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Weekly Quest <電力問題・HVDC>

(2022年6月20日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


電力問題・HVDC


先週は交流での周波数変動を避けるための直流送電について見ていきました。その中で HVDC(High Voltage Direct Current:高圧直流送電)ということが重要になってきます。HVDCを行うために必要な設備を製作しているのが ABB(ティッカー:ABB)という会社です。今週はこのABBをみていきたいと思います。

ABBはスイスに本社がある重電関連の巨大多国籍企業でNY市場にADRが上場しています。2021年の売上高は318億ドル、純利益が47億ドルの会社です。株価は26.65ドル(2022年6月18日現在)、時価総額は540億ドル、来期のPERは23.3倍、配当利回りは3.2%です。最近では特に変圧器と送電のための高圧送電システムが注目されています。



(ABBホームページより引用)


(ABBホームページより引用)


電気を生み出し安定した送電を行うためには直流送電がカギだと先週書きましたが、これを可能にするためにはいくつかの問題を解消しなければなりません。

例えば中国は水力発電所が北部に多く、火力発電所は西部に多く設置されていますが電力を多く消費するのは主に東部という位置関係になっています。それぞれの発電所で作られた電気を消費地に届けるために長い距離を送電しなければなりません。その際に必要なのが鉄塔などの架線設備ですが、設置コストも莫大なものになります。さらに送電線に使われるケーブルは交流では3本をまとめて1本の電線にして送電に使用しています。

これが直流送電が可能になれば1本のケーブルで送電することが可能になります。また、ケーブルは地中に敷設することもできますし海底に敷くことも可能です。直流送電の例として、日本では北海道と青森県をつなぐ北本連系線が有名です。函館〜上北間(海底ケーブル)と北斗と今別間(青函トンネルにケーブル)の2本使われています。函館や北斗にある変換所で交流から直流に変換され上北、今別で交流に変換されて本州との間で送受電されています。


(ほくでんネットワークHPより引用)


欧州では脱炭素で自然エネルギーをベース電源とすることになりましたので、以前見たような自然エネルギーを電力ネットワークに入れる際のさまざまな問題も解決しなくてはなりません。そこで注目されているのがHVDCだというわけです。最近になってサイリスタやIGBTという特殊な電源用半導体が開発されたことで、直流電力の高圧化が可能になってきたことがHVDCの普及をさらに加速させることになりました。

今後は半導体だけではなく送電システムの構築に強みを持っているABBが業績を拡大するのではないかと思っています。日本でも日立製作所と提携しています。


ところで、ABBといえばご存知の方もいらっしゃると思いますが、電気自動車の最高峰レースのフォーミュラーEというものがあり、ABBは全面スポンサーとなっています。電気については何から何までABBが技術を提供しているのです。

(ABBホームページより引用)


ただ、この直流送電のデメリットも頭の片隅に入れておく必要があります。まず既存の送電網から切り替えるのは大変な作業になります。全部を直流でやろうとするとまず直流電力網を設置してから、今度は交流の送電線や鉄塔の撤去作業を行う必要があり莫大なコストがかかることになります。

また、HVDC専用ケーブルが必要になりますが、既存の送電線に比べると価格が高くなります。しかし、電力の不安定な状態は国の安全保障に関わる問題でもあるので置き換えするとなるとこれは国が負担する必要性が出てきます。今のまま交流主体であれば、周波数変動の問題は避けて通れなくなります。このあたりが電気の難しいところなのです。

しかし、自然エネルギーの周波数変動を抑えるためには直流に変えて電力ネットワークに接続し出力管理を行った上で交流にもどして送電すれば現状の設備も使用することができます。また、直流であればすぐに停止することも可能になりますので、災害などで送電が停止した場合にも電力網に大きな影響を与えることがなく遮断が可能になります。

今回はインフラ関連銘柄としてABBを見ていきました。

ここで紹介した銘柄は将来の値上がりを保証するものではありません。投資は自己責任でお願いいたします。

最後までお読みいただきありがとうございました。


バックナンバー

Weekly Quest <電力問題> /(2022年6月6日号)
・Weekly Quest <電力問題・周波数変動> / (2022年6月13日号)


参考図書・文献

・デジタルグリッド / 阿部力也著 /エネルギーフォーラム
・電気学会誌 2019年7月号 / 「北海道の停電から電力系統を知る」438項
・SEIテクニカルレビュー・第181号 / 直流マイクログリッドシステム
・NEDO 直流送電技術におけるNEDOの取り組み 2019年6月4日
・日立評論 Vol.102 No.02 214-215 / 飛騨信濃周波数変換設備の特長技術 最新の直流送電プロジェクト
・日本風力エネルギー学会誌 Vol.41, No.2