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脳裏整頓 小説 vol,11

感覚と価値

「あっちい。」
「そうだね。」
「なんでせっかくの夏休みに学校なんかに行かなきゃいけないんだよ。」
「それは青くんが赤点なんてとるからでしょ。」
「マジレスやめて。」

8月上旬 青くんは補習、僕は美術部の課題で学校に行った帰り道。
いつもと変わらない日常。

「そういえば、今日朝テレビで戦争についてやってたな。」
「まあ八月だもんね。」
「そうだな。」
「僕はなんか苦手なんだよね。」
「戦争が?」
「いや、戦争というか戦争の話題っていうのかな。」
「どういうこと?」
「なんかこの手の話題だと、決まって命を大切にとか当時に生きたがっていた人の分までみたいなまとめになるでしょ。」
「まあな。」
「なんかそれが違うと思うっていうか。」
「というと?」
「僕も戦争の悲惨さとか二度と戦争をしてはいけないっていう事を未来に伝えるのは賛成。でもそれと命の価値を結んじゃいけないっていうか・・・」
「なんか難しいな。」
「そうかな。」
「ちょっと公園で休んで行こうぜ。」

僕たちは公園のグリーンカーテンの下のベンチに腰掛けた。

「僕は戦時中だろうが今現在だろうが、死ぬ時には後悔が少なからず残ると思うんだ。」
「人によるだろ。」
「そうかもしれない。 だとすると戦時中だってやりきったって思って亡くなった人だっているはずなんだ。」
「そうなるな。」
「それを戦時中ってだけでみんな後悔してるって決めつけるのは逆に失礼じゃないかな。」
「なるほどな。」
「それに命は自分で価値を決めるものでしょ。」
「かっこいいこと言うな空。」
「やめてよ。」
「でもなんかわかる気がする。」
「他人がどう思うかで生き方選んでたら、それこそ恥ずかしいよな。」
「そう、そう言うこと。」
「あとね。」
「まだあんのかよ。」
「もう一個だけ。」
「缶コーラな。」
「じゃあ久しぶりに駄菓子屋行こっか。」

「戦時中のものが見つかって例えば手紙とか、それらを読んで感動するのはいいと思う。でもまるで自分が体験したことのように感動するのは違う気がするんだ。」
「また難しいな。」
「その手紙は手紙の書き手と受け取った人しかその感動も心も分からないでしょ。」
「もっと簡単に言ってくれ。」
「そうだな、今青くんが飲んでるコーラの美味しさは飲んでる青くんにしか分からないでしょ。」
「何言ってんだ、空だって飲んだことあるからわかるだろ。」
「なんていうか、もちろん僕だって飲んだ事があるからなんとなく想像はできるよ。でもね、補習を朝から頑張って暑い帰り道を歩いて帰って僕に奢ってもらったコーラの美味しさは僕には分からない。それは青くんだけの感覚だから。それを簡単に分かった気になる人が苦手というか嫌い。」
「そんな言う?!」
「だって相手のことを簡単にカテゴライズしすぎだしきちんと考えていない気がする。」
「空は難しく考えすぎだよな。」
「そうかな、でも青くんに話せたおかげで僕自身も考えが纏まったよ。ありがとう。」
「そうか、ならどういたしまして。」
「じゃあ帰ろうか。」
「このまま空んちに行っていい?」
「いいけど。疲れたなら帰ったほうがいいんしゃない?」
「いや、さっきの補習中にやった事忘れる前に課題やりたいから。」
「そっか。じゃあ早く帰ろうか。」
「本当に分からないやつは写させて。」
「全くもう! だから補習になるんだよ。」

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