マガジンのカバー画像

その他の不思議な小説

70
分類できなかった話。
運営しているクリエイター

#少女

【短編】 セルフカットがおすすめ

 私の髪の毛は、この九十年で十メートル以上の長さになっていた。    髪を切ってくれる店へ最後に行ったのは九十年前の十五歳の頃だし、その店はきっともう無いだろうと思っていた。 「中華飯店の娘娘です。出前のご注文ですか?」 「あの、髪を切って欲しいのですけど、中華飯店なら無理ですよね……」 「いえ、うちの店長は九十年前にカリスマ美容師だったみたいで、髪を切って欲しい人が電話してくるかもしれないと接客マニュアルに書いてあって、その」  電話の向こうにいる店員は、興奮気味にそう話す

【短編】 廃校と少女と、午後の音楽

 とくに何もすることのない午後、僕は真っ白なCDから流れる音楽を日が暮れるまで聴く。  真っ白なCDは、広い体育館の中にディスク剥き出しのままで無数に積みあがっており、どれも題名や音楽家の名前は書かれていない。  体育館は、廃校になった学校の校舎とセットになっているものをゼロ円で買った。  周辺に誰も住んでいないから不動産としての価値が低く、無数にあるCDという廃棄物の処理に困ってゼロ円という価格になったようだ。    学校を買ってから三年後、校内を歩いていると、廊下に髪がボ

【短編】 アイドルオーディション

 心の醜い少女は、毎日、花に水をやります。  ある本に、花を育てると心が美しくなると書いてあったからです。 「毎日、あたしにお水をくれてありがとう」  蕾がほころびはじめた花は、心の醜い少女に感謝を伝えました。 「これからあたしは花びらを開いたあと、次の種をつくって枯れていきます。今度はあなたが花を咲かせて下さい。それが、あたしの願いです」  そのとき、強い風が吹いて、一枚の紙が少女の顔に貼り付きました。 「あら、アイドルオーディションのチラシですね。これから花を咲かせる、今

【短編】 空想少女と空腹少女

 空想少女は、ポテトチップスを食べていた。  でも、割れたポテトチップスの尖った部分が歯茎に刺さって、血の味がしてきた。 「普通はポテチが歯茎に刺さるなんてありえないでしょ? でも、すごく面白いからアイデア採用!」  パソコン画面の前でそう興奮気味に喋っているのは、空想少女の小説の作者。  でも当の少女は、口の中の痛みや、勝手に空想でいろいろやらされる馬鹿らしさにうんざりしていた。 「少女は、出血した口の中を携帯で撮影し、ポテチの会社に苦情のメールを送った。すると一週間後、そ

【短編】 カプセル

 朝の海岸で、少女の入った透明なカプセルを見つけた。  カプセルを軽く叩くと、少女は眠たそうに目をこすった。  そこで私は何事かを話かけてみる。おはよう、大丈夫なのか、君は誰だ、とか頭に浮んだことを。  あるいは、こういう場合、相手は何者かという質問にはあまり意味がないのかもしれない。  相手がもし宇宙人だったとしても、私には驚くことしかできないし、その事実を受け入れるしかないのだ。 「ここはどこ?」   カプセルの中の少女が最初に話した言葉がそれだった。とても基本的な問いで

【短編】 昼寝のシャルロット

 家の前に女性が倒れていたので、体をゆすってみたら、彼女は目を半開きにしながら大きくあくびをした。 「すごく眠いので、あなたの家のソファを貸してくれませんか?」  よく見ると、彼女は高校生ぐらいの女の子に見えた。 「すごく眠いので、あなたの家のソファを貸してくれませんか?」  彼女は、壊れた機械みたいに同じことしか言わないし、全然起き上がらないので、とりあえず家の中へ運んだら、居間のソファをに倒れ込んで眠ってしまった。  それで私が毛布を掛けてやったら、眠りながら毛布をたぐり