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姿勢が崩れるのは体のせいだけではない!?Hさんの治療で見えた「姿勢と感覚」の深い関係

注意:
今回は「読み応え」があるかもしれません。いつもよりも長文です。
一度に全て理解する必要はありません。
ご自分に関係すると思われる部分以外は読み飛ばしていただいて結構です。


さて今回は、
ご家族から姿勢を注意され続けている(家族から愛されているお父さん)Hさん
の治療経験を元に、

  • 加齢とともに自分の姿勢が気になりだしている。

  • 良い姿勢でいたいけど、「意識して直す」以外の姿勢の調整方法を知りたい。

  • 自分は良い姿勢だと思っているけど、首や肩・腰に痛みを抱えている。


というあなたに向けて、治療家(整体師・理学療法士・物理学修士)の立場でお話をしようと思います。


意識して姿勢を直すことの限界・弊害


Hさんから「姿勢の直し方」のご相談をいただく

Hさんの治療を開始してから1年程度経過しています。
大変ご多忙な方で(さらに私のスケジュールの空きが少ないこともあり)、
何とか月1回のペースで治療をさせていただいております。

ご年齢は60歳台の男性です。
精力的に活動されている一方、治療開始当初はほぼ全身に問題を抱えておられました。

いろいろな整骨院などで治療を受けられたそうですが、
「良いのは一日くらいで、すぐに元に戻ってしまいます」
と、なかなかお体の改善感覚が得られずにおられたそうです。

現在ももちろん継続治療中ですが、
ある日笑顔で
「あなたは私の体に何をしているんですか?
少しずつ良くなっている実感があるんですよ~」
と嬉しいお言葉をいただいたことがあります。

姿勢や動きも、以前に比べてだいぶスムーズで無駄のない動きに変わってきているように見受けられますが・・・

奥様や娘さんの姿勢の評価は
「厳しいんですよ~」
だそうです(笑)

「また、背中丸まっているよ!
頭が前に出てるよ!
おじいさんみたいな格好だよ!
って、うるさいったらないですよ~」

と奥様や、時には娘さん達から「ご指導」いただいているそうです。

「それも、お父さんへの愛情表現なんでしょうね」
とお答えしていましたが、
今月ついに

「立ち姿や座り方など、
姿勢の直し方について、
私に合った方法を教えてくれませんか?」

と相談していただきました。

ご自分の姿勢など、
自分で自分の体に関心を持ち、メンテナスすることが、
最高の治療の条件のひとつ
です。

もちろん!
と、喜んでお受けしました。


治療後に見られたHさんの姿勢の不思議な現象

姿勢の話をする前に、いつものように
Hさんの現在のお体の評価を行いつつ、
同時進行で手による治療を行いました。

約90分間の治療を終え、
施術台から立っていただいた時の写真がこちらです。

なお、Hさんにご自分の姿勢をフィードバックすることだけを目的とした撮影のため、見づらくなっております。
ご了承ください。

左の写真です。すっきりとした美しい立位姿勢ですが・・・
ご本人は「ふわふわ」と感じています。

「いやぁ~気持ち良かったぁ~」
というお言葉があったので、

今立っていてどんな気持ちですか?
とお聞きすると

「なんだかふわふわします」

とのこと。

その後、30分ほど奥様のお体についてのご相談をお受けしている間、
Hさんはコーヒーを淹れる(大変美味しかった!)など、台所で作業をされていました。

そして、Hさんの姿勢について解説をすることとなりました。
その時、同じ場所で、
Hさんが思う「良い姿勢」で
立っていただいた時の写真がこちらです。右側の方です。

左が治療直後の「ふわふわ」状態
右が30分後の「良い姿勢」を3つの画像で示しています

かえって姿勢が崩れていない?
と思われたあなた!

