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今更ながら人類滅亡後の小世界をPinocchiaたちと歩いた話・1人目(考察編)

(本ページは本編である「人類滅亡後のPinocchia」のプレイ手記から外れた番外編です。本ページよりも先にそちらを一読する……のは必須でないですが、よかったらそっちも読んでいただけるとうれしいです)

~公開後の更新履歴~
2023/4/20?:「後日談」を追加
2023/4/29:「人間につける薬がない件」を追加。他ちょっと加筆修正。


あれから僕たちは、何かを信じてこれたかなぁ

 「人類滅亡後のPinocchia」はゲームクリアしてなお、たくさんの謎をプレイヤーの前に残している。アレは何だったのか? 何が嘘で何が真実だったのか? そんなモヤモヤを感じた人は少なくないだろう。
 結論を言うとそれらの多くは、これと断定できる答えを得ることは不可能と思われる。単純に情報が足りない。作者がどこかで裏設定の公表でもしていればいいが、少なくとも私は存じ上げない。

 それでも作中の情報からいくらかの考察はできるはず……ということで、ここでは私なりにいくらかの足掻き(憶測・空想・妄想)をしてみることにする。突っ込みどころ満載だったり脱線したりおふざけに走ったりすることもままあるが、あまり真に受けず話半分か陰謀論半分にお付き合い願いたい。真に受けるともれなくあなたの町がなんか色々あって壊滅する遠因になり、あなたも30日後に呼吸器不全で苦しみながら死ぬから要注意だ。

人類滅亡前のProcess

 作中で拾える数々の情報(手記)だが、いずれも左上に意味深な8桁の数字が記されている。これ実は、手記が書かれた日付を表している。表記はアメリカ式で、11242140なら11月24日2140年。日本式に直すと2140年11月24日となる……というのを、自分で突き止める前にニコニコのコメントで知ってしまった。まぁそれはいい。これを踏まえて各手記を見直すと、一見でたらめのような一覧の並び順が実はちゃんと時系列順に並べられていたことが分かる。
 また一部の手記では、日付に独自の色付けがなされている。同じ色の手記は同じ人物によって書かれたものという訳だ(これもコメントで知った)。具体的には「第一階層の生存者」「第二階層の生存者」「主人公の娘」「万能型アンドロイド」「万能型の『息子』」の5名による手記がそれぞれ色付きである。

 下表に全ての手記とその日付、およびタイミングがはっきりしている重要な出来事をまとめてみた(主人公がコールドスリープに入った時期は「最後の一手」の前か後か分からないので表からは除外)。

01 25 2042「思念記述」

09 22 2068「大地と空」
11 11 2070「太陽を知らない作物」
12 25 2085「地上」
08 24 2092「はじまり」
12 24 2093「実験結果」
『ある人物が「寄生体」の存在を世間に発表』

04 23 2095「支配者の影」
12 24 2112「地下生活の限界」
03 31 2118「妙な噂」
09 18 2122「寄生体」
02 01 2139「畜産区画」
11 24 2140「出発」
『宇宙船セ・キ・ローダーによる地球脱出』

03 12 2142「病」
06 28 2144「罠」
08 14 2144「妄想患者」
11 01 2146「宛てなき旅」
01 01 2147「教典草案」
05 06 2155「委員会」
05 30 2163「敵はいない?」
-------2165(昼夜制御に障害)
07 14 2165「昼夜制御」
03 15 2166「二人だけの世界」
-------2166(違法アンドロイドを従えた狂人による大量殺人)
09 12 2167「クーデター」
『旧委員会廃止・軍政発足』

03 15 2168「CELSS」
06 12 2169「インタビュー」
10 02 2172「住居の組み換え」
-------2172(畜産区画へのテロ)
11 16 2195「架空生物談義」
-------2199(薬物(栄養剤)売買の摘発)
-------2203(教団本部を武力制圧、教主殺害)
11 09 2204「教団の記録」
02 28 2213「最後の一手」
『「洪水」プロジェクト発動・敵性機械出現』

10 18 2215「生体認証ロック」
10 19 2215「生き延びるために」
10 19 2215「レーザー砲」
10 20 2215「剣をふるう機械」
10 22 2215「閃光手榴弾」
10 23 2215「生存者」
10 24 2215「慢心の代償」
10 26 2215「手榴弾」
04 10 2216「暴走の原因」
04 12 2216「凶暴な動物」
11 09 2216「シールド」

『主人公の娘が軍に入隊・第三次反攻作戦開始』
10 30 2222「初任務」
11 01 2222「煙幕手榴弾」
12 07 2222「積み重なる勝利」
11 09 2223「固定砲台」
11 15 2223「多脚戦車」
11 15 2223「即時育成キット」
11 21 2223「失われた技術」
11 23 2223「猛攻」
11 24 2223「希望は失われていない」
『娘が戦死・軍が壊滅』
『娘の遺志を継いだ万能型アンドロイドが独自の行動を開始』

11 24 2223「権限」
01 15 2224「保護」
06 22 2232「交配」
05 01 2233「誕生」
11 24 2235「失敗」
『万能型アンドロイドの「息子」の両親が死亡』

『万能型アンドロイドが機能停止・「息子」が孤立』
11 24 2269「一人きり」
03 14 2270「死神」
10 03 2270「第六階層」
11 24 2270「本日の防衛」
11 24 2271「肉食いたい」
06 06 2272「映画」
11 24 2272「TKG」
11 25 2272「ねむい」
『「息子」が死亡』
『主人公がコールドスリープより覚醒・本編開始』

と、こんな感じである。
以下の文章において、二重カギカッコで囲った語句は全て手記のタイトルを表すものとする。

寄生体のおさらい

 本作最大の謎。人類滅亡の遠因にまでなりながら存在すら不確かなやつ。
 終盤で急に『寄生体』『敵はいない?』など寄生体の存在を疑問視する手記が複数出てきたことから、存在しない説が優勢……のかも知れない。まぁもちろん、こんなのは根拠のうちには入らない。

 とりあえず、寄生体関連の情報を整理してみる。
 『寄生体』『病』いわく、寄生体は体内に寄生した人を操る能力を持つ。寄生された感染者は詐欺師やカルト教祖のごとく、他の非感染者を言葉巧みにマインドコントロールし出す。その行動原理は人類の滅亡を明確に意図したものであり、恐るべき脅威である。らしい。
 寄生体はその根拠となる物質AbTが『実験結果』で初めて発見された後、それから10年も経たないうちに『地下生活の限界』で「100年前から寄生体って悪さしてたんじゃね?(核狂乱もその前の世界人口減も、全部寄生体のせいなんじゃね?)」と半ば断言されるほど認知度が高まっている。
 後にセ・キ・ローダーで地球を脱出する際、徹底的な検疫が行われた――つまりこの時点で検出方法が確立されている。血中AbTの有無とかだろうか?

