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シスター・ビッチの館

※以下の文章にはアダルティな表現が含まれる場合があります。ご注意を。


〇〝元気な若者〟たち

 リア充気取りの元気な若者たちは失望していた。本来ならば、最近流行りのキャンプ場で、仲間と共に一晩過ごすはずだった。サマーバケーション。すぐに過ぎ去ってしまう青春のひと時。酒、ドラッグ、SNS……。貴重な時間が無駄に流れてしまう。この雨のせいで。
 記録的な災害級の大雨。バンが路上で立ち往生。ワイパーは用を立たず、まともに運転できない。元気な若者、大学サークルのリーダー格、仕切り屋エリーは提案する。もう日は暮れている。このままじゃ事故るわよ。雨がやむまで何処かに避難しよう。賛成。イングリッドとロイのバカップルが賛同する。早くなんとか二人きりになりたい、と。ため息をつくエリーだか、その時偶然に灯りを見つけた。民家だ。田舎道の一軒家。実に都合の良い。だが、背に腹はかえられぬ。バンは慌ててゆっくり民家に向かう。
 

〇教会?


 その建物は造りからして教会に似ていた。しかし、十字架がどこにも見つからない。激しくドアをノックする一同。ようやく中から人が出てきた。シスター。いや東洋のジインの尼僧に似ている。太った中年女性は面倒くさそうに、こちらを値踏みする。仕切り屋エリーは懸命に事情を説明すると尼は無言で、中へ入るよう促す。
 やはり教会なのか。マホガニー調の長椅子が並ぶホールに案内された。壁によりかかるように、シスターの像が立っている。まあ、ここで一泊しろということね。
 まあしょうがない。この状況で贅沢は言ってられないか。みんないいよね……。見渡すと、イングリッドとロイのバカップルが消えた。さかりのついた犬みたいだわ……。そして悲劇はここから始まる。
 

〇通報したのは……


 翌朝、通報を受けて現場に向かう。あの町はずれの教会もどきの廃屋か。確か、今は誰も住んでいないはずだったが……。
 保安官:ジェフリー・マーブルはその惨状に眉をひそめた。首は刎ねられ、腕はもげ、腸がはみ出た惨殺死体が数体……。それはもはや人間ではなく〝パーツ〟を数える感覚に似ていた。まだ若いのに……。ジェフリーはなんとか吐き気を堪えながら、考える。通報したのは誰だ?
 イングリッドとロイ。尼のはからいによってここに泊ったという。自分たちは別室で寝ていた。今朝になって合流しようとしたら、このありさま。雨の音とお楽しみの最中だったので、何があったのかは分からないとのこと。
 尼? 誰か住んでいるのか? それに……。
「この首は多分、エリー。仕切り屋エリーよ」両目に十字架が突き刺さった首見分。イングリッドは淡々と答える。「あそこの首は多分……」
 男の方は呆けた顔をしているが、女は冷静だ。この状況で。ジェフリーは怪訝に思ったが、証拠はない。まずは、尼を探す事にした。この二人にはまだ町にいてもらう事にする。
 

〇援軍


 証拠の整理のため署に戻ると、客人がオフィスで待っていた。男女の二人組。一人はカマリア・マーダルと名乗った若い女性。バッジによると、FBIの特別捜査員だそうだ。もう一人は恰幅のよい初老の男。神父だ。
ヴァチカンからの紹介だ」とカマリアが言う。「優秀なエクソシストだそうだ」
「エクソシスト? 悪魔祓いでもするのか?」
 その通りだ、と二人はうなずく。今から、今回のヤマは、私の、政府の指揮下に入る。
「悪魔祓いのためにか?」神父ペドロは諭すように、落ち着いた声でいう。
「その通り、生け贄という名の犠牲者がこれ以上増えないように」
 そんな中、現場に残してきた部下から連絡が入る。〝尼〟が見つかった、と。そしてそれは、救援要請でもあった。

〇尼の正体


 ホールの中央に扉があった。隠し階段。地下に続く。血の跡がついている。ジェフリーたち、三人は迷わず階段を降りる。すえた匂いに吐き気を堪えながら。
 そこは叫喚図だった。尼とロイのまぐわいが繰り広げられていた。しかも、ロイの後ろには何人もの尼が順番待ちをしていた。事が終えた尼は立ち上がり、次の尼と交代した。同じ運動を繰り返すロイ。種を受けた尼は股間から卵をいくつも産み出した。卵はすぐにかえり、成長。赤黒い小さな胎児たちが目の前の白骨死体に群がる。まだ目新しい。おそらくはジェフリーの部下だったものだ。
 腹をすかした胎児どもは、めざとく次の餌を見つけた。ジェフリーたちだ。
 応援を。ジェフリーたちは逃げることにした。

〇シスターの像


 息を切らせながら、ホールについたジェフリーたち。一安心もつかの間、突如シスターの像が割れた。中から出てきたのはイングリッドだ。シスターの衣装をまとっている。
「お前たちは〝ロイの子供たち〟の餌になるんだよ」
 シスター・イングリッドはどこからか——二本の手斧の柄を鎖で繋いだ——手斧ヌンチャクを取り出して襲い掛かる。ペドロの首が刎ねられた——死亡。銃を取り出し反撃しようとしたカマリアの手首が吹っ飛んだ——重症。
 ジェフリーは悟る。イングリッドには何らかの目的があり、彼らはまんまと誘い込まれたのだ。
 手斧ヌンチャクをブルース・リーのごとく振り回し、逆さ十字架を手裏剣代わりに投げ飛ばす。悪魔のシスター。この館から生きて抜け出す者はいるのだろうか?

〇お下品

 物語の序盤でアダルティな事をするバカップルだけが生き残る珍しい展開(ホラーの鉄則では最初の犠牲者になることが多い)。しかも、結局はシスターの真の目的は明らかになる事がない。何ともお下劣なB級スラッシャーだ。「ロイは種馬として一級品」。自身の股間をまさぐりながら「神も悪魔も、私のあそこで屈服させてやるよ」といった、一般人なら一生に一度も口に出す事がない言葉がポンポンと飛び出す。当然の事ながら、評論家筋の評判は悪く、ロッテント〇トの評価はまれにみる低スコア。イングリッド役を演じたエルサ・コールは、映画の宣伝のために来日した際、シスターのコスプレでイングリッドの役柄で会見に応じた事も話題になった。……多分いい人なのだろう。

2031年 アメリカ 配給:ユービックファクトリー


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