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つれづれ雑記*お好み焼き定食、の話*

 私は中学生のときの数年を除いて、関西から外に出たことがない。
 関西とひとくちに言っても広い。
 関西の中心はやはり大阪なのだろうが、私自身は大阪には住んだことはなく、東播(東播磨)と呼ばれる地域をウロウロしている、生粋の播磨人である。

 播磨は、誤解を恐れずに言えば少々面倒くさい。(個人的見解です)
 かの信長もそう言っていた、らしい。(諸説あり)
 おおむねの播磨の住人は、この温暖な過ごしやすい気候のおかげもあってか比較的のんびりした気質だ。
 だがしかし、ある一面少々偏狭で頑固なところがある。ちょっとびびりで易きに流れる傾向があり、正面切って権威に逆らうことはしたくないが、おもねることはもっと嫌う。

 関西は「粉もん」、つまりお好み焼きやたこ焼きの聖地、だそうだ。
 関西以外の他の地域のことはよく知らないので、そうなのかなあ、という感じだけれど。
 
 ただ、他の地域の知人とお好み焼きやたこ焼きの話をすると、その向き合い方、こだわり、立ち位置(?)など、やはりいろいろ違うなと思い知らされることも多い。
 お好み焼きやたこ焼き、それから同じ鉄板で焼くものとして焼きそばまで、やはり関西ではちょっと特別なもの、なのかもしれない。
 
 ただ、さっきも書いたが関西と言っても広い。大阪はもちろんのこと、兵庫の瀬戸内側地域だけでも、西播、東播、摂津、と分かれ、それぞれの地域でまた、少しずつ違う「粉もん」が存在する。
 
 たとえば、私が子どもの頃に一番長く住んでいた東播の一角、明石では、たこ焼きは、いわゆるソースたこ焼きではなかった。というか、私はそう思っていた。
 私が小さい頃にずっとこれがたこ焼きだと思っていたのは、明石焼きとか玉子焼きとか呼ばれているあのたこ焼きで、夜店で売られているソースたこ焼きはその代替品だと思っていた。
 あのたこ焼き、もとい明石焼きを焼くのには、独特の銅製の鍋を使う。普通のものより少しくぼみ部分が浅くて広い。そして生地がソースたこ焼きのそれとはだいぶ違う。
 なので、自宅で明石焼きを焼くのは非常に難しいのだ。
 幼い頃の私の頭の中では、明石のたこ焼きはお店で食べるもの、ソースのたこ焼きは夜店で食べるもの、と区分されていた。

 他にも、私はあまり詳しくないが、姫路のどろ焼き、高砂のにくてん、など独自路線の「粉もん」は多数存在する、らしい。
 
 前置きが長くなった。
 タイトルの「お好み焼き定食」。

 これを読んで、「何これ」と思われる方、「あー、はいはい」とうなずかれる方、それぞれ、どのくらいおられるだろう。
 
 定食、と銘打っているところからもお分かりのように、ご飯とお味噌汁、何かお漬物などの小皿、そして、おかずのセット。そして、この場合のおかずというのがお好み焼きなのだ。
 
 これは関西では当たり前に存在するメニューだと言われている。以前、某放送局のケン○ンSHOWとかいう人気番組でも、さすが粉もん天国だー、みたいなノリでそう紹介されていた。

 ……えー、そうなの?
 私の感覚だと、これはちょっと違う、と言う感じなんですけども。
 
 だって、お好み焼きでしょ?
 これでもう完成された一品やん。
 どうして、これをおかずにするかな。
 
 これが、初めてこの「お好み焼き定食」の存在を知ったときの私の正直な感想だった。
 関西っていっても一括りにならんよ。
 これは大阪の話でしょ。そこでまとめんといて。
 
 そう言う私に、同じく兵庫の瀬戸内地域から一度も出たことがない家人が「えー、そう? 普通にあり、とちゃう?」と宣った。

 え? 
 ええー、そうなん?

 言葉をなくす私に、家人が続ける。
「昔、喫茶店で、お好み焼き定食、っていうの、メニューに載ってたと思うけど。今も、あるんとちゃうかな」

 そうだった。家人は、同じ兵庫と言っても播磨より東、摂津の西の端あたりの旧市街地の出身。古くから中小零細取り混ぜた町工場が立ち並ぶ地域で、街の角々には工場で働く人の昼休みを当てこんだお好み焼き屋さんや喫茶店(純喫茶ではない、いわゆる喫茶軽食店)が数多くあった。
 そういうお店では、お好み焼きとご飯がセットになった定食がごく普通に食べられていたそうだ。
 お好み焼きはあくまで軽食、ムシ養い、腹ふさげ、ビールのお供、おやつ的な扱いであって、労働者が一食分の食事とするには、やはりご飯がないと、と言う。

 なるほど。同じ関西、兵庫と言っても違うのだな、と改めて思う。

 じゃあさ、もしかして、焼きそば定食とかたこ焼き定食とかも、あった?
 
 私の問いに、家人は「焼きそば定食は普通にあったで。たこ焼き定食は…店では見たことないけど、家でたまに、買ってきたり家で焼いたたこ焼きをおかずにしてご飯食べてたかな」と答えた。

 えー。
 驚く私に、家人は何に驚いているのか、という顔をする。
 
 だってさ、お好み焼きもたこ焼きも焼きそばも、それで、完成されたワンディッシュやん。おまけに全部炭水化物やん。これに、さらに炭水化物のご飯て、いるん?

 炭水化物言うても、キャベツにタコに豚バラ、いろんなもん、入っているやろ。ソースの味も濃いし、ええおかずやんか。
 餃子かって、あの皮は炭水化物やろ。でも、おかずになるやん。
 
 それは、そうかもしれんけども。

 そんなに堅苦しく考えんでええんちゃう?
 美味しかったらええやろ。

 うーん。
 
 そうかもしれんけども。
 何だかなあ。
 
 と、ここで私は閃いた。

 ねえ。じゃあさ、ピザ定食はイケる?
 ピザとご飯とお味噌汁。
 お好み焼きとピザ、似てるし。ソースの味も濃いやん。

 一瞬、考えた家人。
 「…いや、それはないな」
 
 ほら、やっぱりそうやろ。
 そういうことやん。(どういうこと?)

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