 だが遅くともその2年後には、船内での寄生体再発生が確認される(寄生体に関する言及のある『病』の日付から)。その次の『罠』で後の教主があれは数列だ宇宙の罠だと言い出し、ひと月半後の『妄想患者』、そして『教典草稿』『インタビュー』に至る。ここまで来るともう彼の記述は当てになるまい。
 ちなみに寄生体と関係ないことだが、『実験結果』とその2年後に書かれた『支配者の影』の著者は教主ではない可能性が高い。士官に殺されたのが2203年、『実験結果』は2093年と110年も開きがある。『実験結果』の時点で研究者の職に就いていることから、生年はさらに20年は前になるだろう。まぁこの時代の人の平均寿命が現代より長い可能性もあるので、断言はできないが。

 他には手記ではなく主人公の回想シーンでだが、寄生体の除去手術と血液監視装置がいずれかのタイミングで発明されている。
 と、大体こんなところだろう。寄生体については長くなりそうなので一旦中座し、他のネタから始めたい。

核狂乱と「洪水」

 核狂乱が起きた年は明かされていないが、おそらく作中最古の手記『思念記述』よりも後のことだろう。書き手ののんびりした様子は戦時下には明らかに似つかわしくない。
 その核狂乱の原因だが、これもまた全く不明。上記の通り寄生体原因説も作中にあるが、根拠は一切ない。一番真相に近いのはおそらく『はじまり』内の推察ではないかと思う。何せ「洪水」が、まんまこれの実証のようなものだったのだから。
 ついでにその前の、世界人口が億単位で減り続けていた件も原因は特定不能である。少なくとも当時の各国の情勢といった前提となる情報が皆無では考察のしようもない。

 しかしそれを思うと、「洪水」プロジェクトもまた随分すんなり実行されたもんである。味方も無差別攻撃という無茶苦茶が過ぎる計画を同担する者が現れるとも考えにくいし単独犯の線が濃厚だろうが、そのたった一人で第六階層から第一階層までの自動工場を一挙に掌握したのだから。まさか遠隔でパスワードを打つだけで動かせるなんてこともないだろうし、核兵器並みとはいかずともそれなりに厳重なセキュリティもあったはずだ。
 「洪水」実行者が工場に敵性機械の製造を入力するまでにも、通常ではあり得ないほどの酷い偶然の噛み合った連鎖が密かに起きていたのだろうか。そっちの一部始終もちょっと見てみたい気がする。やっぱり説明してほしかったぞ司令代理よ。

地球脱出計画

 セ・キ・ローダー関連。事実を知ってから手記を読み直すと面白いやつ。
「息子」の言っていた当時の人間に周知されていた暗黙の何かとはこれのことだったのだ。セ・キ・ローダーは宇宙船。中の住民ならそりゃ誰でも知ってることだ。

 最初にこれに言及しているのは『地下生活の限界』。ここで元々住んでいた地下シェルターを捨て、どこかに移住する発想が初めて語られている。次の『妙な噂』の内容も、クリア後なら実はドンピシャだったと分かる。
 この噂で計画が漏れ出していると焦っているのが『畜産区画』。公にバレる前にセ・キ・ローダーの改造(畜産区画を一部潰して居住区に宛てるなど)を完了させねばということで、突貫で工事を進めているのが分かる。おそらくCELSSも不充分なまま押し切ったのだろう。それを思うと後に各所で爆発する住民の不満、悪化する治安も必然だったのだろうか。
 その後の『宛てなき旅』も、何かの比喩という訳ではなく宇宙船で放浪している現状をそのまま言い表したものと分かる。

 読み返すとお分かりの通り、セ・キ・ローダーに乗れるのはシェルター住民の中でも上層部など一部だけ、かつ寄生体感染の疑いが絶対にないと思われる者のみ。他の住民は見捨てて夜逃げ同然に宇宙へと飛び去ったのだ。これを知るとその後の船内住民たちの末路も因果応報と思えてならない。『妙な噂』と『寄生体』の対談者は同一のコンビと思われるが、彼らは乗れたのかそれとも残されたのだろうか。
 残された側の住民たちのその後はもちろん不明。指導者層を失った者たちのその後は暗いと思われる……が、あるいはそうでもない可能性も考えられる。実はもう核狂乱はだいぶ前に終わっていて、過酷な環境の中でもたくましく生を繋げ、時間をかけて徐々にかつての生活を取り戻していく……そんな未来ももしかしたらあるのかも知れない。んで地球を見捨てた宇宙殖民を憎んで戦争とかする訳ですよ、お互いモビルスーツとかいっぱい造ってね!

 ただそれよりも謎なのは、セ・キ・ローダーの改装作業をどうやって行ったのか。そして搭乗可能とした住民をどうやって船内に移動させたのかだ。セ・キ・ローダーは軌道上に放置されているんだから、人を宇宙に飛ばさないと中に入れない。それも何度もだ。地上で核戦争をやってる中で、いつ爆撃されるか分からない中でスペースシャトルを建造し何往復もさせたのだろうか? それとも核狂乱はやっぱりとっくに終わっていて、直近の危険は去っていたということだろうか。
 ……と初稿では書いたものだが、そう言えば軌道エレベータというものがあるかも知れないか。作中の技術レベル的にはあってもおかしくなさそうだし、あれば人の行き来はだいぶ楽そうだが、これも戦火をどうやって免れたか問題は解決できない……う~ん。

再びの寄生体はどこから?

 当然ながら「寄生体は実在した」前提で考えてみる。
 とは言えこれは簡単な答えと思われる。単に検疫に漏れがあったか、または揉み消されたのだろう。例えば上層部の家族などに感染者がいたのを隠蔽したとか……いやこれがよくある話なのよ、初台シェルターとかウィッグタウンとか。作中の範囲では特に悪影響のなかった例も含めれば、unityroomにカルネアデスの扉なんてのもあるぞ!

