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【短編】 双子のダンス

 ゆかりとゆりかは双子ではないが、顔や、背格好や、服装の趣味などがそっくりだったので、双子になることにした。
 二人が一緒にいると、喋るタイミングや、笑うツボも全く同じで奇跡としかいいようがない、と教授は思った。
 教授は遺伝子の研究をしている学者だが、実は二人が働いているメイドカフェの店主でもある。
 だから研究者の本能で、DNAの一致率が血縁関係を示していないのであれば、二人がこれだけ似ている理由は何なのかを追求したくなる。
 しかし、もしDNAの一致率が一卵性の双子を示した場合、彼女たちは実は本当の双子だったという、極めてプライベートな問題に土足で踏み込むことになる。
 なので教授は、彼女たちのゲノム解析をしたいという欲望を殺し、ただのメイドカフェの店長として温かく見守ることに決めた。

「ねえ教授、わたしたちが双子になる儀式の立会人になってくれませんか?」
 教授は少し考える素振りをしたが、実は立会人に選んでもらえたことが嬉しくて言葉が出ないだけだった。
「ダメだったらいいんです、同じバイトの子に頼みますから」
 いや、ぜんぜんダメじゃないから、と教授は言って、彼女たちの手を強く握った。

 双子の儀式の当日、メイドカフェには、ゆかりとゆりか、そして教授の三人だけがいた。
 儀式では、二人が自分の気持ちを書いた作文を朗読したり、カラオケをデュエットしたりした。
「では最後に、二人で考えた双子のダンスをします」
 ゆらゆらとした動きの中で、ときおり手のひらを叩くという奇妙なダンスだったが、十回ほど手を叩いたところで突然店内が激しく光った。
「こんにちは、教授」
 まぶしさがおさまって、教授が目を開けてみると、ゆかりとゆりかの間にもう一人、彼女たちとそっくりの女性が立っていた。
「実は、われわれは宇宙人で、われわれの種族はみな同じ顔なのです」
 女性は、驚いた表情をした二人の手を取りながら言った。
「彼女たちは、地球人の別々の母体で産ませた実験体でしたが、無事に成長したので回収に参りました」
 その言葉に、ゆかりとゆりかは笑顔を失い、床にしゃがみ込んでしまった。
「彼女たちは事情を知らないので戸惑うのも無理はありませんが、双子のダンスは、実験終了の合図だったのです」
 教授は、懐からピストルを取り出すと、躊躇なく女性を撃った。

 言い忘れていたが、教授は、「ピストル使いの教授」の名で恐れられる殺し屋でもある。

(2021/10/09新作)

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