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*妖怪になったお婆が教えてくれたこと。
うちのおばぁは92歳で天に帰った。
92歳と言うと、だいたい大往生だね、と言われるのであるが、
私は納得していなかった。
なにせ、おばぁの体は病気ひとつせず、
毎日畑に行って動き回っていたし、
風呂には全く入らなかったけれど、自分の事は全部自分でしていたのだ。
この人は絶対に100歳まで生きれると思っていた。
だから、92歳で早死にして!と納得がいかなかったのだ。
おばぁは70代の頃までは小うるさい婆さんで、
耳が悪いのをいいことに、言いたいことだけ言う人だったから、
子供のころの私はあまり好きではなかった。
ところが、80を過ぎた頃、途端になんだか可愛く見えだした。
体もこじんまりし、あまり小言も言わなくなり、
顔も歯が無いせいでクチャッと小さくなり、
ちょこまか動く姿が何とも可愛らしいのだ。
そんなおばぁが大好きになった。
元々介護職をしていた私は高齢者が好きだった。
特に、90を超えた年寄りは、個性の塊で、
生きる強さを感じさせた。
だいたい明治、大正生まれの人達だったが、
その時代を生き抜いてきたのだ、強くないわけがない。
そんな90を超えた年寄りの姿は、
背中は曲がり、お腹がポコッと出て、
顔や手にはシミ、シワがたくさんある。
頭は剥げて、目はくぼんで、
抜けた歯のせいで顎は小さくなり、しゃくれている。
だいたい、その人の手を見ると、その人がどんな人生を送ったのか想像できるから面白い。
そんな90を過ぎた年寄りを見ていると、
いつも、「妖怪」を想像してしまう。
![](https://assets.st-note.com/img/1691306880439-5iN9lYqQCH.jpg?width=800)
昔々、70を過ぎた年寄りは姥捨て山に捨てられていた、
というウソかホントか分からないような話があるが、
もしそれが本当の話だとすると、
妖怪って、その捨てられた年寄りが山で生き残った姿なのではないか?と想像してしまう。
昔の人は強かったから、山に捨てられたとしても
食べるものがどこに生えているか知っていただろうし、
竹や木で雨風をしのぐ方法も知っていただろう。
火も起こせたかもしれない。
スーパーサバイバリストだ!
そんなこんなで山で生き延びちゃった年寄りを偶然見た人が、
妖怪と見間違えたのではないか?
な~んて、失礼な話であるが、
私はそんな妖怪になった90過ぎの年寄りが大好きなのだ。
この妖怪のような姿を、
いつも、なぜか、
美しいと見とれてしまうのだ・・。
もちろん、赤ちゃんや小さな子供も美しい。
10代、20代の若い時代も美しいものだ。
だから、人は老化を恐れ、美しさを保とうと励む。
最近の70過ぎの人でも、「おばあちゃん」なんて言ったら失礼かと思ってしまうほど綺麗だ。
それでも老化に勝てなかった90過ぎのシワシワじぃさんばぁさんにも美しさがある。
この美しさは一体なんなんだろう?
その人の生き様が反映されているはずだ。
人生の終わりが見えてきた、諦めの姿なのか、
自分の人生を生き切った!という満足感なのか、
もう先は長くないから、なんでも来い!みたいな肝の据わった心なのか?
人の痛みを知っている慈しみ、とか
欲の皮がはがれて自然に帰りゆく人間の本来の姿なのか・・・?
なんだかそんなものがにじみ出て、美しさを感じさせるのだろうか?
移住した当初、淡路島にはそんな妖怪がいっぱいいた!
「妖怪だらけだ!」と、わたしの目は輝き、
介護の仕事も面白かったものだ。
ただ残念なことに、最近の90過ぎのじいさんばあさんは
ちゃんと風呂に入り、臭くもなく、
入れ歯もきちんと入れていて、
キレイな洋服を着ているから、妖怪とは言いにくく、
私的にはちょっと物足りないのだが・・
![](https://assets.st-note.com/img/1691307150203-nqO2HMsT9Q.jpg?width=800)
人の心はその人の顔や姿に反映されているようだ。
そのことに気づいてから、自身の美しさに疎かった私も、
美しくありたいと思うようになった。
人間の老いは、今のところ誰も逃れることは出来ないし、
嫌でもシワは増えるし白髪になるし歯も抜ける。
ワタシも最近歯周病とやらで歯の調子が悪くなり、
自分の人生に「総入れ歯」というキーワードが突然でてきて
恐ろしく感じている。
体の色々な部位で老化現象を感じ、
「あぁ、こうやって、人は朽ちていくんだなぁ・・」
と人生半ばにして自分の視界に「死」を垣間見る。
まだまだ、「妖怪」の域まではいかないけれど、
血気盛んな若さはなく、
なるべく無駄を省き、気力も体力も省エネ、
怒る、なんて無駄なエネルギーの消費でしかない、
笑っていた方が平和だ、とばかりにへらへら笑っている。
自分で人生切り開くよりも、
波に乗っていた方が楽、だなんて考えだしている。
若い頃とはずいぶん違ってしまって、
いいのか悪いのか分からないけれど、
力が抜けてきた分生きるのもずいぶんと楽になり、
表情もなんだか穏やかになってきた。
若い頃は、「いつも怒ってるね」と言われていた私が、
「いつも笑顔だね」なんて言われる始末。
妖怪道まっしぐら!
しかしそれも自然なことなのだろうか。
老いてもなお、美しく在り続け、
益々美しくなっていくこともできるハズだ。
それは、若さゆえの美しさ、ではなく、
若さを失ったからこその美しさで、
無駄を省いた人間の所作のようなものだろうか。
妖怪となったお婆を見習って、それらをいかに身につけるか、
老化現象が顕著に現れ始めた私の、
これからの課題となりそうである。
![](https://assets.st-note.com/img/1691308189185-107NvFil8T.jpg?width=800)
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