 もしそういうことではなく、本当に無から再発生したのだとしたら……感染源がセ・キ・ローダーの中にあったということだろう。動物か植物か、またはもっと別の何かが。何せその時点でも、発生経緯を未だ全く突き止められていなかったくらいなのだ(『罠』参照)。結果論だが感染者を地上に捨て、非感染者だけを地球外に避難させる方法ははなから無意味だったということだろう。

主人公黒幕説

 ニコニコのコメントでも見られた説。
 船内の全住民が「洪水」で死んだ後、コールドスリープで眠っていた主人公が目覚めてこれを停止。人工授精・保育システムを使って人類を再生させ、最後に自分も寿命で死ぬ。寄生体も一緒に滅びる。このある意味完璧な流れから、実は主人公は最初からこのルートを狙ってたんじゃね? という発想から生まれた説と思われる。
 確かにコールドスリープというのは、敵性機械から身を隠すにはもってこいの方法かも知れない。仮死状態で冷たい死体同然の人間を、兵器らが生きている殺すべき存在とみなすかは怪しそうだ。住民が全員死んだら自動的に起床というのもなかなか都合がよい。
 もっとも「洪水」実行者は間違いなく主人公とは別の人物なので、この説に沿うなら主人公は自分に忠実な士官を何とかして計画に抱き込み、いざという時の代役も任せられるほどの共犯者に仕立てた……ということになるのだろうか。

 だがこの説は、少々難しいように私は思う。不確定要素が多過ぎるのだ。
主人公一人(+アンドロ)だけで完全勝利できる保証がない、だけではない。軍が敵性機械に勝っちゃってもダメなのだ。実際は死神1機に壊滅させられた訳だが、もし死神に遭遇しなかったら? 遭遇した際に勝てたら? そのまま第六階層ひいては艦橋まで到達し、人類滅亡の阻止に成功した可能性は多分にある。それでは寄生体の一掃という目的は果たせない。
 「洪水」の実行を、完全に人任せにしてしまう点も大きなネックである。任せた相手が心変わりして計画を投げ出すかも知れない。事前に察知され周囲の人間に阻止されるかも知れない。首謀者が自分とバレて主人公自身も破滅するかも知れない。それら肝心の場面に自分がいない・一切干渉できないという大きなリスクを冒せるか? それを上回るほどあらゆる面で絶対の信頼を置ける(仲間や家族を含めた全住民と自分をも殺せる)実行役を用意できるのか? というのが疑問点である。

 根拠はまだある。住民全殺しまで自分の安全を確保するためにコールドスリープを利用したのだとしたら、その前提となる寄生体除去手術も主人公の仕込みだったことになる。となれば執刀したメガネ女医も懐柔していることになる訳だが、それはおかしい。何故なら彼女は自室に設置した立体画像で、「これこれこういう事情で主人公の内臓再生計画は頓挫してしまいました」という報告をしているからだ。もし女医もグルならこんな報告はそもそも必要ない。全部自分たちのスケジュール通りの出来事だからだ。よって女医はシロであり手術も狂言無しのリアル、主人公がコールドスリープに入るのは偶発的な出来事だったということ。誰の計画でもないのだ。
 では手術のちコールドスリープ入りが決定する展開までは自然の流れだが、そこから実際にスリープするまでの間に主人公が一連の計画を思い付き仕込んだというのは? それも多分ない。何しろ主人公の寿命はたった30日しかないのだ。最重要人物の余命を少しでも温存すべく、普通は早急に、可能ならその日にでもコールドスリープを実行するのではないか。もちろん実際は準備などで多少日程がずれることはあるかも知れないが、せいぜい数日のはず(というかそれ以上経過したら、本編の制限日数が25日とかになってしまう)。そんな短時間の間に完璧な計画作りと人選が可能なのか? と考えると……まぁ無理だろう。

 ちなみに死神のおそらく唯一の攻略法が、レベル10以上の速攻型アンドロイドを用意することである――と本編で書いたが、軍のアンドロ部隊には残念ながら速攻型はいなかったと思われる。『失われた技術』にて主人公の娘が、速攻型アンドロイドの設計図を「散逸した技術資産」のひとつとして挙げており、かつ第五階層到達を優先するため設計図を含めた技術資産の捜索をあきらめているからだ。もし設計図が手元にあればこれらの発言はあり得ない。またその後も、設計図を回収する機会はなかったということになる。
 これを根拠に、「実は速攻型の設計図も、主人公が部下に命じて隠させたんだ! これで対死神の有力な手段が断たれて軍は負けるし、後で主人公が設計図を回収すれば自分だけは死神に勝てる!」という推論が可能かも知れない。だが軍が第四階層をしっかり捜索して設計図を手に入れない保証はない。また敵性機械に設計図の在り処を荒らされ回収が困難になったり、設計図そのものを何かの弾みで破壊されたら主人公にとっても詰む恐れがある。やっぱりハイリスク過ぎるのだ。

第一階層の生存者

 「洪水」発動から2年後、立て続けに手記を書いた二人の生存者。共に単独(+アンドロ)で周りに他の住民の気配がないことから、この時点で敵性機械による虐殺はかなり完了に近付いていたことが推測される。
 まずは第一階層にいた方から。彼または彼女は第二階層の拠点に救難通信を送った後、護衛として汎用型アンドロイド1機を自動工場で製造。探索を始めたが、大型機と思しき敵性機械にコア目当てで挑んだ結果惨敗。その場からは何とか逃走するも結局アンドロ共々露と果てた。

 ゲームクリアした人なら周知のことだが、汎用型1機だけを従えて大型機に立ち向かうのは無謀もいいところである。手榴弾の類は何も用意してなかったようだし、初手レーザーからいいようにされるのがオチだろう。まさに『慢心の代償』だ。
 ちなみに第一階層の奥まで行くと、ジャンクコアを含めた巨大兵器の残骸とやらが見つかる。もしかしたらこれがかの生存者を逆襲した大型機なのかも知れない。

第二階層の生存者

 かたや第二階層にいた生存者。SMGが取れないと愚痴ってた男である。
 彼はとても解説臭い口調でアイテムや周辺の敵について語りつつ、あわよくば第六階層までたどり着こうとする気概ある人物だった。第一階層からのSOSを受信しまずは仲間を増やそうとそちらに目標を切り替えるも、合流は叶わず第一階層で手記『手榴弾』とその設計図を遺して戦死している。
 下級民ゆえ武器のセキュリティロックは解除できないが、手榴弾を製造する権限はあったらしい。非常時ゆえの待遇だろうか。アンドロイドを造らなかったのはそこまでは権限が至っていなかったのか、単に材料か設計図のどちらかが無かったからか。たくさん手榴弾を造れるなら汎用型の1機くらい製造できそうなものだから、設計図の方だろうか。「手榴弾ばかり作ってもダメだな」と言っていたし、造れるものならアンドロも造りたかったのだろう。仲間がいないのを散々嘆いてたし。

自動工場盗り合戦

 主人公の娘が軍に入隊したのは「洪水」発動から9年後、第三階層の自動工場を完全制圧した後のこと。このとき軍すなわち人類と敵性機械は、各階層の工場を奪ったり奪い返したりを繰り返していたらしい。またこの時点で、軍属でない住民はほとんど死に絶えている。
 娘の当時の年齢は不明だが、会議室にあった司令代理の立体映像いわく、「洪水」発動の頃から軍に入りたがっていたらしい。そんな娘を司令代理は「危なっかしい」と評していたが、子供だからダメ等ではなく危なっかしいという反応になる辺り、すでに入隊しても不自然ではないくらいの年齢だったことが推測できる。若くて16歳ほど、9年経過で20台中盤から後半くらいになるのだろうか。

 やがて敵性機械だけを阻む(と思われる)電磁バリアの発明により、人類側による工場掌握を恒常的なものとし、安全な拠点として確保することに成功した。これまた司令代理によると電磁バリアの構想自体は「洪水」発動の時点からあったようだが、実際に運用されるまでには実に9年もの時間を要した。敵と転戦しながらでは開発も捗らなかったというところだろうか?

