母というひと-008

迎えに来た母親の袖を
母は小さな手で掴んで離さなかったという。
トイレに行くのにも絶対に手を離さない娘の姿は祖母の心を痛めた。
戦争はほどなく終わったが、矢田家の消息を無理に探すこともせず
他の家へ養子に出すこともせず
そのまま、手元で育てることにした。

しかし現代とは世情が違う。
子供を何人も抱えて片親しかいない家庭も珍しくない戦後の混乱期。
児童手当も、生活保護もなく
祖母は一番確実に稼げる行商の仕事をやめるわけにはいかなかった。

祖母は子供たちを家に置いたまま行商へ出る。
1ヶ月家を空けては
商品がなくなると仕入れのために数日だけ家に戻り
またまるまる1ヶ月家を空ける、これを何年も繰り返した。

その間、子供たちを可愛がったり、教えたり、守ったりする大人は
どこにもいなかった。

#人生
#実話
#母親
#波乱万丈
#エッセイに近いかな

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