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陽炎【エピローグ 喧騒】

し「時間も来たし、出よっか!」

ついに終わってしまった。

部屋を出てエレベーターに乗り込む。

あっという間に出口だ。

ふっと横目に受付のおばちゃんが目に入る。

さっきの威勢のいいアドバイスを思い出す。

高揚感に包まれていたあの時に戻りたい。

一歩一歩出口が近づいてくる。

自動ドアが開くと太陽の光が差し込んでくる。

し「じゃあ、ここで」

別れの時。いつまた会えるか分からない。

しっかりとこの目に焼き付けておこう。

ひ「短い間だったけどありがとう。今日会えて本当によかった。また会いたい」

し「うん、また会おうね」

ひ「辞めちゃったら会えなくなっちゃうから辞めないでよ」

し「じゃあまたすぐ名古屋にきてね」

辞めないよ、じゃないんだ。

辞めてしまったらもう二度と会うことはできない。

長年付き合った彼女に別れを告げられたかのように、胸が締め付けられた。

ひ「すぐ来るからまた会おう」

り「またね」

一生この時間を忘れない。

ありがとうしずく。

嬢と客の関係を超えたいという淡い期待は儚くも散った。

一目惚れし、恋焦がれながらも決して叶わない恋。

それでも全てを捨てて君が欲しいと思わせてくれたことに感謝しかない。

全てを振り払うように早足でホテルを後にした。

後ろを振り向くと、そこにしずくの姿はもうなかった。

夢だったんだ。もう振り返らない。前だけを向いて歩こう。


「じゃあな!」と良一と交わした交差点まで戻ってきた。

そこにはいつもと変わらない日常が広がっていた。

忙しなく歩くサラリーマン。

食べ歩きしながら歩く女子大生。

買い物袋を携え手を繋ぐカップル。

街はいつもの喧騒感に包まれていた。

ホッと安堵する。戻ってきたんだ、この場所に。

空を見上げると快晴の青空が広がっていた。

ポケットからAirPodsを取り出し装着。

スッとノイズキャンセリングが入り、自分だけの静寂が広がった。

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あなたが僕を愛してるか愛してないか
なんてことはもうどっちでもいいんだ
どんなに願い望もうが
この世界には変えられぬもんが沢山あるだろう
そうそして僕があなたを愛してるという事実だけは
誰にも変えられぬ真実だから

♪Aqua Timez 千の夜をこえて

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