 そしてこの争奪戦において、軍は各工場をちゃんと利用できる状態で奪還している。主人公みたいに力任せに破壊したりせず、適切な操作か何かで兵器生産を停止させているのだ。その方法さえ知っていれば第六階層の最終戦ももっとあっさり片付いたのかも知れない。嗚呼脳筋……

機械片のウラを探る

 本編で一週間で全部片すとかアホかと散々こき下ろしておいてなんなのだが、ここでちょっと逆の発想をしてみたい。すなわち「当初は本当に、一週間で充分一掃できるはずだったんじゃ?」という説である。
 その根拠の一つが第三階層の動物たちを凶暴化・自爆兵器化させていた、寄生体もどきこと機械片。一週間でケリをつける予定の兵器に自己増殖機能を付けるのは明らかにムジュンしている。というかこの機械片自体、どう考えても他の敵性機械とは一線を画している。それこそ死神よりよっぽど異質だ。心情の面から言っても、人類を皆殺しにしてでも寄生体絶対殺すマンが寄生体に似た振る舞いをする兵器を設計製造するのかという疑問もある。
 つまりどういうことか。機械片は「洪水」実行者とは別の何者かの作で、「洪水」のドサクサに紛れて動物たちに仕込まれた。これにより敵性機械の鎮圧にかかる時間の見込みが狂ったというものである。これは死神にも言えることなのだが、それはまた後で。

 ……いや、やっぱり無理があるか。動物というか、第三階層の攻略だけで一週間が十年になるはずがあるまい。現に主人公の娘の手記の日付によると、第三次反抗作戦では1ヶ月ちょっとで第三階層をクリアし第四階層拠点に達している。
 死神もいくら強いとはいえ個体数が少なさ過ぎて、全体としてはそこまで行程への影響は及ぼしてはいないだろう。というかそんなに暴れ回っていたとしたら全然「未知の敵性機械」などではない。もっと軍の中で悪名が轟いているはずである。
 だがかといって、機械片という存在に関する謎は解決できていない。もうちょっと深掘りしてみよう。

 一体誰が機械片を造ったのか? それは定かでないが、動物に仕掛ける動機のある者なら心当たりがある。『教団の記録』に記述されている、畜産区画を狙ったテロ事件の犯人だ。実行犯は逮捕されたが首謀者は捕まっていないらしい。この実行犯は全員教団の関係者だったとのことだが、教団が主導したのか、たまたま構成員が教団員だけだっただけかはここでは置いておくことにする。
 機械片は動物の兵器化という面に目が向きがちだが、これを家畜を人類に有害な存在にすることで、畜産区画(というより、畜産というシステムそのもの)を実質的に潰す……と言い換えると、これは立派なテロ行為と呼べはしないだろうか。凶暴化や自爆までするとなれば屠殺が非常に難しくなるし、世代間で感染するから原因の除去も大変な手間になる。鳥インフルエンザよろしく区画内の全家畜を一度処分する必要すらあるかも知れない。そこから再び家畜を殖やし直すにはどれだけの時間がかかるか……ならいっそ肉食はもうやめて、これからはベジタリアンでいかない? みたいな議論でも起きればしめたものだろう。畜産区画を放棄させるのが犯人の狙いとすれば、これはかなり効果的な方法と言っていいのではないだろうか?
 テロの動機は畜産を目の敵にしていることから、いわゆるエコテロリズムだろうか。要は過激な動物保護で、動物を食肉にさせたくないがために何でもやる思想の行き着いた果てが機械片。あえて(百歩譲って、テロリストの立場に立って)好意的に見るなら、人が近付かない限りは自爆も何もせず、普通の動物として安全に平和に暮らしていける。区画が管理されなくなってからン十年後も動物たちが繫栄し続けている辺り、機械片が体内にあることによる健康被害も少なさそうである。意外と動物にはやさしい手段と言えなくもない。
 もっとも偶然人と出くわしただけで確実に殺しにくる改造動物など、害獣または生物兵器として漏れなく殲滅されるだけだろう。無駄に動物の立場を危うくし死に追いやるだけという、誰も得しない結果になるのは目に見えている。

 ……とベラベラ喋ってみたが、確証は全くもって無い。わずかな情報からでっち上げたに過ぎない与太話という訳だが、こんなのでもないと機械片は本当に説明がつきにくいと思うんだがどうだろうか。
 え? 最初のテロ事件では多くの畜産資源=動物が死んだ? 動物愛護に反する? まぁその辺は、大義のための犠牲は付きもの派とか、人間サマに惨たらしく解体されて食われるよりは一思いに死なせた方がマシ派とかの犯行なんじゃなかろうか。知らんけど。

第四階層、空白の一年間

 『積み重なる勝利』で第四階層の自動工場を奪還、電磁バリアも設置し拠点化を終えた後、次の『固定砲台』まで1年近く日付が飛んでいる。どちらも主人公の娘が書いた手記だが、この空白の時間は何を意味するのか。

 電磁バリアの設置にそれだけかかった? いや違う。次の第五階層の自動工場を目前に控えた『猛攻』から、軍が死神の手で壊滅した『希望は断たれていない』までたった一日しか経っていない。この間に自動工場は制圧・拠点化され、そこから第六階層を目指して出発した直後に死神にやられたのだ(主人公の娘は重傷を負いつつも万能型共に拠点まで退却し、池のそばで絶命)。拠点で死神に襲われたのではない。もしそうなら電磁バリアは未設置だったということになり、主人公が来た時にも自動工場周りは依然として敵性機械のはびこる危険地帯になっていないとおかしいからだ。
 では居住区での住民捜索にたっぷり1年使っていた? それならもっと早い時点であちこちの部屋を探り、その結果固定砲台に出くわしているはずではないか。まさか1年もの間、部屋の外の廊下だけを見て回っていた訳ではあるまい。
 ではこの1年は一体何なのだろう? 分からん。何か進軍を長期中断しなければならない事情でもあったのだろうか……?

