うつ×ADHD×東大受験 3 息子のマイペース受験記 鉄緑会入塾、期待と不安
塾
ここで塾についても触れておこうと思う。
小学校で仲がよかった友だちが筑駒に通っていた。彼は中学入学と共に東大受験指導専門塾として有名な鉄緑会に通っていた。お母さんとはママ友付き合いが続いていてたまにランチをしていた。
指定校以外からテストを受けて入るのは大変だと思っていたので、その塾に入ることは全く考えていなかったのだが、彼のお姉さんは、指定校以外の学校から中3の夏に受験して見事入塾したとのことだった。
「受けてみたら?高校になると入るのが難しくなるから中3の夏がおすすめだよ」とママ友の助言を息子に話してみると、
「受けてみようかな」
とその気になって、さっそく申し込んだ。
ただ一向に勉強する気配なく、ノー勉であっさり不合格。
そこであきらめたと思っていたのだが、中3の終わる春、
「これで最後にするからあと1回だけ受けさせて欲しい」
と再挑戦。
今回は数学を30分ばかり勉強して受験。
なぜしっかり対策していかないのだろう、と少々腹も立ったが、得意の英語がカバーしてくれたらしく、合格して高1から鉄緑会に通いだした。
高校1年生の間は英語と数学を取った。授業はついていくのが難しく、宿題もたくさん出るのでついていくのが大変だった。
最初は必死にやっていたが、だんだん宿題も取りこぼしが増えていく。
ただ、ここでありがたかったのは先ほどのママ友が、
「通っているだけで宿題なんて全然やらないで行ってるよ。同じ学校の友だちもそんなもんだし」
といってくれたこと。
焦っている様子はなく、むしろ今はそれだけで十分と、どっしり構えているように見えた。それでわたしも宿題までは無理でも仕方ないとあまり気にせずいられたのだ。
指定校以外から試験を受けて入った子どもの多くは、このあたりの塩梅がわからず疲弊してしまうことが多いようで、息子の学校から鉄緑会に通っていた何人かもそうなっていたそうだ。
英語が得意だった息子は2年生になるときに英語をやめて数学に絞った。
英語を取ると、自分が得意なところも不得意なところも一様にやらなければならなくて、力を入れたいところに集中できないというのが息子の考え。
といっても、やはり取らなければあまりやらないで終わる。ただ、鉄壁という単語熟語の本は行き帰りの電車の中でよく見ていた。
鉄緑会は年に1度保護者会があるが、そこに出ると講師の先生方も宿題を完璧にこなすのは難しいと考えていらっしゃるのがよくわかった。
定期的に報告書が送られてきて、小テストの点数から課題取り組み状況まで、細かいことまで載っていた。息子個人に向けたコメントもあり、ひとりひとりに目が行き届いていることに恐れ入ってしまう。
成績は平均よりやや下といったところだろうか。授業はひとコマ90分で終わらなければ延長されるので、家に帰るのは22時過ぎが多かったと思う。
だから授業前におにぎりや菓子パンを食べて、帰宅後におかずだけ食べるというスタイルの夕食になっていた。
留年?
鉄緑会に入って受験生的な生活は送っていたが、学校の試験勉強は相変わらず適当にやるという感じだった。あまりいい成績をとる意義を感じていなかったのだろう。
そうはいっても英語や塾に通っている数学はできていたし、興味がもてる教科はそれなりに準備もしていたので、学校の成績の心配は一切したことがなかった。なので高3を目前に控えた学年末試験での一件は忘れられないものとなった。
4月からは3年生ということで、小学校から続けていた定期的にキャンプなどに行く活動を受験終了までお休みすることにしていた。
休み前最後のキャンプの準備が見事に試験と重なった。
計画書を息子が作成することになって、これまでの集大成として完璧な計画書を目指す!という気持ちがムクムクと息子を飲み込んだ。
キャンプの目的を何度も書き直している様子に、試験期間中に大丈夫かなと思ってはいたのだが、その悪い予感は的中した。
物理のテストを終えて家に帰ると開口一番、
「やらかしたー。公式とか一切見ないでいったら本当に解けなかった。多分2点。」
学年末試験を全く勉強しないで受けるってある?そして100点満点の2点て大丈夫なの?
口には出さなかったが、はあ?という思いが渦巻いた。
翌日息子は少し弾んだ声で言ってきた。
「お母さん、物理意外とよかったよ!」
内心ほっとしながら
「何点だったの?」
と聞くと、帰ってきた答えの方が意外だった。
「3点」
・・・1点しか変わらないけどなんでこんなにうれしそうなのか?
もう一度よく考えてみた。100点満点から考えると2点も3点も変わらないが、2点から考えると50%アップ!
