見出し画像

Mリーグにおける同巡内振聴の扱い


1. Mリーグとプロ団体の「規則的」な関係

 Mリーグの公式戦ルール(以下、Mリーグ規則)は、最高位戦日本プロ麻雀協会の競技規定(以下、最高位戦規則)によく似ている。また、両者は日本プロ麻雀協会の競技規定(以下、プロ協会規則)にも近い。とはいえ、一応は同じ「麻雀」をしているのだから、仮に三者の規定内容が殆ど一致していたとしても、それ自体は不自然ではない。しかし、三者を比べた際に目立つのは、規定内容そのものというより、構成や言葉遣いの酷似である。本当にそうなのか気になる読者は、是非、実際に目を通してみてほしい。
 構成や言葉遣いを比較しつつ時系列に鑑みれば、Mリーグ規則は最高位戦規則を基にして作られたと見て、まず間違いないだろう。しかし、筆者はそのことを取り立てて問題にしたいわけではない。なぜなら、競技規則の書き方に独創性を求める必要はないし、既に優れたものが存在するならば、それを参考にするのは当然であるからだ。にもかかわらずこの話題に言及した理由は、寧ろ、次のことを読者と共有しておきたかったからに他ならない。すなわち、仮にMリーグ規則に何らかの難点が見つかったとして、それはMリーグにおいて初めて生じたのではなく、別の場所で生じたものがそのまま複製されているだけの可能性が高い、ということである。無論その際、Mリーグにとっての別の場所——恐らくは最高位戦日本プロ麻雀協会——もまた、同じ難点を更に別の場所から複製している可能性がある。

  • 追記:最高位戦規則は2023年1月に全部改正された。それを踏まえて、本記事で最高位戦規則と称するのは改正前のものであることを断っておく。

2. 同巡内振聴の規定を巡る一致

 ここで「そう言うからにはMリーグ規則——乃至は最高位戦規則——に難点が見つかったのだろう」と予想する読者もいるかもしれない。取り敢えずはそう考えていただいて構わない。最終的にそれを難点と呼ぶべきかどうかは改めて検討するとして、筆者が注目したいのは次の3条項である。

第3章 第6条 取牌行為
1. 取牌行為は次の5種とする。
〔ツモ〕〔チー〕〔ポン〕〔カン〕〔アガリ〕

第3章 第7条 摸打
2. 「摸打の一巡」とは、自己の打牌から次回の自己の取牌直前迄とする。

第5章 第1条 アガリ
4. 摸打の一巡内でのアガリ牌の選択はできない。

Mリーグの公式戦ルール

 Mリーグ規則におけるこの3条項は、いわゆる同巡内振聴を規定している。比較のために述べておくと、最高位戦規則にも同様の3条項(第20条・第21条第2項・第36条第4項)が存在し、5種の「取牌行為」を列挙する際に番号を振っている点と脱字または衍字*(下に註あり)を除いては、Mリーグ規則の3条項と完全に内容が一致する。更に、プロ協会規則にも同様の条項が存在する。敢えて違いを挙げれば、そこでは「摸打の一巡」の定義と「摸打の一巡内でのアガリ牌の選択」の禁止が同一の条項(第33条ニ)に纏められており、また「取牌行為」を列挙する条項(第19条)には「アガリ」を除いた4種しか書かれていない。ただし、各文の言葉遣いは、前述したような番号と脱字または衍字の有無を除けば、三者において全く同じである。
 したがって、次のように結論することができる。つまり、プロ協会規則が「取牌行為」に「アガリ」を含めないことを除いて、同巡内振聴の規定の仕方はMリーグ規則・最高位戦規則・プロ協会規則の間で一致している。

  • 註:衍字とは脱字の反対で、文章に誤って入った不要な文字を指す。衍字の可能性があるのは、最高位戦規則の第21条第2項とプロ協会規則の第19条である。前者では「摸打の一巡」という語句の直前にしか鉤括弧が付いていない。同じ語句の両端に鉤括弧が付いているMリーグ規則とプロ協会規則を基準に考えれば、これは脱字と解釈されるが、仮に最高位戦規則に限ってはそもそも鉤括弧を付けるべきでないとすれば、寧ろ、衍字と解釈されることになる。続いて後者の場合、条項の見出しには「取牌行為」とあるが、本文では「取り牌行為」という語句が使われている。他の両規則と比較すれば、本文の「り」は省略し忘れた送り仮名か、または全くの衍字と考えるのが自然である。しかし、仮にプロ協会規則に限っては必ず送り仮名を書くべきなのだとすれば、寧ろ、見出しの方に脱字が認められることになる。ただし、そもそも「取牌」をどう読むべきかは不明である。

  • 追記:プロ協会規則PDF版では、見出しにも本文にも「取牌行為」が使われている。このPDF版を基準に考えれば、註で俎上に載せたWeb版の表記揺れは、本文における衍字として解釈するのが妥当であると言える。

  • 追記:日本プロ麻雀協会はWebサイトを更新したらしく、2024年5月現在、そこにPDF版は見当たらない。Web版の内容も本記事の執筆当時とは異なっており、実際、見出しにも本文にも「取牌行為」が使われている。ただし、この新たなWeb版とPDF版が規則全体を通じて一致しているわけではない。

