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【まんが】「ゴールデンカムイ」 2周目の読みだから沁みた、7つの気付き

はじめに

まんが「ゴールデンカムイ」初読みから1年弱、2周目読みをしてきました。
その2周目読みで気付いたことを、メモしてみましたよ。

まず、まんが「ゴールデンカムイ」は情報量が多い。
主人公たちや主な登場人物たち、敵対勢力や、その他の勢力などなどが、
あっちで活躍、こっちで暗躍。
時には各勢力のうち一部のメンバーが交差して入り乱れて行動し、
大きくはメインストリームの目的のために動いてはいるものの、そのための傍流の動きもいろいろある。
はたまたアイヌの文化の紹介が前フリになって、実はエピソードに繋がっていた事柄にも気付かないといけない。

メンバーも多いから、今、誰と誰がここにいる。ということは、残りの誰と誰がどうなっていて、とか、
読者にすでに明かされたこの内容は、誰と誰がどこまで知っていて、でも誰と誰はまだ知らない、とか、
状況を把握して、話の流れを見失わないように着いていくのが大変。
ひとたび戦闘が始まれば、各人が全力で動き出すので事態はもっとごちゃごちゃ。

読み進めながら、「これは、いわゆる匂わせで、後で効いてくるのかも?」
と思われるところをチェックしたりと、やることが多いし、
そうやって気に留めるべきワードも、登場人物の多さの分だけ多い。

そんなこんなの一周目は、あたまがだいぶん混乱しながらも、とにかく読み進めた。

ということで、今回の2周目。

一周目を踏まえ、もうすでに知っていることも多いので、多少は読者として余裕があるはず。
一周目には理解が追いついていなかったことにも、ようやく気付こうってもの。

以下、我ながら「一周目はこれに気づいてなかったんじゃないかなぁ」と感じた点を、ひとまず7つ列挙してみました。


<1> 長谷川サンがロイド・フォージャーで戸惑う

もうすぐ戦争になりそうな隣国の動向を探るため、スパイとして潜入を命じられ、一般市民を装うカモフラージュのためにその国の女性と結婚し、家庭を築き、かわいい娘と3人で暮らす、その正体は、実は超優秀な諜報部員(情報将校)。

ウラジオストクの長谷川写真館の長谷川サンって、なんのことはない、東国(オスタニア)の精神科医ロイド・フォージャーだよね。
ロイドが「かりそめの家族」のはずのアーニャやヨルさんと過ごす時間に、つい癒されたり、ほっこりしたりすると、読者として大変嬉しいのに、
鶴見中尉がフィオナやオリガの小指の骨を捨てずに今まで肌身離さず持っていたことを月島軍曹に知られたら、憤怒の形相で怒りを表明されてしまう。

ちょっとツライ。


<2> くじら汁ヒンナのあんこうパス

みなさまご存じ、「うっかり《あんこう鍋》事件」。
ついつい興がノッてしまって、《あんこう鍋》で尻尾を掴まれました。
この《あんこう鍋》がそもそも、「ああ、あの曰く因縁の《あんこう鍋》ですね」と、シナプスをネットワークさせないといけない事案です。

なのだけれど、この長い長い争奪戦の旅の中で、アシㇼパさんに再三
「いつになったら、ヒンナヒンナできるようになるんだ~?」
「いまチタタプ言わないで、いつ言うんだ~?」とイジられ続けてきた尾形が、只一回だけヒンナ言ったのが、樺太でのシロイルカ猟のあとの「くじら汁」。

ヒンナだったんですよね。尾形にとって。
自分の人生の分岐点にある、あの味を思い出させる味だったんですよね。

♪あの日、あの時、あの場所で、シロイルカ鍋を食べなかったら

もし、割と最近《あんこう鍋》の味の記憶が自分の中で補強されるような食事をしていなかったならば、
あんなうっかり事案をやらかさなかったのかもしれないのです。

シロイルカ調理の際に、実は隠し持っていた残り僅かなとっときの杉元のオソマを出してきて、仕上げの味付けを決めたのもアシㇼパさん。
(《あんこう鍋》も、味噌ベースだったんでしょうねえ。。。)
そして、いよいよ流氷原上で、精神的に相当限界まで追い詰められてるフリして「人生の最期の瞬間に食べたいって言ってたもの質問」をかまし、カマかけたのもアシㇼパさん。

美形少女にいいように掻き回されていて、いっそ清々しいです。


<3> ロシア人誘拐犯の舌打ち「チッ」の変遷

(1)誘拐の邪魔が入ってきたから出た舌打ち「チッ」
 (=ロシア人誘拐犯としての「チッ」)

(2)なーんだ、人質の父親が「見殺しにする、お国のために犠牲になれ」って人質息子に言ったのに、結局やっぱり助けに来るのかよ。つまんねー、と思ったから出た舌打ち「チッ」 
(=尾形として、ボンボン育ちを見下して楽しんでいた時間が終わっちゃってツマンナイ気持ちから出ちゃった「チッ」)

(3)人質少年が、父(立派な軍人)の期待を一身に受けた兄上とは違い、弟の自分は父から軽んじられていると感じ続けながらコンプレックスを抱えて生きてきた境遇を知って、一瞬でも少年に共感してしまった自分が本当に心底嫌だったから出た舌打ち「チッ」
(=尾形の自分自身の甘さに対する「チッ」)

読者として与えられている情報に従って、まず読むと、最初は(1)。

読み進めると、種明かしがあるので、実はさっき読んだシーンは(2)だったのか!に辿り着く。
種明かしによって「チッ」の意味が激変したので、「ひー」って思う。

けど、もっと広範囲に作品全体がしっかり沁み込んだ状態で読むと、(〇〇の〇のコマが目に留まるようになって)
「待て待て待て、待て、これ(3)だ」って分かって、ひゃーってなった。