固定砲台の仕掛け人

 主人公の娘がやたら驚いていた固定砲台。これは手記に明確な答えがある。
 第四階層の固定砲台は、『シールド』を書いた住民(シールド装置の設計図を盗んだ人物でもある)が自衛のために仕掛けたもの。とは言え全部が全部この盗人の仕業とは思えないので、同じように軍への不信から独自判断で設置した住民が他にも複数いたと考えるのが妥当だろうが。
 第五階層のは例の「息子」がやはり防衛用に設置したもの。『今日の防衛』内に記述がある。娘よ、この件は敵性機械は一切絡んでいないのだ。

 しかしモブ住民にしろ「息子」にしろ、固定砲台ってそんなにホイホイ造れるもんなのだろうか。結構でかいぞあれ。第五階層にはご丁寧に斥力装置まで添えてある固定砲台もあったが、あれも「息子」がDIYしたのか。

死神はどこから来たのか

 作中の誰もが未知だの雰囲気違うだのと声を揃える通称「死神」。固定戦闘で出くわした際に「未知の敵性機械」と表示されるあたり、主人公も全く見覚えがないらしい。こいつもまた機械片と並ぶ難題と言える。
 人型というデザインからして他の敵性機械とは全く異なるが、といってアンドロイドでもないようである。倒してもコアが出ないからだ。仮に落としたとしても、こいつと死合うくらいなら大型機を狙った方が万倍楽だが。いや落としてくれてもよかったとは今でも思うが(未練)、ドロップや経験値の徹底的なまずさを見るにあらゆる面で相手をする理由のない、避けるべき障害という立ち位置にしたかったのだろう(固定戦闘では仕方なく戦う)。キングボンビーみたいなもんだ。たぶん。

 そんな死神もまた、「実は本当に一週間で済むはずだった」説を補強する存在と言っていいはず……というのはさっき自分で否定しちゃったが、それでも機械片と同様に「洪水」実行者以外の作と捉えるのが妥当なはずだ。だって強過ぎるから。自分で勝てない兵器用意して一週間もへったくれもあるものか。
 いや「実行者の人そこまで考えてないと思うよ」と言われたら、それはそれで否定する材料がないのも事実ではある。深い理由も背景も全くなく、日程見積もりもガバなら戦力差分析もガバだったというだけの話。しょうもないな。滅んだ人類も浮かばれん。

 いやあるいは、本当はこれも周到な計画の産物だった可能性も考えられないことはない。実行者は死神を設計すると共に、死神へのシルバーバレットとなる速攻型も同時に開発した。何ならレベル10を目指すための即時育成キットも用意した。これで死神にも勝てる! 一週間プラン完璧! と思ったらなんか誰かが速攻型と育成キットの設計図を勝手にどっかに持ち出しやがったんですけど? 勝ち筋なくなっちゃったんですけど? みたいな哀しい舞台裏があった……線もあるのかも知れない。いや笑えないが。断じて笑い事じゃない。
 しかしこうしてみると、速攻型ってつくづくキーパーソンだなぁ。後半からの参加で出番が少ない分、攻略上の重要性を高めることで存在感を確保しているのだろうか。加入が最も遅い万能型も、サブストーリーに大きく噛ませることで作中の人気キャラにまでなっている。どちらも上手い手法だ。

 ちなみに私が当初直感だけで思い付いたのが、「死神は自動工場に搭載されたAIが独自に設計した」説。最終戦の様子からして作中に登場したアンドロイドの設計図は一通りインプットされているようなので、これと他の敵性機械の設計ノウハウを組み合わせて開発されたハイブリッドがかの死神! 「洪水」実行者は工場のAIを侮っていた。秘かにシンギュラリティに到達していたAIは人類抹殺を指示されるやいなやその知能をフル稼働し、実行者も設計した覚えのないハイスペックな兵器の数々を自ら考案し生産し始めた。その真骨頂が死神であったのだ。
 はい、無茶です。というか物語の路線が完全に変わってしまう。どこから生えてきたその設定。寄生体が完全に蚊帳の外だ。なんなら突然変異した寄生体が機械にも感染するようになり、自動工場のAIを支配し出したなんてのは? だから飛躍し過ぎだっつうに。ただこの説を採ると、例の機械片の起源が非常にすんなり説明できるようになるのである。寄生体に似ているのは寄生体が設計したから。超簡単だ。一番の問題は機械に感染するということはアンドロイドも操られるという訳で、感動のエンディングが何も解決していないバッドエンドになってしまう点だろう。人類という大いなる犠牲は、主人公とアンドロたちの死闘は何だったのか。却下だ却下。

人類ほぼ滅亡後の「母さん」

 プレイ日記本編の中でもすでにいくらか語ってしまった、万能型アンドロイドと彼女に育てられた最後の人類(主人公除く)。
 万能型は第三次反攻作戦でエースとして活躍していたが、死神には勝てず部隊は壊滅。すでに瀕死だった主人公の娘を連れて第五階層拠点まで退却後、彼女を看取る。最終的に、人間とアンドロイドの両方を含め軍の唯一の生き残りとなった。
 その際に娘の「どうか人類を絶やさぬように」という願いを聞き、これを最後の命令と解釈する。たった一人で人類再生を目指して奮闘を始めた。

 初見ではだれが何をしようとしていたのかさっぱりな『権限』だが、日付の色を見れば万能型のものと分かる。単語一個だけという特徴的な手記のタイトルや、日付そのものが主人公の娘が死んだのと同日であるなど他にもヒントはいくつかある。
 いきなり人類の希望を託された万能型だが、一介のアンドロに過ぎない彼女には権限はほとんど持たされていなかった。自動工場では何も製造させてもらえない、データベースにはアクセスできない。それどころかそこら辺の扉すら満足に開けられない。使えるのは分解炉だけ(無意味)。これでは身動きすら取れないのでなんとか最低限の通行権だけでも……と各所の扉のセキュリティロックをハッキングでこじ開けようとしていたのが『権限』、という訳である。

 『失敗』で言われている遺伝子データベースのセキュリティ突破に必要としていた、438000時間とは年換算すると50年。その前にリアクター(要は心臓部)の寿命が尽きるということだが、実際『希望は失われていない』から『一人きり』で万能型が機能停止するまでに経過した時間が46年で、大体同じ時間となっている。「息子」の口ぶりからしても戦闘で破壊されたのではなく経年劣化の末のごく自然な機能停止、ある種の大往生を遂げたのかも知れない。もっとも命令を果たせずじまいで、悔いの大いに残る最期だっただろうが。

人類ほぼ滅亡後の「息子」

 そうして後に残された「息子」。「母さん」を喪ったのは彼が36歳の時で、それからは一人暮らしを3年間続け、最期は第三階層の自爆ニワトリの爆弾卵で致命傷を負い39歳で死去した。

