見出し画像

市民の楽しさ:クリエイティブリーダーシップ特論 第9回 関治之さん

このnoteは武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコースの授業の一環として書かれたものです。

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論 第9回(2021/09/06)

講師:関治之さん
関さんはCode for japanの代表やデジタル庁のプロジェクト・マネージャーをされているシビック・ハッカーです。

今回は「Let's Make Our City」というテーマでシビックテックのあり方や、それに関わるご自身の取り組みについてご紹介頂きました。

オープンな技術でより良い社会を作る


 もともと関さんが社会課題解決を意識したきっかけは東日本大震災だったと言います。関さんは仲間とともに、震災の情報を集めてマッピングするプラットフォームを震災当日に立ち上げました。当日にサイトを立ち上げられたのは、オープンソースを利用したからだと言います。このサイトはネットを通して多くの反響や協力があり、ボランティアの情報共有などに使われたといいます。

 一方で、インターネットが使えなかったり電波が届かない現場で、直接的に被災者の役に立っていない場面もあり、次のような疑問が生じ始めたといいます。 

「技術は人を幸せにするのだろうか?」

 フィルターバブルなどが倫理的な問題となったり、テックジャイアントが格差を助長している側面が見られるなど、必ずしも技術が人々の幸福に繋がるわけではないのではと考えるようになったといいます。 この問いと向き合ううえで、重要なのが、次に見るような技術をいかに使うのかの視点です。

「伽藍」と「バザール」

共創のシステムを考えるうえで参考としてあげられたのが、エリック・レイモンドの「伽藍とバザール」です。

伽藍とバザールのメタファーでオープンソースソフトウェアの開発スタイルを評価したエッセイ
https://cruel.org/freeware/cathedral.pdf

伽藍(大聖堂):綿密な計画、堅牢な設計、中央集権、長いリリース期間
バザール:変更を受け入れる、自律的な小集団、早めに細かくリリース
 
伽藍モデルの課題には以下のような課題があり、オープンソースのソフトウェア開発は「バザール」的であることが理想だとされます。

伽藍モデルの課題 
・変化に弱い
・一つの組織にノウハウが溜まる
・利用者側は手を出せない


そしてこれは、行政においても同様だと関さんは仰います。 
それぞれの自治体が伽藍を組み立てているような状況に対して、行政の仕組みにバザールモデルを適用できないだろうか、ということがCode for japanなどを通して関さんが実践してきたことになります。


「ともに考え、ともにつくる社会」

Code for japanは「ともに考え、ともにつくる社会」というビジョンを掲げています。多様な人がつながる場を作り→そこからプロジェクトを生み出し→そこで得た知恵を共有→場に還元
というようなサイクルを描くことで、様々な人がともに考える環境やつくる機会を生み出していく活動をしています。
 
例えば、東京都の感染状況サイトはGitHubでオープンソース化することで、多くの有志からバグ報告や修正の提案を受けられ、システムが洗練されていっただけでなく、許諾なしで使用できるため、プログラムが全都道府県に波及していったと言います。まさに、ともに考えともにつくる実践だと言えます。

 
このようなオープンソースへの投資は、社会的な知的資本の蓄積に繋がると関さんは仰います。

こうした活動の経験から、「技術は人を幸せにするだろうか?」という問いかけに対して、以下のことが言えるだろうと続けます。

「技術は人を幸せにする ただし、正しい目的に使えれば」

 
あくまでも慎重でありながら、確かな信念を感じる言葉です。


相互対話の場/「楽しい」をデザインする

最後に、「場」をいかにつくるかについてお話しがありました。
近年アジャイル型のプロジェクトが様々な場面で実行されていますが、失敗するケースに共通するのはガバナンスモデルが間違っているせいではないかといいます。
アジャイルプロジェクトに求められるのは、トップダウン式の階層構造でガバナンスを行うのではなく、水平的かつマルチステークホルダーのガバナンス。リスク分析→ゴール設定→システムデザイン→運用・評価というようなプロセスをマルチステークホルダーで高速に回転させていくことが重要だといいます。
また、相互対話の場が何よりも重要ということを話されており、政治であれ、事業であれ、社会課題であれ、やはり「ともに考え、ともにつくる」環境をいかにつくるかということに尽きると感じました。
そして、周囲を巻き込むには「正しい」も重要だが「楽しい」をデザインすることが大切だと仰っていました。「楽しい」場作りはプロジェクトの継続性にも繋がるし、何より自分のモチベーションになるということです。


感想/責任と楽しさ

「伽藍とバザール」や「アジャイルガバナンス」の考え方はシステム開発やテクノロジーの文脈でなくても応用が考えられる非常に興味深いお話しでした。
「不平を言うよりも、そのために手を動かす」ということを仰っていたのも印象的でした。市民社会というときの「市民」とはほかでもない自分自身なのだということを、突きつけられたように感じました。トップダウンではなく、水平的なマルチステークホルダーというのは、企業文化などでもよく取り上げられますが、この変革にはある種の覚悟が求められることだとも思います。水平的な構造においては、誰もが、権利とともに責任を負うことになるからです。
しかし、さらに翻って考えれば、責任を負うということこそが、「楽しさ」に繋がるのだとも思います。「市民社会」とは、長い闘争のはてに自由と権利と責任を勝ち取った、楽しい社会のはずなのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?