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Weekly Quest <儲けすぎ?>

(2023年9月25日号)


毎週月曜日に Weekly Quest と称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


社長の給料


九月も終わりに近くなりさすがに涼しくなってきました。はやいものでもう九月も終わってしまいます。

さて、アメリカで実施されている自動車ビッグ3のストライキは徐々に規模が拡大しており収束する気配がありません。組合のUAW(United Auto Workers)・全米自動車労働組合は40%の賃金アップを譲らず、会社側も20%以上の賃上げは認めないと主張し議論は平行線のままです。


ストによるアメリカ経済に与える影響は10日間で50億ドルとも言われています。50億ドルと言えば Ford と GM の四半期純利益額の合計額に相当する金額です。Ford は40%の賃上げを認めると会社が倒産すると言っていて、ストが開始されるとすぐに600人のレイオフを実施しました。

利益から給与を支払うわけですが、ストによる損失を補う手段がまず首切りというのもいかがなものかと思います。Ford はその創設者ヘンリー・フォードによる考え方が昔から根付いていて従業員を守る会社だと言われていましたが、全然変わってしまったようです。

また、リーマンショック時に公金で救済されたということもすっかり忘れてしまったようですね笑。折りしも自動車三社は記録的利益を上げた後ということもあり、それでも組合側の主張を受け入れないというのはイメージが悪いものになってしまいます。

さらに、このままストが続くようだと、せっかく戻りつつある生産に再び影響が及び、新車の販売台数に影響が出てくるかもしれません。それに伴い中古車の値段も再び上昇する可能性があります。これは物価上昇の要因になります。

バイデン大統領は労働組合が支持する政党に属していますから、仲介する気もないようです。それにしても労働力不足に端を発した賃金上昇の結果アメリカ経済はインフレを起こしましたが、同時にストライキが多発するようになりました。

労働者側にとってはまたとない要求のタイミングとなったわけです。各社CEOがインタビューに応じて組合側の要求には従えないとコメントを出していますが、中でも注目を浴びたのがGMのCEOのインタビューでした。

このインタビューで「あなたの報酬は34%も上昇しているのにどうして従業員には20%の賃上げしか認めないのか?」と問われ、「会社の計画に基づき公正に利益配分している」と答え世間に対して非常に印象の悪いコメントになってしまいました。

ちなみにGMの組み立て工員の平均年収は約4万ドルですが、GMのCEOの年収は約2900万ドルで実に工員の725倍の報酬を手にしていることになります。


自動車業界に限らず昨年あたりからアメリカ国内ではインフレを背景としたストライキが多発しています。昨年夏の鉄道貨物の労使交渉は話題になりましたが、物流を担う重要インフラでありバイデン大統領が慌てて仲介に入りその時はことなきを得ましたが、まだ全面的に組合側が納得している水準ではありません。




これらを見ると労働者側がかなりひどい条件下で働いていることが浮き彫りになってきていますが、アメリカでの格差がコロナを境に本当にひどい状況になっていることが伺えます。以前からこの格差の原因の一つとなるのが自社株買いとストックオプションだと言われています。


自社株買いとストックオプション


アメリカの会社が株主還元の一環として実施しているのが ”自社株買い” で株価に大きな影響を与えます。

自社株買いとは企業が自己資金で自社株を買い取り償却(もともとなかったことにしてしまう)する政策で、発行済み株式数が減少すればその時の一株当たりの利益が上昇するので株価にとってはプラスの材料ということになります。

一株当たりの利益が上昇すれば PER(株価収益率)も下がり割安感から株価が上昇するという流れになります。


(日経新聞2022年8月17日記事より引用)


しかし、これを悪用する企業も多々あるということです。純利益額以上の金額で自社株買いを実施したりする企業があり、株価を上げるためだけになりふり構わず行う企業も数多く出てきて以前から問題になっています。

バイデン大統領はインフレ抑制法の一環として自社株買いの資金に課税をするという制度を導入しました。ただ税率は1%ということですのでどれだけ効果があるのか微妙なところです。

自社株買いを行い株価を上昇させることは、経営者をはじめ株主には嬉しいことですが、ストップオプションという特別なオプションを役員になればなるほど大量に保有していて報酬が株価に連動する仕組みになっています。

これが先ほどのGMの例でも見られた非常識と取られかねない報酬格差につながっているわけです。

ストックオプションにより経営者や従業員のモチベーションがあがり業務に邁進できて会社にとって良い効果をもたらすというのが本来の在り方なのですが、「株価さえあがりゃあいいんだよ」という発想に陥ってしまい株価を上げる手段として ”自社株買い” が使われるという本末転倒なことになっているのが現状です。

全部が全部本末転倒しているとは言いませんが、利益として得た資金を新製品の開発にもつかわない、配当も増配しない、賃金を引き上げることに使わないのに自社株買いだけはしっかり実施しているというのは怪しい企業と言われても仕方がないわけです。

こういったことも含めてアメリカ社会の格差拡大を拡大させる原因にもなりますが、歴史的に見て今のようにひどい格差になったことはありません。ただ、過去の歴史でこういったひどい格差が一気に解消することがありました。それは ”戦争” でしたが、今回もこういった大きな格差が続くはずもないのではないかと思いますのでそう言った意味で米中、米露など地政学的リスクにも要注意ということになります。

個人的にはコロナが格差縮小のきっかけになるのかと思いましたが、結局貧しい人たちや労働者に皺寄せがいってしまい、逆に格差が拡大してしまいました。格差の解消する原因は市場にとってはブラックスワンになり大きな変動になると思っておいた方が良いと思います。

資産運用においては、株主は単に自社株買いに一喜一憂せず、自社株買いの金額が利益や保有現金の範囲内なのか、配当性向を満たしているのか、新製品の開発が進んでいるのか、売上高が順調に拡大しているのか、労働争議が起きていないかなどをきちんと確認した上で、その株を保有継続するのかしないのかを判断するべきだと思います。

来年から新しいNISAも始まりますが、当然ですが、個別の株式で運用する場合は会社の中身や経済ニュースをよく確認することが重要だということになります。


最後までお読みいただきありがとうございました。