3. 常に過ぎ去ってしまう「摸打の一巡」

 三者における同巡内振聴の規定を巡る一致を確認したところで、以下ではMリーグ規則に絞って話を進める。ここで、再度あの3条項を引用しよう。

第3章 第6条 取牌行為
1. 取牌行為は次の5種とする。
〔ツモ〕〔チー〕〔ポン〕〔カン〕〔アガリ〕

第3章 第7条 摸打
2. 「摸打の一巡」とは、自己の打牌から次回の自己の取牌直前迄とする。

第5章 第1条 アガリ
4. 摸打の一巡内でのアガリ牌の選択はできない。

Mリーグの公式戦ルール

 この内、第3章の2条項からは、次の結論が導かれる。すなわち、いかなる「アガリ」の時点も必然的に「摸打の一巡」の外である。なぜなら、第7条第2項で「摸打の一巡」が「自己の取牌」の「直前迄」とされる以上、第6条第1項で「取牌行為」の一つとされる「アガリ」は、常に「摸打の一巡」が過ぎ去った後でなくてはならないからだ。逆に、もしも「アガリ」が「自己の打牌」であると仮定するならば、当の「アガリ」から次の「摸打の一巡」が始まるという意味において、その時点は「摸打の一巡」の内である、と主張することができるかもしれない。しかし、このような仮定は少なくとも不自然であり、実際のところ殆ど無理に等しい。
 以上に基づいて考えた場合、第5章第1条で「摸打の一巡」の内外を問われているのは——それが「アガリ」の時点ではないとすれば——果たして何であるのか。思うに、それは「アガリ牌」の出現時点である。というより、そう解釈せざるを得ない。つまり「摸打の一巡」の内外が問題になるのは「アガリ」自体の時点ではなく、寧ろ、その対象となる「アガリ牌」の出現時点に他ならないのだ。事実「アガリ」の直前に当たる「アガリ牌」の出現時点が「摸打の一巡」の内であることは可能である。なぜなら「取牌行為」の一つである「アガリ」の「直前迄」は「摸打の一巡」とされているからだ。
 ちなみに、最高位戦規則についても同じことが言えるが、プロ協会規則については必ずしもそうではない。なぜなら、後者は「取牌行為」に「アガリ」を含めないため、直前に必ず「ツモ」を伴う摸和はともかく、攏和*(下に註あり)の時点では「摸打の一巡」が続いているからだ。ゆえに、他の両規則とは異なり「摸打の一巡」の内外を「アガリ」自体の時点の問題とすることも可能である。とはいえ、そもそも「取牌行為」という概念を提示しておきながらそこに攏和を含めないことの不自然さは否めない。

  • 註:「攏」はロンの本来的表記とされる。例えば麻雀祭都を参照のこと。

4. Mリーグ規則の難点

 ここまでの議論を踏まえて、いよいよ、あの3条項を難点と呼ぶべきかどうかを検討しよう。ただし、その前に一つ、Mリーグ規則全体に関する明らかな難点を指摘しておきたい。既にお気付きの読者もいるかもしれないが、Mリーグ規則は毎章、第1条から始まっている。そのため、概して条番号だけでは条文を特定することができず、章番号に逐一言及する必要がある。最高位戦規則にせよプロ協会規則にせよ、条番号は規則全体を通して連続しているし、例えば国の法律においてもそうである。Mリーグ規則が章毎に条番号を改める理由は不明だが、筆者としては是非とも改善してほしい点である。
 重要な余談はこのくらいにして、本題に戻ろう。結論から言えば、Mリーグ規則のあの3条項は、同巡内振聴を規定するだけにしては冗長で分かりにくいという意味において、難点である。例えば麻将連合の公式ルール*(下に註あり)では、同巡内振聴は次のように規定されている。

第64条
アガリ形をなす牌が捨てられた時にロンしなかった場合は、次に自分が打牌するまでロンできない。
リーチ者の場合は、その局が終わるまでロンできない。

麻将連合公式ルール

 この条項は同巡内振聴に加えて、いわゆる立直後振聴も規定しているが、いずれにせよ端的で分かり易い。なぜなら「取牌行為」や「摸打の一巡」といった手間の掛かる概念を用いず、かつ過不足なく我々の慣習を記述しているからだ。その要点は、そもそも規制対象を攏和に限定していることにあると考えられる。個々の実用的な規則における表現は、少なくとも原則として、最も簡潔に規定内容を伝えるものであるべきはずだ。つまり、同巡内振聴によって摸和が規制対象となる規則を含めて包括的に議論するような場合でもなければ、同巡内振聴は攏和にのみ関係するものとして扱うことが望ましい。ところが、Mリーグ規則ではそれが実現していないのである。
 しかしながら、あの3条項に矛盾があるとまでは言い難い。表現が煩瑣であることと、そこに妥当な解釈の余地がないことは別である。ゆえに、筆者はMリーグ規則における同巡内振聴の規定を直ちに改正すべきだとは思わない。あの3条項は、飽くまでも表現上の難点として捉える必要がある。

  • 註:麻将連合公式ルールは、内容的に「新報知ルール」と全く同一である【訂:殆ど同一であることは確かだが、内容の異なる箇所も存在する】。「新報知ルール」については、例えば『平成版 麻雀新報知ルール—Q&A付—』(井出洋介監修、報知新聞社、1997年)を参照のこと。

  • 追記:Mリーグ規則は時々改正されているらしく、2023年8月現在、本記事で取り上げた3条項はそのまま残っているが、執筆当時に存在しなかった次の条項が追加されている。

第5章 第5条 振聴牌(フリテン)
3. 「摸打の一巡」(第3章第7条参照)の間に、自己の和了牌が出、その牌でロンをしなかった場合、フリテン(同巡内フリテン)となる。同巡内フリテンは自己の摸打の完了を経て解消される。

Mリーグの公式戦ルール
  • 案内:以下の記事も併せて読まれたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?