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500ペソのフェイクにひっかかった件

フィリピン人の知人のお宅にお邪魔していたら、「500ペソの新デザインが出た」という話しをしているようです。へえそうなんだ、知らなかった。

いや、でもちょっと待って、それはなかなかハードな話しなのでは?

なぜならフィリピンの黄色い500ペソの現デザインには、反マルコスを掲げていた活動家・政治家で、空港でなにものかに暗殺されたニノイ・アキノ氏、そしてその妻で、マルコスを国外に追放することになった1986年のピープルパワー革命の象徴となり、大統領をつとめたコラソン・アキノ氏の肖像が描かれているからです(長い)。二人はノイノイ・アキノ前大統領の両親です。

フィリピンの500ペソ紙幣に描かれた2人のアキノ氏(拡大)

紙幣に描かれるほどですから、国のヒーローとして選ばれたのでしょう。すくなくともニノイ・アキノは、もう一つ前の紙幣デザインから続けて500ペソの「顔」となってきました。「アキノ派」と「マルコス派」のようなかたちで分断がつづいているこの国で、このデザインを変えるというのは、政治的な意図を感じる、なかなかチャレンジングな転換です。

ネットをさっと見たら確かに、フィリピンメガネザル(Philippine tarsier)を描いた500ペソ紙幣のデザインがあふれていました。えー、おさるさんに変わるの?

でもそれにしては、周囲があまりにも静かです。議論や反対運動はおきていないのかなと思い、調べてみました。そうしたら……なんと500ペソが新しくなるという情報はフェイクニュースでした。やられた!

画像とともに「フェイクです」と伝えるFBの画面より

新しい1000ペソ紙幣が出るのは事実で、第二次世界大戦中の3人の英雄のデザインから、国鳥フィリピンイーグルのデザインに変わるそうです。その新デザインとならんで、すごくよくできた「メガネザルの新500ペソ紙幣」のフェイク写真がSNSで広がっていました。

現地の報道をみると、おそくとも、1000ペソのデザインが発表された昨年12月には、新500ペソの話題がネット上で広がり始めていたようです。

フィリピン中央銀行がFBで公開した新1000ペソ紙幣のデザイン

日系のまにら新聞ウェブによると、フィリピン中央銀行は、新しい1000ペソのデザインは、フィリピンの豊かな動植物を紙幣の裏側に描くシリーズの「第一弾」だと話しているそう。これはこれで、なぜ英雄の姿を消してしまうのか、という疑問と批判の声があがっています。

フィリピンイーグルは南部ミンダナオ島のダバオに保護センターがあるなど、ドゥテルテ大統領のおひざもとのダバオのイメージが強くあります。個人的にはそれも、なんとなく気になります。

さらに新1000ペソは、紙幣の原料も変わるそうです。これまでは日系フィリピン人も生産にかかわってきた特産のアバカ麻を使っていましたが、プラスチック素材にかわるのだそう。プラスチック紙幣のほうが、コロナのような感染症のおりにも、より清潔を保ちやすいという主張のようですが、「伝統をないがしろにしている」との批判があります。

新しい1000ペソ紙幣の導入は、「アキノ」の姿を紙幣から消すための序章なのでは、との声も報じられています。500ペソのデザインをアキノからメガネザル(かなにか)に変更することは、たしかに「なきにしもあらず」な感じがします。

報道をみてみると、1年半前には「500ペソの肖像がアキノからマルコスへ」というフェイクニュースまであったようです。(上は記事リンク)

んー、いろいろあってもうついていけません。フィリピンのメディアは、ちまたに広がる話題の「ファクトチェック」を頻繁にやっています。うその情報は、うっかり信じてしまうような力があり、広がりやすいからこそでしょう。

フィリピンがいかにフェイクの話題でもちきりか、わたしも、あらためて思い知りました。


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