サンタクロースに弟子入りした日
わたしの家はサンタクロースがこないエリアにあった。でも、念のため、5才の私はクリスマスの前の日、お正月用の新品の靴下を枕元において寝た。次の日、やっぱり、何もおこらなかった。だから自分でウサギの柄のトランプを靴下に入れた。
小3のある日の帰り道、しほちゃんがたずねた。 「わかちゃんは、サンタクロースに何頼むん?」 「サンタクロースって親のことやで?うちの親はなんもせんけど。」 「えっ?本物のサンタさんやで。うちのお母さんNTTで働いてるからサンタさんの電話番号知ったーるんやもん!!」しほちゃんは、怒って走って家に帰ってしまった。____この日、しほちゃんママは本当のことを彼女に告げたそうだ。このころの私にファンタジーに乗っかる優しさはなかった。 そんなものは5才のときに捨てたのだ。嘘をつく親が悪いし、それを信じる子供も子供だ_くらいに思っていた。
大人になったある日
あれから時は過ぎ__おとなになった私はある街のJapanese restaurant で働いていた。そのころの私は失意のどん底にいた時期であった。異国の地で、着の身着のまま家を追い出されたのだ。住むところを失ったが、たまたま、巡りあったレストランで働くことになった。
そんなある日、仕事場で私の自転車が盗まれた。ポリスレポートを作成していると、常連さんが声をかける。
「自転車を盗まれたのかい?そりゃぁ、災難だったね。 その辺にまだあるかも知れないね?よかったら車で一緒に探すよ。」ボスも薦めることだし、せっかくなので車に乗せていただいた。
「どんな自転車だい?」 「色は赤です。ちょうどあんな感じの。」そういいなら探してみたが、やはり見つからなかった。
翌日のこと
私は次の日、電車で店に向かった。すると昨日の常連さんがやってきた。部下らしき人が赤い新しい自転車を持っている。「ちょっと早いけどサンタクロースがやってきたよ。これは君にだ。」
えっ?!私はとても困惑した。きっと、鳩が豆鉄砲を食らったような顔とは、この時のわたしの顔だ。(鳩だって豆はうれしいだろうが、いきなりでは、身の危険を感じるだろう。)
それを見て、気持ちを察したのかオーナーは、「なにも心配しなくていいのよ。彼は大丈夫よ。常連さんで私の息子みたいなものなの。He is my son.」と優しく微笑んだ。
一瞬でも身の危険を感じてしまった私を恥じた。
申し訳なくて、恥ずかしくて、こんな時、どうしていいか、わからなくなってしまう。
「ありがとうごさいます。新しい自転車なんて小学五年生の時以来です。」顔が熱くなった。盗まれた自転車も古いものであった。この世に裏のない優しさがあることを忘れていた。
やさしさにふれて
そんな私が、サンタクロースからプレゼントを貰うなんて、夢にも思わなかった。サンタクロースは良い子の家にやってくる。わたしはいたいけな少女の夢を壊すような人間なのに。
私は、小3のしほちゃんのことを思い出していた。
あのね、しほちゃん、今日ね。サンタクロースがわたしの所にも来たんやで。20何年分のプレゼントもってきたーたわ。照り焼き丼を食べる、優しいおじさんやったで。
わたしは小3のしほちゃんに、心の中で懺悔した。そして、小3の私にも懺悔した。擦れた少女をつくりあげたのは、私自身のせいなのだ。
サンタクロースは私のところにもやってきて、優しさを伝播していく。
それで、私はいったいどうすればいいの?
傷つくたびに、殻に閉じ籠もり、いまでは、鎧をきているみたいなんだけど、すこし、殻を脱いで、ほんとうの自分で生きたいと思えるようなった。殻からでた私に何が出来るかは、わからない。
優しさを少しずつ誰かに返せるようになったら、あの名も知らぬサンタさんに会いにいきたいと思う。
Merrey Christmas,
赤 和歌子
とんでもないことでございます。