もうわたしも破れかぶれで
「すごい!1.5倍だね!」
と悪ノリしてしまった。
後でなぜあんなにうれしそうだったのか聞くと、やはり50%アップとの思考をしていたらしい。
少し前の保護者会で、成績が悪くて進級に問題のある生徒には担任から連絡があるので電話を取れるようにしてというようなことを説明されたが、関係ないと完全に聞き流していたので急に不安になり、いただいた書類を隅から隅まで読み直す羽目になった。
4月から受験生だと思っていたら、もう1度2年生なんていうことになってしまうのだろうか。
こちらは不安でいっぱいなのに、息子は
「まあ1、2学期はそれなりの点数取れてるから大丈夫でしょ」
と完全に高をくくっている。
果たして特に連絡が来ることもなく3年生に進級することができた。
高3のクラス分け
3年生では鉄緑会で英語を復活させ、物理と化学も取ることにした。
3年生1年間のクラスは2年生のクリスマス模試の成績で数学と英語がAクラスとBクラスに分けられる。
理1と理2の合格確率は両方Aクラスだと80%、片方がAクラスだと50%、そして両方Bだと20%といわれていた。
それまでの模試では英語が偏差値52くらい、数学が偏差値45くらいだったので、うまくいけば英語がAに入れるかなと思っていたが、息子はそういう肝心なところで力を発揮するタイプで、数学に気合が入っていた時期も重なり、うそのように両方Aクラスに入ってしまった。
もしかしたら本当に東大を目指せるのではないかと思えた瞬間だった。
でも実際はそんなにうまく回っていかなかった。
問題は理科。両方ともAクラスに入れたことで、まったく手つかずだった理科のクラスもハイレベルな子が多いクラスに振り分けられたような気がするといっていた。
難しくてまったくわからないが、周りは努力するし頭の回転が速く競争心があってポテンシャル高く興味を持って授業を受けている人ばかりだった。
最初からついていけず、差は広がるばかり。
物理と化学のことを考えると授業中のみならず、何をしていてもつらかったそうだ。
今日は塾だから遅い日だなと思っていると、夕方
「お腹が痛いから帰ってきた」
と事前連絡なしで急に帰ってくることが増えた。
夫の不安
こんな様子で受験はどうなるのだろう。これじゃ現役は難しいかもしれないなと、漠然と思っていたが、大学受験をしていない夫の不安はそのようなものでは済まなかった。
なかなか勉強に気が向かない息子を見ると黙っていられず
「そんなやり方で受かる大学があると思っているのか」
と、ついどなってしまう。
そして大学受験をしたことがない夫に受験を知ったようなことをいわれ、息子の反発はだんだん大きくなっていった。
時には聞き捨てならないといった様子で食って掛かったり、夫の言葉に涙したりして、幸せな家族の形も壊れ始めていた。
わたしは受験勉強の進め方について親にいわれたときのやる気がなくなる感覚をまざまざと思い出すので、夫にあまり咎めるようなことをいわないで欲しいと頼んだが、見ていたらいわずにいられないと、夫は遠慮して息子と同じ空間を避けるようになった。
息子は息子で夫がダイニングにいると一向に入ってこない。
同じ家にいても夕食のタイミングを外したりして、お互いに意識してなるべく会わないようにしていた。
それでもたまになにかの拍子でいい合いになることがあった。
息子は涙しながら
「お母さん、僕大学に入ったらこの家を出るよ。お父さんと喧嘩したいわけじゃないけど、どうしてもこうなっちゃうからもう一緒にいたくないんだ。お母さんには悪いけど、家族でお正月に会うとかもできないかもしれない。でもたまに別の場所で会おうね」
といってきた。
大学入学とともにこの家族の形は解散なのか、と寂しさとあきらめの感情が渦巻いた。
わたしの息抜き
そんな日々の中でわたしの楽しみは友人たちとのウォーキングだった。ウォーキングといってもメインはおしゃべり。みな息子の学年のママ友なので、自然と大学受験の話が多くなった。
息子さんが通っている塾の夏期講習の説明会で先輩が体験談をしてくれた話。1日14時間やったら希望の大学に入れる人が多いらしい。
「エ~、そんなにやるの~?」
と驚いたが、それを聞いた友だちの息子さんは本当に14時間やって帰って来る日もあるという。
さすが高3の夏、それぞれの息子さんががんばっている。すごいなー。
でも不思議とあせりや嫉妬を感じることもなく、心からがんばって欲しい、うまく行って欲しいと思った。
男子のスイッチが入ったらすごいという話を聞いたことがあったが、それなのかなと、ちょっとうらやましい気はした。やっぱり思い切りがんばっているところを見られたらうれしいだろうな。
話のもう1つのテーマは大学生の東京集中を抑えるために、首都圏の大学の合格者数を厳密化し、予定よりある程度増えると補助金が打ち切られるという、何年か前に始まった制度について。
そのせいで合格者数が絞られ、皆が安全志向に走ったため、早稲田に受かってもMARCHに落ちるといった逆転現象が起きることもあるという。
「せっかくがんばっても数年前と比べてすごく難しくなっちゃって損だよね。」
「就職の時とか、単純に大学名で括らないで、○年の○○大学入学っていわせて欲しいよね。え?○年ですか?それはすごく難しかった年ですねって」
お上の一存で受験生がこんなに振り回されていいものかと、この話題はヒートアップしてストレス解消になった。
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