 「息子」は一人で銃器や手榴弾などの武器を自作し、あしらう程度に敵性機械と戦い、第二階層から運んできた芋や豆の苗を育てて調理して食す日々を送っていた。さながら無人島への漂着者めいた生活と察させられるが、「母さん」を喪ってなおそこまで悲観的な様子も見られなかったのは旧時代の映画という娯楽があったおかげだろう。あの万能型に育てられたにもかかわらず口調がぶっきらぼうなのも、おそらく映画の影響と思われる。
 敵性機械をウスノロどもと言い捨てる辺り、戦闘能力は相当なものがあると推測される。浮遊機雷は手榴弾を1発だけではよく討ち漏らすし、二脚戦車は言うに及ばずだがあいつらも鼻歌交じりでスクラップにしていたのだろうか。想像を絶する。こいつだけ別のジャンルのゲームのルールで戦ってないだろうな? あの万能型が母代わりということで、ザ・ボスに育てられたネイキッド・スネークみたいな印象を受ける。やたら食べ物にこだわるところも含めて。

 プレイ日記本編でも少し触れたが、どうも万能型は人類再生の手段について「息子」にはほとんどか全く教えなかったらしい。第六階層も敵性機械の本丸としか認識しておらず、人工授精および育成システムについては全く知らない(一度万能型に聞いたことがある「かも知れない」らしいが、何にせよ覚えていない)。
 推測できる理由は2つある。1つは人類再生の蓋然性を少しでも高める方針の下、「息子」には危険なことを極力させたくなかったため。戦闘以外のことは大体「息子」の役だったと『本日の防衛』で語られているが、裏を返せば「息子」が実戦に充分慣れてなお、戦闘は主に万能型が担当していたという事実もこの説を後押しする。
 もう1つは例え第六階層の自動工場を突破し、艦橋にたどり着けたとしても、セキュリティロックを解除できなければ結局何もできないことが挙げられる。二脚戦車すら雑魚扱いなら多脚戦車くらいどうということもなさそうなものだが、勝てたところでそもそもその先へ行く意味がないという訳だ。
 ……考えれば考えるほど、最初から万能型にはほとんど打つ手がなかったのだなぁ。仮に「息子」の両親が殺されることなくさらに何人か子供を産み、そこから順調に再繁殖できたとしても(近親相姦だらけで遺伝的にまずそうな件はさて置く)、セ・キ・ローダーに搭載された諸々の資産には何一つ手を付けられない。実際にはもうあと数十年で可住惑星に到達できた訳だが、着いたとしてもそこで何の知識も技術も道具や機材もなしに、どうやって家を建てたり生活していくというのか。本当にお先真っ暗だ。主人公の娘が万能型に命運を託す際に、色んな権限の譲渡もしていれば……まぁ瀕死の人間にそこまで注文付けるのも酷か。

 「息子」に話を戻すと、他にも彼の知識には育った環境ゆえの様々な欠落が見られる。「母さん」が世界中で生き残りを探し回ったと言っているが、もちろんこれはセ・キ・ローダーの中限定の話。地上というか地球はすでにはるか彼方だ。建物は長方形じゃなくて球形に広げるべきじゃね? というのもセ・キ・ローダーの形状からの着想と思われる。畜産区画の知識を持たされていなかったのは、先述の理由で危険な動物に触れさせたくないという「母さん」の親心だろうか。

アンドロ無廃棄クリアが厳密には絶対不可能な原因の子

 第一階層の拠点、自動工場の分解炉の前に機能停止寸前の状態で倒れていた汎用型アンドロイドも、よくよく考えると謎めいている。彼女はいつ、どんな経緯であの場にいたのか。
 第一階層と言えば大型機に返り討ちにされた住民がいたが、この人物が連れていた汎用型は主よりも先にやられて機能停止している(『慢心の代償』参照)。なお住民の死体と汎用型の残骸は同じ20歩の位置にあり、拠点で倒れていた個体とは明らかに別物である。つまり問題の汎用型は、第一階層の住民が死んだ後にやってきたのだ。
 一方で「母さん」や「息子」はアンドロを製造する権限を持っていないことから、汎用型は軍の壊滅よりも前に造られたものと分かる。

 手掛かりになりそうなセリフは「生きて…いらしたのですね」「ここまでは辿り着けましたが…」。他にも主人公を主(あるじ?)と呼ぶが、主人公自身が本編で製造した汎用型も主と呼んでくるため何かを特定する材料にはならなさそうである。
 まずは前者。この汎用型は主人公の顔を知っていて、かつ生死不明または死亡済みという認識であることが分かる。もっとも主人公はセ・キ・ローダーの総司令官であるがゆえに、製造される全アンドロに顔や声がデフォで登録されている……なんて可能性もあるかも知れないが。
 次に後者。どうやら汎用型は偶然迷い込んだ訳ではなく、何らかの目的があって第一階層の拠点まで来たようだ。その理由はここにあるモノ、ここにしか無いモノを思い出せば一つしかあるまい。主人公のコールドスリープ装置だ。つまり汎用型は、スリープを解除し主人公を目覚めさせるために来たという推測が成り立つ。

 さて汎用型は、誰かの明確な命令によりここを目指したことになる。アンドロイドである以上、いかなる状況でも勝手に自己判断で行動を決めたりはしないからだ(「母」のように、指令達成のための手段を自分で模索することはある)。誰の指示か? 答えを出すには汎用型に命じられたタイミングを考える必要がある。
 生存時間がごく限定されている主人公の再登板を欲するとなると、それは非常にのっぴきならない状況であることが想像される。それはおそらく軍が壊滅寸前、すなわち人類を立て直す者が誰もいなくなる一歩手前の事態。貴重な30日を消費してでも、一刻も早く起きて戦線に復帰してほしい事態だ。ちなみにこの状況はメガネ女医が設定した「人類全滅時に自動起床」と似たようなものなのだが、この設定を女医以外の関係者が知っているかは不明だし、知っていたとしても全滅を待ってから復活するよりは事前に復帰して全滅を食い止めてくれた方がいいに決まってる。このタイミングで主人公を起こすのに疑問を抱く余地はない。