<4> 足シャカシャカの身体能力DNA

(1)ネタ振りが154話(単行本16巻)の1コマ
(2)ネタ回収が199話(単行本20巻)の大ゴマ …大ゴマにしてくれているとはいえ、遠いよう。

誘拐されて人質となった息子の救出に向かう少将が、気持ち沸騰し過ぎてフレディ・マーキュリー化してしまうインパクトに隠されて、
当初は気づくことができなかったのだけれど、
その直前に、滞空時間のわずかな間に足シャカシャカしていらっしゃる。(199話)

これは、後年になって、立派に成長して少尉になった息子が、
曲馬団に一時的に何だか入っちゃって活躍しちゃうインパクトに隠されて、
当初は気づくことができなかったけれど、
その手前で、滞空時間のわずかな間に足シャカシャカしている。(154話。軽業師少年に杉元の荷物をスられて追いかけるとき。)

鯉登少尉、少年時代には、立派な父上兄上と違ってダメな自分(そもそも目標水準は高い)にコンプレックスを抱えていたけれど、立派な軍人として尊敬を集め(、自らも敬愛して)いる父上の遺伝子を、実は紛れもなくしっかり受け継いでいるじゃないか。

それがきちんと描かれていたことがわかって、読者のおばちゃんは胸がしめつけられる思いだよ。


<5> 頭巾ちゃんが美術さん

アイヌの文化を後世に伝え残したいアシㇼパさん。活動写真という技術に出会って、アイヌの民話を映像に収めよう!と、黒澤ばりに鬼監督と化してしまう。

そうして黒澤の映画の鬼伝説みたいなこと言い出すアシㇼパさんのインパクトが強すぎて、一瞬見過ごしてしまいそうだけど、その脇で、頭巾ちゃんが黙って無言で仕事して(手元の参考資料写真を見ながら、舞台背景用の書割をせっせと描いて)る。

ということは、本編にまったく描かれてはいないけれども、この手前に必ずや、こんな↓シーンがあったんだね、と容易に想像できる。

アシㇼパさんがアイヌの民話を映像に収めたいと言い出す …これは本編に 
 → 撮影チームが渋る。フィルムも高価だし。     …これも本編に
 → 杉元が脅す。「アシㇼパさんに協力しろ、コラ」 …ここまでが本編に描かれている。
→ 杉元は、アシㇼパさんの撮影活動が順調に進み高品質に仕上がるよう
  全力サポートしたい。
→ 杉元だけが、頭巾ちゃんはお絵かきがとっても上手だと知っている。
→ 美術スタッフに取り立て

必要最小限の描写で、読者にいろいろ伝えてきてて、恐れ入る。。。

(ここの民話関連だと、大きな鳥が空からこぼした涙がまるで民話の再現かのように顔に当たるシーンが、本当にすごいと思う。好き。)


<6> 尾形がせっかく心からの笑顔見せたのに、すぐまた無表情(デフォ)に戻る

お見合いの替え玉ノラ坊が帝国ホテルの(たぶんスイートルームの)ドア蹴破って口汚く罵りながら飛び出してきた時、
その流れで急に尾形の顔のドアップになって、次週につづく。となる展開に初見時は戸惑ってしまい、
尾形のこの笑顔の意味するところを掴みかねていたのだけれど、
全体を改めて読んでいって、ようやく腑に落ちた。

んで、笑って叱られていたのに、ほどなくのシーンでは無表情に戻っていた理由も。

っていうか、勇作殿の真っ直ぐなお人柄が、素直なド直球の発言に現れているよね。
「どうして裸なんだい?」 
これだけの混乱状況に対して、まっすぐ過ぎる質問。。。見事。


<7> 一応、月島に尋ねてあげたらどうかと思う

そのお見合い突入時、笑ってる尾形を叱りながら仕事して頭から打撲出血する怪我まで負った月島軍曹ですが、
過去に「いご草ちゃん」の嫁ぎ先を調べ上げた鶴見中尉は、ニアミスまで近くにいることを把握しているわけで。

いくら過去に月島自身が一度は、「いいです」って固辞したとはいえ、
幸せに暮らしている様子、
財閥の旦那さんに愛されて大切にしてもらっている様子を、
せっかくだからこっそり一瞬遠くから見て、この目で確めるくらいは
したかったかもしれないじゃないの。

一応、月島に尋ねてあげるくらいは、したらどうか、と思う。
頭に高価そうな大きな壺を振り下ろされて血を流してまでも、忠実に命令を守って奮闘してるのに。。。

月島、そりゃあ、後年ドアの鍵穴越しにいろいろ知らされて、憤怒の形相で怒りたくもなるよね。

(そんな月島の人生に、
 みんなでサウナに入ったり、少女団として華やかに踊ったりした
 ヘンテコなひとときがあって、本当によかったと心から思います。)
(拳骨男にお姫様抱っこ(重傷者だから)されて、なんともいえない複雑な表情になっている顔も大好き。)


以上の7つ。

ほかにもいろんな描写のなかに、まだまだ私には気付けていないネタのふりと回収がありそうなので、
今後も時間を置いて、3周目、4周目と読んでみたいです。
それでやっと、改めてハッ!うわーっ、と気付くこともあるんだろうなあ。

ちなみに、2周目で全体を読み通してみた今回の読後感としては、
「この長いお話は、結局、ひと言で言うと《鯉登くんの成長物語》だったんだろうか」
というのが感想として残りました。
こうした全体の印象も、読むたびに変わるのかも?です。

なんにしろ、読者の読解力を信じてる作品を読むのって、楽しい! あー、楽しかった。

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