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帰る場所。17/20

電車から見える景色が銀色から、緑色になっていく。鼓動は緩やかになり、優しいため息をする。故郷から帰る時はいつもこうだ。忘れていた心の安堵に肩の力は簡単に抜け、緊急の日々はもはや嘘のように感じる。電車を降りて大きく吸った息で瞳を閉じれば、包み込まれた気分になった。実家に帰ればいつも食べられない手料理が私を待ち、頬いっぱいに、ほうばっりながら、日々の生活についてああだこうだ言って食卓を囲む。あの時、交わせなかった会話を今酒を片手に話す。私の人生は迷い彷徨い、嘆くばかりだが、帰る場所はいつもここにあった。帰る場所があるから安心して、不安と向き合える。新しい自分に挑める。ーーー有り難みを忘れたら、どうかここにちゃんと帰ってこれますようにーーー私の帰るべき場所はいつもここだから。