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万引きした物と同じ物をサンタさんから貰う物語

『万引きのクリスマスプレゼント』

幸子は万引きをした。

幸子は小学4年生。家は母一人。貧しかった。
幸子はチョコレートケーキというものを食べたことがなかった。
どうしても食べたかった。

幸子は万引きをした。

スーパーでこっそりとチョコレートケーキを盗んで、急いで外を出た。
ふわふわのスポンジととろけるクリーム、そして濃厚なチョコレートの層が、きっと私の舌を楽園に誘ってくれる。
幸子の心は踊った。

「お嬢ちゃん」

あっさり捕まった。
幸子はひたすら謝った。
スーパーの店員さんは「お母さんは?」と聞いた。
幸子は「お母さんには言わないで欲しい」と言った。
「迷惑かけたくない」と言った。
幸子の声は震えていた。

スーパーの店員さんは、お母さんが怖くて言っているのではないとすぐに察した。
幸子の身なりや訴えを聞いて、何となく事情を把握した。
「…わかった。お母さんには言わない。ただし、万引きは悪いことだからね。もうやっちゃダメだよ」
そう言って、幸子を帰した。

家に帰った幸子は、一人でじっとしていた。
そして、お母さんが帰ってきた。
いつもの元気がないことにお母さんは気付いた。
「幸子、今日は何の日か知ってる?クリスマスよ」
お母さんはテンション高く言った。
「サンタさんからプレゼントもらったの。何だと思う?」
お母さんはスーパーの袋を掲げた。
その袋の中には、チョコレートケーキが入っていた。
メリークリスマスという板チョコが上に乗っていた。

幸子はハッとした。
万引きしたチョコレートケーキと全く同じものだった。
スーパーの袋もあのスーパーの名前が入っていた。

「幸子、チョコレートケーキ食べたことないでしょ?だからサンタさんがくれたの」
お母さんは明るく言った。

幸子の顔は晴れなかった。
そして泣いてしまった。

「どうしたの?」

「ごめんなさい。私、それもらえない」
「え?どういうこと?」

幸子は全てをお母さんに話した。

「だからそれ、サンタさんに返しといて」
幸子はプレゼントを拒否した。

お母さんは言った。
「わかった」
それしか言わなかった。
幸子に万引きさせてしまったのは自分のせい。
でもちゃんと反省している我が娘。
正直、何と言っていいのかわからなかった。
だから「わかった」以外の言葉が出てこなかったのが事実。
それでもお母さんは何となく娘の成長を感じた。

それから3カ月が経った。

幸子はあのスーパーへ行った。
そこにはあの店員さんがいた。
「店員さん、お願いがあります」
「あら、あの時のお嬢ちゃん?何?」

「メリークリスマスという板チョコが上に乗ったチョコレートケーキを作ってくれませんか?お金はお手伝いして用意しました」

店員さんはビックリしましたが、一回、裏に行って戻って来て「いいですよ」と言いました。

それから数日後。

幸子は生まれて初めて、クリスマスのチョコレートケーキを食べました。
外は桜が咲き始めていました。


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