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【小説】だってクリスマスですもの

Twitterを見ていた。
私の地元のフードバンクが、建物の老朽化で移転する必要があるという。
最近は、利用する人が増えていて、渡す食料も足りなくなっているという。

私は家の中を見回した。
一応、食料のストックはある。
けれども、それは余っている食料ではなくて、我が家で食べるためにストックしている食料だ。

次に、ダンボールを探した。
小さい箱があった。
サイズは60サイズ、つまり縦、横、高さの合計が60センチのもの、宅配便でいちばん小さなサイズのもの。

小さな箱に、食品を詰めてみた。
レトルトカレー、パックごはん、缶詰、お茶のペットボトル。
あとは、コーヒーのパック。

それで、いっぱいになった。

きっと、必要な量には全然足りていない。第一、この食料、うちの食べる分だし。

私は、食品を取り出して、箱を片付けた。それから、買い物に行くことにした。

ちょうど、クリスマスが近づいてきていて、町は賑わっている。

クリスマスのお菓子。ツリー、サンタさん。

かわいいクッキー缶を見つけた。
クリスマス仕様のもので、とても美味しそう。
ちょっと迷って、だって高いから、でもやっぱり欲しくなって。

夕ごはんのおかず以外に、クッキー缶を抱えて帰ってきて。
家族みんなでご飯を食べて、このお菓子はクリスマス用よ、と、見えるところに置いて。

それから、毎日、わくわくしながら、クリスマスのお菓子を眺めていた。

もうすぐ、クリスマス。

買い物の帰り道、お店の店頭で、フードバンクへの寄付を呼びかけているコーナーがあった。

だって、私に何ができるというの。
この食べ物は我が家で食べるために買ったのに。
私は、家に帰った。

私は、サイフを開いた。
千円札が一枚。
一生懸命、節約して、やっと残った千円札。
私の、おこづかい。

「ママ、お腹がすいた。食べるものなーい?」
「え?さっき食べたじゃあない」
それでも、お腹がすいたと、言いはる子どもに、千円札を渡す。
「これで何か買って来なさい」

すっかり、空っぽになったサイフ。
まあ、食料のストックはあるし、今月はたぶん大丈夫。
私は、お給料日までの日数を数えた。
うん、足りる。

12月24日。
その日は、クリスマスイブでもあり、我が家の給料日でもあった。
子どものクリスマスプレゼントは既に用意してあるし。
あとは、クリスマスを待つだけ。

○○○○○○○○○○

「ママ~、お腹がすいた」
え?また?
サイフの中は空っぽだった。
何か食べるもの。
棚の中、冷蔵庫の中は空っぽだった。
米びつも!
どうして、どうしよう!

○○○○○○○○○○

「ママ?」
私は、飛び起きた。
夢?
まだ心臓がドキドキする。

(……そうか、子どもがお腹すかせた時、食べるものがない家があるんだ)

明日はクリスマスイブ。
今さら、遅いかもしれないけど。

フードバンクへの寄付を呼びかけているコーナー。
私は、そっと、クリスマスのお菓子を置いた。
今日まで、わくわくさせてくれてありがとう。

その日の夕方、クリスマスのお菓子がないことに家族が気づいた。
「ごめ~ん、人にあげちゃった」
子どもは、ちょっと不満そうにしていたけど、ホットケーキを焼いて食べたので、機嫌を直した。

クリスマスイブの前日、お金はないけれど、食べるものはあって、幸せだった。

ちょっと早いけど、メリークリスマス。

(終わり)

チャリーン♪ しあわせに、なーあれ(о´∀`о)