正解です(笑)

でも
「よくわからないなぁ~」
でも大丈夫。

「姿勢を見る」
ことは、実は難しいことで、専門的な知識と経験を要します。

さて、右側の写真の3つをもう一度ご覧ください。
まず左は写真そのまま載せています。
その右隣りは、姿勢の中心と思われる部分を赤い点線でつなぎました(厳密ではありませんが)。
その右側に、同じ赤い点線に沿って、体のモデルを配置しました。
だいたい、Hさんとモデルの図は同じ姿勢になったかなと思います。

Hさんが感じる「良い姿勢」を少し細かく解説しますと、

  • お腹が前に出ています。

  • 肩を張っています。(写真ではわかりませんが)2つの肩甲骨の間の距離が短くなっています。

  • そのため体幹はのけ反り、顔は少し上を向いています。

  • のけ反り姿勢のため、自然に降ろした手も少し前に位置しています。

  • また、のけ反った姿勢が転ばないように、膝が曲がり、足の位置が後ろに偏っています。

写真不鮮明で申し訳ないのですが、これがHさんが感じる
「良い姿勢」
です。

施術直後の「ふわふわ」と、今の「良い姿勢」を、
この写真を使ってご説明しました。

「えーーー!?」
と驚かれるHさん。

「猫背の時も老けているけど、こっちも老けているね」
と(手厳しい)奥様。
「こっち(ふわふわ)の姿勢になりなさいよ。できるんだから。」
とも奥様言っておられましたが・・・

「ふわふわ」しているため、
治療直後の姿勢にどうしても戻ることができません。
実際の写真がこちらです。

左は治療直後の「ふわふわ」
右は何とかそれに合わせようとした努力の結果ですが・・・

お腹のでっぱりは修正されていますが、
全体的に身体が前に傾いていて、
治療直後のすっきりとした姿勢とはだいぶ異なります。
ご本人も「楽な姿勢ではない」とのこと。

筋肉や骨などの組織には何も変化は起きていないのに、
なぜこのような現象が起きるのでしょうか?

これが、今回の重要なテーマです。


Hさんにお願いした姿勢自己調整方法(動画)

「まずは試してみよう」と行っていただいて結構ですよ。
ただし、
強い痛みを感じたり、不快感を感じたりしたらすぐに中止
しくださいね。

https://youtu.be/QlZemHKVekE

以下にその理由を記載します。
何事もそうですが、原理原則を理解して行うと効果が倍増します。



「姿勢を整える」とは何なのか?

「良い姿勢」はすでに最高の自己メンテナス

「良い姿勢とは・・・」と解説するサイトはたくさんあります。
そして、良い姿勢とは体が○○となっている状態という解説もたくさんの種類があります。

原則的にひとつの姿勢なのに、
表現がたくさんあるのは面白いですね。

良い姿勢となるためにはまず何をするか?

私は一般の方には、
「鏡の前に立って、『あぁいい姿勢だな』と思う姿勢になって、その感覚をリラックスして楽しみましょう」

と説明しています。

鏡の前でいい気分にひたるも善し
街中で映る自分の姿をチェックするのも善し


姿勢調整は実は
次のレベル
があるのですが、それは後述しますね。


そして、良い姿勢でいることによる効果には以下のようなものがあります。

  1. 腰痛の軽減

  2. 頭痛の軽減

  3. 自信の向上

  4. エネルギーレベルの向上:疲労感を感じづらくなる

  5. 運動能力の向上: 怪我のリスクを減らし、パフォーマンスが向上する

  6. 肺活量の増加

  7. 循環と消化の改善

  8. 顎関節症の改善

  9. 背が高く見えるなど「見た目」が良くなる


良い姿勢は、無駄な筋肉の活動が無くなりますから、それにより痛みが軽減したり、エネルギー効率がよくなったりする。という論理ですね。

また、内臓の位置が適切になることで代謝や消化もよくなるのも納得です。
胸が広がりやすくなれば(縮みやすくもなる)、肺活量が向上し、それがまた健康を促進しますね。

良い姿勢であることは、
それだけで
ご自分の健康効果を高める
「最高の自己メンテナンス方法」
ですね!

