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Weekly Quest <アメリカ・リセッション・4>

(2022年7月25日号)


毎週月曜日にWeekly Questと称し旬な話題を深く掘り下げて投資のヒントにしていければと思います。


アメリカ・リセッション・2008年代



米国債の長短国債利回り逆転現象(以下、逆イールド)がリセッションにつながるという話を書きましたが、今週は過去三回起きたリセッションのうち最後の三つ目を見ていきたいと思います。時期的には2008年代に発生したリセッションです。

(FRB Economic Researchより作成)


2008年代といえばサブプライム・ショックと言われていてアメリカで金融危機が起きた時代です。この時の詳細は以前のブログをご参照いただくとして、今回はその前に起きた逆イールド現象とその後のアメリカ経済の状況を確認してみたいと思います。

この時期の逆イールド現象は株式暴落前の2006年6月ごろから始まり2007年4月ごろに解消しています。この間の逆イールド現象と株価の動きを確認してみます。

(FRB Economic Researchより作成)


逆イールド状態が約9ヶ月継続しましたが(一旦解消している)、その間の株価はむしろ上昇しました。この後、株価は大暴落し経済はリセッションを起こすことになりました。

さらにこの逆イールド期間にはFRBによる金利の引き上げが実施されています。2004年6月あたりからFRBは住宅市場の異変を察知し金融引き締めスタンスに転換しています。それまでの低金利を背景に住宅用不動産価格が上昇していましたが、住宅購入件数の28%が「投資用」だったということで住宅バブルがいよいよピークに達しようとしていました。

金利は2004年6月から2006年5月まで合計十六回にわたり引き上げられたことによって短期金利が急上昇しました。一方、中国などの海外からの資金流入で長期金利が穏やかに推移した結果、逆イールド現象が生じてしまいました。

しかし、貸出金利も大幅に上昇したことにより住宅バブルがはじけてしまったことが、後にサブプライム・ショックを引き起こすことになりました。

この時のリセッションはNBER(National Bureau of Economic Research)によると2008年1月辺りから2009年6月ぐらいまでが景気後退期とされています。この頃のPCE・個人消費(食料、エネルギーを除く)を見てみると以下のようになっています。

(FRB Economic Researchより作成)

2008年第四四半期にはマイナスになってしまっています。

また、同じ時期の新規失業保険申請件数です。

(FRB Economic Researchより作成)


自動車販売台数です。

(FRB Economic Researchより作成)


このように見てみると逆イールド現象発生からだんだんと各経済指標は悪化していきました。

ちなみに2008年にはGMが倒産してしまいました。フォードは倒産こそ免れましたが、かなりまずい状況に陥ってしまいました。アメリカの象徴でもあったGMやフォードが(クライスラーは2004年に倒産)なくなってしまうのはアメリカとしても大いなる苦痛でしたので、公的資金を活用し救済していくことになりました。

国民の血税で救済するわけですから各経営者を出席させて公聴会が開かれることになりましたが、その席で「この中で車で公聴会に来た経営者は何人いますか?」という質問がありましたが、誰もいませんでした。

これには政府の委員も大激怒してしまい、「オマエらはそんな無駄遣いしてるから会社が潰れるんじゃないか」とえらい怒られたという話がありました。みなさんジェット機でいらっしゃったようでそれが逆凛に触れてしまったのでした。

ほどなく公的資金の活用が決まり、新車の購入に政府から補助金が投入されるようになりましたが、これがまた大変なことになりました。蓋を開けてみるとアメリカ人が補助金を利用して購入したのはGMやフォードではなく、なんとトヨタやホンダなどの日本の自動車でした笑。低燃費がアメリカ人にも大好評でしたが、このことが、のちにトヨタのプリウスでブレーキの欠陥があると言いがかりをつけられトヨタの社長が公聴会に召喚されることになってしまったということにつながるのです。言いがかりもいいところですけど。


以上、今月は過去に起きた長短金利逆転現象からリセッション発生という歴史を振り返りました。

さて、7月入り再びアメリカの長短金利逆転現象が継続しています。背景にはロシア侵攻による原料価格高騰やゼロコロナ政策による物流停止などで酷いインフレが進行し、見かねたFRBが利上げを開始したことによるものですが、ニューヨークなどでの不動産価格高騰や家賃バブルも発生しています。


過去の歴史をみると今後アメリカの経済はリセッションに入る可能性が大きいのではないかと思います。商品市況がリセッションを織り込み始めて低下してきています。株価は逆イールド現象解消後に大きく下落する可能性がありますので、いまからでもポートフォリオの見直しをはかりキャッシュポジションを増やしておくのが安心かと思われます。


最後までお読みいただきありがとうございました。


参考図書
・波乱の時代 -わが半生とFRB- / アラン・グリーンスパン / 日本経済新聞出版社
・波乱の時代 -世界と経済のゆくえ- / アラン・グリーンスパン / 日本経済新聞出版社

参考文献
・米国のリセッション 判定と景気の現状  / ニッセイ基礎研 REPORT August 2008
世界の潮流(内閣府)