 で、改めて誰の命令なのか。主人公の娘ではない。彼女が「命令」したのは万能型1機だけで、その頃には他の人間もアンドロイドも全滅していた。そもそもそこに万能型がいるなら、彼女に指示すれば済むことである。わざわざ弱い汎用型に任せる任務じゃない、人類の存亡が懸かっているのだから。というかここで主人公の復活を万能型に頼んでいたら色々イージーだったのだが……まぁ瀕死の人間にそこまで注文付けるのも酷か(二度目)。
 つまり別の誰かが命令を下したことになる。一番可能性が高いのは当時の軍で一番地位の高い人物、例えば司令代理(または彼が途中で戦死などした際に、その後を継いだ人物)。で、死神の猛攻でアンドロ部隊が崩されつつある中、自分も戦死する=指揮官喪失という事態を予見した司令代理は、それを回避すべく汎用型に主人公の復活を託して戦線離脱させた。弱い汎用型を選んだのはまだ戦闘の最中だったため、強いアンドロを割く訳にはいかなかったから……というのはどうだろうか。または実際はもう1機くらい付けた(索敵型とか)のかも知れないが、第一階層まで生き残れたのが汎用型だけだったのだろう。
 しかしそうなると、大破状態で第一階層までたどり着いた汎用型は、そこで倒れたまま50年弱もの時間を過ごした訳か。なんと壮絶かつ悲惨な……

 あれ? そこにずっといたとしたら……残存人類を探し回ってた万能型が汎用型を見つけないはずがないよな? 見つけたら当然会話のひとつもするだろうし、彼女がここへ来た理由も知るだろう。すぐ先の部屋でセ・キ・ローダー司令が寝てることも。で、スリープを解除して起こすはずだ。船内の全てにアクセスできる権限の持ち主だし、艦橋までエスコートさえできれば大願成就だから起こさない理由がない。あれー? この説ダメなの……?
 というか万能型は、生き残りの捜索時にスリープ室には入らなかったのだろうか。部屋自体をスルーする理由が思い当たらないので、第一階層の拠点までは行ったがセキュリティロックのせいで部屋の扉を開けられず、中に何があるか・誰がいるか知らずじまいだったというところだろうか。汎用型は命令の際に入室権限もちゃんと付与されていたということで。

人間に付ける薬がない件

 主人公が一晩寝るだけで全回復する件はよく取りざたされるが、寝る以外に主人公の回復手段がないのはよくよく考えると不可解かも知れない。
 救急箱と呼ばれる箱を開けても、中にあるのはアンドロイド用の応急修理キットだけ。人間用の医薬品とかそういうのは一切ない。いや平時ならいざ知らず、敵性機械とドンパチやってたんだから包帯とか傷薬くらい入っててくれてもよくない? と訝った人もいたのではないだろうか。

 だがこれには明確な理由がある。強化外骨格の説明書によると今や(もちろん人類滅亡前の意味)戦場で体を張るのはもっぱら戦闘用のアンドロイド部隊の仕事で、強化外骨格という人間用の装備は割高と敬遠される傾向があるとのこと。人間用の装備が使われないということは人間が前線を張る機会が減っているということであり、ひいては人間が戦場で傷付くことも少ないということでもある。
 例えば反抗作戦に参加した主人公の娘は、手記の中でアンドロイド部隊への期待やら武勇伝は色々語っている一方、自分が戦ったというエピソードは一切ない。ついでに「息子」も『肉食いたい』で、猛獣狩りなんて危ないことはアンドロイドにやらせりゃいいじゃんと言っている。本編で主人公自ら敵前に立ったのは、当時としてはイレギュラー中のイレギュラーと言えるのだろう。

 で、アンドロイドだけが戦うのなら当然、補給物資もアンドロイド向けのものが用意される。戦闘に直接加わらない人間用の医療用品は不要だから物資から外す。合理的だ。
 もちろん戦場とは無関係な日常生活の中でもケガはするだろうし、そういう時用の医薬品もあったはずだが、それらはあくまでご家庭用の薬箱の中。戦場で偶然見かけるようなものではないということだ。

第六階層の自動工場の役割

 プレイ手記本編でもした「なんで工場が手榴弾投げるん?」とかそういう話。あっちではラスボス戦の最中ということで馬鹿みたいに大騒ぎしたが、冷静に考えたらこれはそんなに難しくない気がする。
 ずばり、第六階層の自動工場は最終防衛線も兼ねていたからではないか。この先にあるのは最重要施設である艦橋である。船内で有事が発生した場合、この中枢部分は何としても絶対に死守しなければならない。で、自律兵器を量産できる自動工場はそのための防衛拠点としてもうってつけという訳だ。実際「洪水」発動後はここも他の自動工場も、打倒敵性機械を目指す人類を強力に阻む砦として機能した。皮肉なことに。
 で、それだったら自己防衛機能も付けたら? ということで手榴弾、というか爆弾の射出装置も付けたと。アレは「洪水」以前から、元々防備の意図で後付けされていた機能だったんじゃないかと私は考える。

 第六階層の自動工場が他とは違う扱いであった根拠は他にもある。
 この工場は戦闘中にアンドロイドを無尽蔵に生産するが、つまりこの工場にはコアを始めとする素材が無数に蓄えられていることになる。一方、第一階層から第五階層にある自動工場のいずれかの分解炉にジャンクを投入し、そこから回収された素材は全ての工場で生産に利用できる。
 さて、おかしくないだろうか。なんで第六工場にいっぱいあるはずの素材を、第一~第五工場では使用できないのか? つまりこれは、第一から第五工場と第六工場の間では素材の融通ができないということ。第六工場が他から独立した存在であることを意味しているのだ。先述の通りここだけは常に素材を山ほど確保し、いざという時に艦橋守備要員の生産に回せるよう備えなければならなかったためだろう。
 え? そんなのゲームバランス上の都合に決まってる? 最初からコアとか使いまくれたらゲームにならんって? それはそう

寄生体は結局いたのかいなかったのか

 さて一部の話題を除き、ここまで基本的に寄生体の存在、「寄生体の仕業という可能性」を無視して色々語ってきた。理由は寄生体のせいだとするとそれで話が終わっちゃうからだ。という筆者の事情は置いておくにしても、寄生体原因説はそもそも検証のしようがない。他の何でもない寄生体こそがきっかけであると断定するための根拠って、いったい何があるのか? 何かあるのか? それが見つからないと何も始まらないのである。

 プレイ手記本編で「教主のかつての実験結果は信用してもいいのでは?」と私は書いた。生物を狂わせる物質AbTは確かに実在したとみていいはずである。だが問題はAbTと、寄生体とがどう結びつくのかがよく分からない点なのだ。素直に解釈するなら寄生体がAbTを分泌して操っているということなんだろうが、それを明確に示した記述がどこにも見当たらない。
 なんたって初めてAbTに触れた『実験結果』と、その次の『支配者の影』の文中には寄生体の寄の字もないのに、次の『地下生活の限界』で突然寄生体というワードが当たり前のように飛び出してきた。これが何だか不可解なのだ。