参考サイトです。



ヒトはどうやって姿勢を調整しているのか?

では、ヒトはどうやってその姿勢を調整しているのでしょうか?

まず大事なポイントは、

「無意識で行われる」

ことです。

姿勢を意識することが無意味という意味ではありませんが、
意識が強すぎて、
良い姿勢から逸脱してしまう方
が多いのも事実です。

「姿勢の調整は本来無意識」

という事実はぜひ知っていただきたいことです。


では、どのような機能を使って姿勢を調整しているのでしょうか?

それは、例えるならば「複雑なセンサー制御システム」によって行われています。

このシステムは、以下の3つの情報を使います。

  1. 視覚:目で見た情報。歩行者が街を歩いているとき、周囲の建物は垂直に整列して見え、通り過ぎる各店舗は最初に視野に入り、その後視野から外れるなど。歪んだ場所にいると酔うのは、視覚の情報に惑わされるからですね。

  2. 固有感覚:立っているなら足の裏の感覚。さらに、関節や筋肉からの情報。内臓の重さの感覚も含まれます。

  3. 前庭系:耳の中にあります。頭の位置の変化の情報を主に扱っています。「めまいがするから耳鼻科へ受診する」のは、これが理由です。

その感覚の情報を処理して、統合し、体へ命令を出しているのが

であり、脳の中の
「無意識」
の場所で自動的に調整が行われています。

これを我々専門家は、
「自律的な姿勢コントロール」
などとよんだりしています。
ちょっとカッコいいでしょ?(笑)

でもその中身は底なし沼の様に深く難しいのですよ・・・

ちなみに、私の理学療法士の養成大学の卒論テーマは、
「なぜ人間は片足立ちを失敗するのか?」
でした。
これもヒトの姿勢に関わるテーマですね。


Hさんの姿勢調整ミスの原因とは?

では、なぜHさんは姿勢の調整がうまくいかなかったのでしょうか?

治療直後は、大変美しい姿勢で立っておられましたので、関節や筋肉に痛みなどの問題はないと考えます。

眼鏡をかけておられますが、バランスを調整するための視覚情報を得ることに何の問題もありません。

めまいなどの症状は以前はありましたが、現在はありません。

ということは・・・?

残った
「固有感覚」
という”一番よくわからないもの”が怪しいですね。

Hさんの固有感覚について解説します。

本来良い姿勢でいる時というのは、
「ふわふわ」していて良い
のです。

一番筋肉や関節に負担が無い姿勢ですから、
一番リラックスできているのです。

良い姿勢に慣れている方は、
「ふわふわ」

「気持ちいいなぁ」
と感じています。

しかし、Hさんは
「気持ちよくない」「なんとなく不安」
という感覚なのだと想像されます。

「猫背にならないようにしないと!」
「腰が曲がらないようにしないと!」

という意識が強い方は、
肩の後ろ

背中
の筋肉が縮まっている感覚や、
その部分の皮膚が寄っている感覚
が脳に届くことで

「よし!私は今良い姿勢をしている!」
と安心するのです。

その感覚の情報に頼ることに慣れすぎると、
本来の良い姿勢による
リラックス感

不安に思ってしまうのです。

どうでしょうか?
お分かりいただけましたでしょうか?


さて、私はそんなHさんにどのような姿勢調整方法を指導すれば良いのでしょうか?
「ふわふわしていていいですよ」
なんて言っても、Hさんは戸惑うばかりです。

「この状態が良い姿勢」と感じられる、
何らかの”手掛かり”が必要だからです。

前述の鏡を使って姿勢に慣れる。
方法でも良いのですが、
「努力家のHさんにはいずれできる!」と判断し、
もう少し効果的な方法を指導することとしました。

なお、適切な方法であれば、ヨガやピラティス、日本古来の武道も身体感覚の再教育や姿勢調整に有効とされています。


カギは「寝返り」と「頭の重さを骨盤で受ける」

なぜ寝返り動作なのか?

