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輪舞曲 ~ブロンド②~

[side  ジョルジュ] 

 私がこの屋敷を相続したのは、つい半年ほど前でしょうか。小さな頃から何かと気にかけてくれていた叔母が、遺産としてこの屋敷を私に残してくれたのです。そうはいっても、今までこの屋敷のことを知ることなく過ごしてきましたので、遺言書を見て途方にくれました。私はこの土地にあまり縁がないものですから、どんな場所か想像もつかなかったのです。
 ただ以前より、知り合いが口々に、ピレネーの麓は夏の別荘地としては最高だと勧めてくれたものですから、一度行ってみようと思って来てみたのです。5月くらいならちょうど良い季節だろうと思いまして、覗いてみました。
 叔母のもとで働いていたメイドにも話を聞きましたが、この屋敷は夏のあいだに叔母夫婦が過ごすお気に入りの屋敷だったそうです。人を招くことも暫しあったのだとか・・・。晩年、叔母の体調が悪くなるまではよく泊まりに来ていたと聞いています。私が屋敷に入った時も、少し掃除をすればすぐに泊まることのできるくらいには手入れが行き届いていました。
 私はすぐにこの屋敷が気に入って、何日か泊まることにしました。幸い、叔母が生きていた時にこの屋敷で働いていた庭師や料理人も見つかり、すぐに働いてもらうことが出来ました。周りの景色も美しいですし、食事も気にいりました。
 こちらに来てから、屋敷の周りを散歩したり、ゆっくりと読書をしたりしていました。ある時、ふと庭を見てみたくなり外へ出ることにしました。庭師が丁寧に仕事をしてくれていることもあってか、雑草もなく新しい花の苗が植えられていました。
 私は庭師の仕事ぶりに満足しながら庭を歩いていると、ふと屋敷が目に入りました。正面の玄関から見た屋敷は見慣れていますが、後ろ側から見たことは今までありませんでした。それに、初めて来たときに屋敷のすべての部屋を確認したつもりでいましたが、少し違和感と言うか・・・不思議な感じがしたのです。
 それは2階の角部屋でした。私の思い違いでなければ、そこに窓はなかったはずです。でも、今見える場所には確かに窓がある。私は不思議に思って、執事を呼んで聞いてみました。彼もそこに窓があるとは思っていなかったようで、驚いていました。2階の角部屋は、本の置いてある部屋だったはずだと執事が言いました。屋敷の外観から、その場所は屋敷の一部のようで間違いありません。執事が言うには、昔メイドたちの使っていた隠し部屋なのではないかということでした。昔の屋敷には、家の主人や客人たちに見つからないように移動するための、隠し通路や隠し部屋などが存在する屋敷もあったようなのです。この屋敷にも、今は使われていないけれどそういったものが残っているのかもしれないと言いました。
 私は屋敷の中に入り、すぐにその部屋へ向かいました。やはり、2階から
は奥の部屋には入れない造りになっているようです。しかし、一階の一部分が屋敷の廊下でつながっていて、どうやらその奥に造られているようだとわかりました。私は何とか奥の部屋に行こうとしましたが、ドアではないかと思われる場所は少しも動きません。執事にもやらせましたが、まったく駄目でした。この屋敷の持ち主だった叔母もすでに亡くなっています。かつて屋敷を管理していた使用人たちも、亡くなっているせいか見つけることが出来ませんでした。料理人は何も知らないと言っています。
 私は、部屋のことが気になりはしたものの、屋敷で過ごしているうちにすっかり忘れてしまいました。

 そうこうしているうちに、休暇が終わるときが近づきました。私は屋敷が気に入ったこともあり、また次の休暇にはこちらに来ようといろいろな手配をしていました。叔母夫婦が残した荷物の整理があらかた終わったこともあり、最後に屋敷の周りを散策することにしました。
 庭の植物を見たり、木に止まった小鳥を眺めていると、ふと視線を感じました。不思議に思って辺りを見回すと、何気なくあの部屋が目に入りました。そう、屋敷のどこからも入ることのできないあの部屋です。そして、2階の窓から、12,3歳でしょうか・・・もう少し幼いかもしれません、こちらを驚いたような顔をして見ているブロンドの髪をした少女と、確かに目が合ったのです。

 

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