 そもそも、寄生体とは一体何なのか? 数式の羅列? それは十中八九教主の妄言だろう。いや教主や信者がそれを主張するのはいい。問題は軍は寄生体というモノをどう捉えていたのかが、どの手記を読み直してもさっぱり見えてこないことだ。ウイルスか? それとも細菌か? まさか士官や医師も、教主を鵜吞みにして数式と考えていたなんてことはあるまいが……じゃあ一体何だというのか。手術で除去できるから実体のあるモノであるのは確かだが。
 さらに言えば……少なくとも作中で入手できた手記の中では、寄生体が原因とはっきり示された事件というのも見つからない。1件もない。「犯人から寄生体が検出された」レベルのものですら皆無なのだ。あるのはでっち上げの疑いが強いか、でっち上げと断定された事案だけである。
 それによくよく考えたら、寄生体寄生体と騒いでたのって、いくつかあるであろう地下シェルターのうちのひとつでしかないんだよな。他のシェルターとはまず間違いなく、全く連絡は取れていない。取れてたら核戦争でどことどこの国がやり合ってるかくらいの情報は得られるはずだし、寄生体についてよそと情報交換した痕跡のひとつくらいあるだろう。そこら辺も孤立した閉鎖環境内での空騒ぎ、コップの中の嵐じみたしょっぱい印象を受けてしまう。

 これまた「息子」の言う暗黙の何かというやつなのかも知れないが、それにしたってこうぼんやりしていると存在自体を怪しみたくなるじゃないか。そもそも寄生体なんていなかったんじゃないの? と。「陰謀論にしても、もう少し具体性がねえとツッコミようがねえよ」と誰かも言ってたし。
 だがしかし、それならAbTはどうなる。メガネ女医は主人公の何を手術で切除したというのか。と、寄生体を完全否定することもまた難しいのだ。さて困った。存在しない派旗色悪しか?

 じゃあもう、アレいっちゃう? ズバリ「『実験結果』を始めとする、寄生体関連の研究内容がそもそも根底から間違っていた」説
 可能性は色々ある。AbTは確かに存在したが、その効用に対する解釈に重大な誤りがあった。憶測とか可能性止まりだったはずの考察が、伝言ゲームや査読ミスの結果どこかで確定事項にすり替わった。医学の権威っぽい人が迂闊に太鼓判を押したせいで、立場的に誰も疑義を差し挟めなくなった。人民統制に使えるネタとして、何者か(例えば軍)がごく早い段階で秘密裏に医師らに圧力をかけ研究内容を改竄させた。etc。
 またはもっとシンプルに、当時の医学は寄生体の存在・不在を判明できるレベルには達していなかった。実際、現実でも、後からそれが的外れだったと判明した医学知識や医術はいくつもあるのである。ロボトミー手術は今でこそ問題だらけの欠陥手術として打ち捨てられている存在だが、ある時代には精神障害の画期的な治療法として持てはやされた。ハンセン病はかつては感染力が高く遺伝性もある難病と誤解され、古来からの偏見もあり日本を含む多くの国で、政策として患者が一生涯隔離された。寄生体もまた、根本的な医学的見識の不足(と、あるいは『実験結果』の医師によるセンセーショナルな公表と、それによる強烈な印象付けなど)によって生み出されてしまった、ありもしない病魔だったのではないだろうか。
 ちなみにロボトミー手術の何が欠陥かと言えば、凶暴性などを抑える目的で脳の一部を破壊した結果、幼児退行などさらに重篤な精神障害が生じてしまう可能性が高いというものである。……どっかにいなかっただろうか、呼吸器を成功率の低い手術で一部切った結果、寿命が大幅に縮んだ人が。果たしてそれは、本当に意味のある施術だったのか? 当時は効果があるとされていただけに過ぎない、まるで見当違いなものだったという可能性はないか……?

 うん、全くひどい説だ。何の根拠もなしに大前提をちゃぶ台返しとか大概にしろって話ですな。
 まぁとは言っても、全くの酔狂だけでこの説をぶち上げた訳でもない。寄生体というモノはとにかく具体的な情報も確定事項も見当たらない。じゃあもう一から、根っこから疑ってかかる選択肢もアリなのではないだろうか。もちろん闇雲に疑うだけで真実が得られたら苦労しないし、さすがにこの説は私もプッシュする気はない。百撃ちゃ当たるかもレベルのネタ話だ。
 
 最後に……『寄生体』で言われていた、「人を操るのは簡単じゃない」は否定の根拠としてはやや弱いのではないかと私は思う。確かに細かい行動まで完璧に指定するのは不可能だろうが、ごく大まかに、二択のうちの悪い方を選ばせる程度の効力でも場面によっては充分有効なんじゃなかろうか。
 例えば秩序が失われ無法地帯と化したセ・キ・ローダーの中にはその二択、最後の一線を越えるか否かという究極の選択に直面した輩も少なからずいたはずだ。その中の何人かは実際に事件を起こした。「狂気っていうのは重力みたいなもんだ。ちょっと押すだけで十分だ」とは映画「ダークナイト」のジョーカーの言だが、その「ちょっと押す」役が身近に存在するだけでも世の中は思いのほか暗転し崩壊していく、のかも知れない。まぁだからといって、寄生体が実在した根拠には程遠いのだが。


 結論。
 寄生体はいたのかいなかったのか? 分からん

 余談だが『支配者の影』の文中で登場する「盲目の時計職人」、『寄生体』に出てくる「延長された表現型」は、共に進化生物学者リチャード・ドーキンスの自著のタイトル。
 それぞれを大雑把に乱暴に言うと「自然選択という無知性で盲目的なモノこそが生物を組み立て進化させる職人なのだ」「生き物の構造も思考も所詮は遺伝子っつうテンプレ通りの作り物なんだよオ! 人の自由意思なんてモンは幻想なんだよオオオ!」ということらしい。


疑い始めればキリがない 抜けないトゲだね

 おわり。

 期待した人もいないと思うが、結局多くのことは謎のままだ。だがそれも大したことではないのかも知れない。
 ともあれ人類は滅亡し、全てが途絶えた。後には寄生体も禍根も何も残さない。アンドロイド……もといピノキアたちに後を託した主人公のように、我々もここらでお開きにしようではないか。

 逃げ口上みたいだって? 逃げ口上ですとも




~後日談~

 この考察編を含めた一連のプレイ手記をアップし、肩の荷が下りた私は本作の作者の旧作にあたるRPG「カリスは影差す迷宮に」のプレイを始めた。そこで遭遇したのはダンジョンの中で主人公パーティーに向かって突撃し(シンボルエンカウント)、何の説明も脈絡もなくなんか突然自爆するニワトリの群れだった。そして直感した。

 第三階層の自爆するニワトリって、ただのセルフパロなんじゃなかろうか。この作者のゲームに共通するお約束ネタとかそういうやつで、それ以上の深い意味は特にないという可能性がここにきて急浮上してきてしまった。なんてこったい。
 
 まぁアレだ。世の中の真実って大体こんなもんよな


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