってきた。
「でっかいカメがたくさんいる。噛まれそうになった」
 恐る恐る木島はドアを開く。カメなどいない。いるのは、
「あれはゾンビだ。見間違いようがない」
 こんどはふんどし白人がドアを開く。いや違う。
 部屋の外には宇宙空間が広がっていた。

〇合流

 混乱する3人。木島は二人を何とかなだめて、事情聴取。女は下澤裕子。ふんどしはジェフリー・アークと名乗った。二人とも夢を見ていた。それも悪夢だ。確かにこの状況は悪夢だ。そういえば、木島自身も睡眠不足で常にふらふらしている。いねむりをすることもしょっちゅうだ。木島も夢を見ているのだろうか? 木島は二人に問う。
「テロリスト、インテリジェンス・ボムマシン向島紀伊を知っているか?」
 二人は首を横に振った。

〇まだ夢の中? 誰の夢の中?

 そもそもデパート爆破事件も知らない。いや彼らのスマホを検索しても、HITしない。爆破事件は本当にあったのか?
 3人は議論をし、とある仮説を立てる。
 我々はまだ夢の中にいるのではないか?
 その夢は誰が見ている夢なのか? それとも3人が同時に見ている夢なのか? 同時? 我々はそれぞれ独立した人間だ。自然な形で同じ夢を見ることはありえない。そうなると誰かにこの悪夢を強制的に魅せられているのでは? 何のために?
 3人は部屋の外に出る事を決めた。

〇他の可能性?

 小説家の下澤、量子力学者のジェフリー、そして刑事の木島が互いの能力や知識を分け合い協力する一種のチームもの。
 物語が進むにつれ、3人はもう一つの仮説を立てる。
 マルチバース。
 3人は実存する並行宇宙を何らかの原因で旅をしているのではないか?
 しかし、夢や幻覚の可能性も捨てきれない。
 それは、自分が自分である事を証明するのは案外難しい事に似ているのだ。そして、それが別にどうでもいい事にも……。

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