赤ちゃんが生まれてしばらくすると
寝返り動作
をしますよね?

「うつぶせができたー!」
と喜ぶのもつかの間、
「うつぶせになって窒息したら大変!」
とかえって目が離せなくなっちゃうあれです(笑)

寝返り動作を赤ちゃんが行う理由とは?

と聞かれたら多くの方は、
「筋トレ」
と答えるかもしれません。

「あれは、身体感覚の統合をしているんだよね」
と答える人はごく少数です。

はい、あなたも今日からその少数の仲間入りです(笑)。

赤ちゃんが左側へ寝返りをする時に感じる感覚を以下列挙してみましょう。

  1. 上へ突き上げた右腕の重さの感覚

  2. さらに上へ付きあげると、自分の右肩が床から離れる感覚

  3. 自分の上半身を支える場所が、徐々に左側へ移動する感覚

  4. 自分の体幹が捻じれていく感覚。右の腰が上へ引っ張られる感覚

  5. 右足を上へ上げたときに、引っ張られていた腰が左へ回転する感覚

・・・以下省略しますが、こんな感覚を
毎回毎回
左右どちらにも
さらに、視覚情報の変化も感じながら

赤ちゃんの脳はどんどん自分の体についてお勉強をしていくのです。

そして、これは赤ちゃん時代だけのものではありません。

私たち大人にも、
この学習システムは、
立派に残っています。

ご自分の身体感覚のズレを修正するのに
使わない手はない!
という方法です。

ゴロゴロしましょう!(笑)

参考になるサイトです


再掲(動画)

ただし、正しいフォームでないと効果は半減してしまいますので注意して頑張りましょう

https://youtu.be/QlZemHKVekE


頭の重さを骨盤で受けるとは

頭は体の中で大変「重い」部分です。
成人で約 4~6kg もあります。うつむくだけで、頭の重さ の数倍の負荷が首にかかります。 首が前に傾くほど首の骨にかかる負荷は増え、 もっとも姿勢が悪いと 27kg にもなるそうです。

逆に言えば、それだけ頭の位置の傾きは
「感じやすい」
ともいえます。

立ったり、座ったりした姿勢で、
頭をゆっくり、傾けます。
方向はお任せします。
すると、傾けた方向へ頭の重さが移動することを身体で感じられます。

感じられないですか?
はい。私も最初はわかりませんでした。
ですので、少し練習が必要です。
最初のうちは、頭を極端に大きく動かして、
重さを感じる場所が大きく変化させて感じてください。

そのうち、
「どこにも傾いていない場所」
が見つかると思います。
そのまま、ご自分の頭の重さを感じてみてください。

支えている場所が骨盤になっていませんか?
丹田の方がわかりやすい方もいるかもしれません。
「赤ちゃんが入っていた場所」の方がわかりやすい方もいるかもしれません。
その場所です。
その場所にあるとき、
あなたは美しい姿勢になっているはずです。

どうぞ、よろしければ、寝返り動作をした後に、頭の位置探しをしてみてください。

うまくできるようになると、
自分の身長が高くなった気持ちになったり、
歩くときに自分の体が軽い感覚を楽しむことができます。

急がず慌てず、練習していきましょう。

最後に

今回は実は難しいテーマでしたので、長文となってしまいました。
大変お疲れ様でした。

最後にまとめをさせていただきます。

  1. 良い姿勢には健康効果がたくさんあります。

  2. 姿勢の調整と感覚情報には深い関係があります。

  3. Hさんに指導した姿勢調整方法は、寝返りエクササイズと頭の重さを感じる方法でした。これらの方法は、身体感覚を再調整することで、姿勢のギャップを小さくすることができることが期待できます。


お話は以上です
最後までお読みいただきありがとうございます

私は文章にするのが苦手ですが、
できるだけ伝えたいことを書いてみました。
もし間違いや不明な点がありましたら、
ぜひコメントやメールで教えてください。
喜んで加筆修正いたします。

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