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Mリーグと一巡の始点


1. 残された懸念

 先の記事では、Mリーグの公式戦ルール(以下、Mリーグ規則)がいわゆる同巡内振聴をどのように扱っているかを論じた。その中で筆者は、Mリーグ規則の関連条項は同巡内振聴をそもそも発生しようのないものとして規定しているのではないか、という懸念を抱きつつ、結局、その懸念を回避する解釈を提示した。こうして、Mリーグ規則において同巡内振聴の規定が根本的に破綻している可能性は、差し当たり否定されたのである。
 記事の公開から暫くして、Mリーグ規則には同巡内振聴に関する新たな条項が追加された。その内容は非常に簡潔であり、筆者が抱いていた懸念は最早、解釈の工夫によって回避するまでもない。しかし、この問題は、それで終わりではなかった。
 改めて確認しておくと、当時の筆者が懸念していたのは、規定が根本的に破綻している可能性に過ぎない。個々の局面で規定が好ましく機能するか否かを精査するのは、これからである。本記事では、この観点において抱かれた新たな懸念を、読者と共有したい。

2. 規定の抜け穴

 まずは関連条項を引用しよう。2023年9月現在のMリーグ規則で同巡内振聴を規定しているのは、以前に取り上げた3条項と、新たに追加された第5章第5条第3項である。

第3章 第6条 取牌行為
1. 取牌行為は次の5種とする。
〔ツモ〕〔チー〕〔ポン〕〔カン〕〔アガリ〕

第3章 第7条 摸打
2. 「摸打の一巡」とは、自己の打牌から次回の自己の取牌直前迄とする。

第5章 第1条 アガリ
4. 摸打の一巡内でのアガリ牌の選択はできない。

第5章 第5条 振聴牌(フリテン)
3. 「摸打の一巡」(第3章第7条参照)の間に、自己の和了牌が出、その牌でロンをしなかった場合、フリテン(同巡内フリテン)となる。同巡内フリテンは自己の摸打の完了を経て解消される。

Mリーグの公式戦ルール

 この内、同巡内振聴の中心規定は今や第5章第5条第3項と言える。その内容を解釈する上で同章第1条第4項は不要だが、第3章の2条項は依然として必要である。ここで重要なのは、同巡内振聴の規定に未だ「摸打の一巡」という概念が用いられている点だ。
 これらの条項からは、次の結論が導かれる。すなわち、開局から一度も「自己の打牌」を経ていない内は同巡内振聴に問われない。なぜなら、第5章第5条第3項で同巡内振聴が「摸打の一巡」の間に発生した事象を通じて成立するものとされる以上、第3章第7条第2項で「自己の打牌」から始まるとされる「摸打の一巡」に一度も入らない内は、同巡内振聴の成立する余地がないからだ。この抜け穴は、解釈の工夫で埋まる代物ではない。

3. プロ団体の状況

 同様の抜け穴は、最高位戦日本プロ麻雀協会の競技規定(以下、最高位戦規則)*(下に註あり)および日本プロ麻雀協会の競技規定(以下、プロ協会規則)にも存在するが、麻将連合の公式ルール(以下、麻将連合規則)**(下に註あり)には存在しない。プロ協会規則および麻将連合規則については、先の記事の参照を乞うに留めるが、最高位戦規則については、同巡内振聴に関する規定を確認しておきたい。関連条項を引用しよう。

第51条 振聴(フリテン)
1. 以下の3つの聴牌を振聴という。
(2) 同巡内に和了形を構成できる牌がすでに捨てられているもしくは加槓されている聴牌。ここでいう同巡とは自己が打牌を行ってから次に打牌を行うまでと定める。

最高位戦日本プロ麻雀協会競技規定

 この条項には「摸打の一巡」という言葉こそ現れないものの、実質上、その概念が継承されていることは明らかである。つまり、結局「自己が打牌を行って」から始まるとされる「同巡」に一度も入らない内は、同巡内振聴の成立する余地がない。

  • 註:最高位戦規則は2023年1月に全部改正された。それを踏まえて、本記事で言及するのは改正後のものであることを断っておく。

  • 註:麻将連合規則は、内容的に「新報知ルール」と殆ど同一である。「新報知ルール」については、例えば『平成版 麻雀新報知ルール―Q&A付―』(井出洋介監修、報知新聞社、1997年)を参照のこと。

4. 両端と境界

 この問題は、二つの事象が同巡内に発生する、という事態を、二つの事象が一巡の始点と終点に挟まれる、という図式で捉えようとすることから生じているように思われる。例えば、Mリーグ規則は「摸打の一巡」を始点と終点によって定めた上で、ある「摸打の一巡」において「和了牌」の逸失と攏和*(下に註あり)が共に発生することを禁じており、ゆえに、一度も「摸打の一巡」の始点を経ていない内は同巡内振聴が成立し得ない。
 ただし、二つの事象が同巡内に発生する、という事態は、二つの事象の間に巡の境界が存在しない、という図式で捉えることもできる。つまり、例えば「和了牌」の逸失と攏和の間には「自己の摸打」を必要とする、という内容で規定した場合、開局から一度も「自己の打牌」を経ていなくても、同巡内振聴に問われることは可能になる。
 とはいえ、本記事で問題にした抜け穴を意図的に設けるとすれば、始点と終点によって定めた「摸打の一巡」に基づいて同巡内振聴を規定することは合理的である。すなわち、Mリーグ規則において、開局から一度も「自己の打牌」を経ていないとき、同巡内振聴の規定が好ましく機能するか否かは、何よりも規則を制定した者の意思に懸かっている。

  • 註:「攏」はロンの本来的表記とされる。例えば麻雀祭都を参照のこと。

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