つれづれ雑記 *デジタルなお好み焼き屋さん、の話*
キャッシュレス、ペーパーレスと言われて久しいが、私はいくら、アナログだ、前時代的だと言われても、手にとって確認できないものが何となく信用できない。
なので、クレジットカードは今まで使ったこと、言わんや、持ったこともない。
ここまでカードやキャッシュレスが浸透した今でさえ、持っているカード類は予めチャージして使う、交通系カードと近所のスーパーのカード、この2枚のみ。
昨今のポイント天国にはとんと縁がない。「めっちゃ損してるやん」と周囲からは言われる。返す言葉もないが、まあ、そういう性分なのだから仕方ない。
かと言って、この現代においては一切のクレジット払いをしない、というわけにもいかない。
家電など高価な物の購入や通信費の支払いなどは家人名義のクレジットカードでしているのだが、これらの領収書もペーパーレスの風潮なのか、どんどんWEB化している。
この、スマホやパソコンで見る請求領収明細って、ものすごく見にくくない? これって私だけなのかな。
WEBだと、いつでも見られると思ってつい確認がおざなりになってしまいそうな気もするし。(あくまで私の主観です)
それでも、世の流れには逆らえないし、まあ、いつしか慣れていくのだろうが。
慣れてしまったと言えば、セルフレジやセルフオーダーシステム。
元々、じわじわと広がりつつあったけど、ここ数年の感染症の影響で一気に浸透した感がある。
最初にセルフレジというものに対面したのはいつだったか。
感染症騒動よりもう少し前、買い物に行った某ファストファッション店が全てセルフレジになっていて、どうしたらいいか分からずにもたもたしていると「こちらへどうぞ」と誘導された。
「お買い上げの商品をこちらへお願いいたします」
言われるままにカゴをカウンターに置く。
「モニターの『お会計を始める』をタップしていただけますか」
あ、この画面の赤いところね。ピッ。
うわっ。びっくり。
画面に「お買い上げ点数 5品 お会計 〇〇円」といきなり出てきた。
何で?何でわかるん?
驚きを隠しつつ(絶対ダダ漏れだろうけど)、その後の操作も店員さんの指示でつつがなく終え「ありがとうございましたー」の声に見送られて、私は店を後にした。
手取り足取り教えてもらって、これってセルフと言えるのかな、と思ったのは内緒。
しかし、どうもこの方式はユニクロ(あ、言っちゃった)独自のものだったようで、それからあっという間にあらゆる店舗に広まったセルフレジは自分でいちいちバーコードをセンサーに通していくタイプが主流のようだった。
私はいきなり最先端のシステムに遭遇してしまったということか。
一方、飲食店でのセルフオーダーシステムは、回転寿司店で早くからあったタブレットで注文するシステムに慣れていたので、そこまで戸惑うことはなかったのだけど。
しかし、今やこのタブレットで注文するシステムは、ファーストフード店はもちろん、焼き肉屋さんやファミリーレストラン、ちょっとした和食、洋食屋さんにまで広がっている。
タブレットで注文し、レジもセルフ。それに、私はまだ会ったことはないけど、注文品をロボット?が運んでくれるお店もあるそうな。
そうなるとお店に入っても、ほとんど人間と接点がないことになる。
これはこれで、便利なんだろうけど。
娘らは「コミュ障に優しいシステムやね」なんて言ってるけど。
私だって知らない人と話をするのはちょっと苦手だったりすることもあるんだけど。
でも、なぁ。
喫茶店で、オーダーを取りに来てくれた店員さんが「お待たせしましたー」とコーヒーを運んで来てくれて。帰り際のレジで「〇〇円です。はい、ありがとうございます。△△円のお返しです」「ごちそうさまー」「どうもありがとうございましたー」と言う会話を交わすと、ホッとする。
なんて思ってしまう昭和ど真ん中生まれの私なのだ。
ここまで長くなった。
タイトルの「デジタルなお好み焼き屋」って何なのさ、とそろそろ思っておられる方もおられるかもしれない。
先々月のことだ。
用事があって外出し、時分どきになったのでどこかでお昼を食べようということになった。
久しぶりにお店のお好み焼きが食べたいなと、駅前のお好み焼き屋さんに行った。
そこは、地元では誰でも名前を知っている昔からある店で、佇まいもそれにふさわしい、ちょっとボロ、いや、風格のあるそれだった。
引き戸を開け「はい、いらっしゃーい。空いてる席どうぞー」の声に迎えられて店に入る。
まだ正午には少し早かったのだけど、さすが知る人ぞ知る老舗の人気店、7割がた席が埋まっていた。早めに来てよかったね、と連れと言い合いながら、手近の席に座る。
私くらいか、もう少し年配の店員さんが忙しそうにしている。手が空いたら注文を聞きにきてくれるのかな、と思いつつ、しばらく壁に貼られた品書きを見て、どれにしようかあれこれと悩んでいたのだけど。
それにしてもオーダー取りに来るの、遅いね。忘れられてる?
心配になってきたとき、ふと、ソースの缶の横に立てかけてある葉書サイズのアルミ板に気づく。その板に貼ってある、最近よく見かける、この図形は。
「ね、もしかして、この店、この2次元コードをスマホで読んでやる、あの、モバイルオーダー、っていうの、あれなんじゃない?」
モバイルオーダー。
よく、ファーストフード店とかでやってるやつ。
最初はテイクアウトだけだったのに、今は店内オーダーにも導入されつつあるとは聞いていたが。
この超がつくボロ、もといレトロなお好み焼き屋で?モバイルオーダー?
その言葉がこれほど似合わない店も、他にないと思うのだけど。
今さらのようにこっそり隣の席のお客さんを観察すると、みんなスマホを覗き込んであれこれ相談している。
やっぱりそうか。まさに、ブルータス、お前もか、という心境だった。
私は、情けないことにこういうのはとにかく苦手なので、連れに全部やってもらった。
私は豚玉、連れはスジ焼きを注文する。
こんなの、口で言うたほうが早いやん、などと心の中でちょっとぼやいてみる。
しばらくして店員さんが「はい、お待ちー」と持って来てくれた、久しぶりのお店のお好み焼きは、それでも、とても美味しかった。
さて、帰り際。連れのスマホからさっきのオーダーがもうレジに通っていて、すぐに会計となる。
また機械でのセルフレジか、と思っていたら、店員さんがパタパタとやってきて「はい、〇〇円ねー」と言う。
「何で会計します? ペイペイ? クレジットカード? 現金? 何でもイケるよー」
この言葉に、店員さんの顔を改めて見直した。どう見ても、私よりかなり歳上。もしかしたら、実家の母と同じ世代?だ。この方の口から、ペイペイという言葉が出てきたことに驚く。
連れがちょっと戸惑いながら、
「あ、じゃあ、クレジットカードで」
とカードを手渡した。「はいはい」と受け取って、サクサクとタブレット画面を操作する。
「ちょっと待ってな。今、ぐーるぐる、何や回っとるから。えーっと、あ、でけたでけた」
そして、テキパキとカードをリーダーに通し、ピランと出てきた明細を連れに渡して
「ありがとうございました、また来てなぁ」
と、ニッコリ笑った。
「あ、どうも、ごちそうさまー」
何や、前と何も変わらんやん。
機械も、使うのは人。使い方ひとつなのだ。
そんなことを思った。
……それにしても。
あそこのお店のおばちゃ、いや、お姉さんがた、みんなすごいやん。最新機器を完全に使いこなしてはるし。
私、完全に負けてるわー。