テレパシストの敗北
人間には誰しも大なり小なり特殊能力を持っている。だがほとんど者はそれに気付いていない。私には特殊能力がある。
私は、テレパシストだ。
相手の脳内で考えている事が、手に取るようにわかる。すなわち、私の前では隠し事は一切できない。この能力は刑事である私にとって非常に役立っている。
さあ、取調室。私はいつものように言う。「お前がやったんだろ?」
松本「やってねーよ」
松本の頭の上にかつ丼が浮かび上がる。
そう、このようにしてその人が今思っていることが、その人の頭の上に映像として現れるのだ。
私は続ける。「隠しても無駄だ。いいか、私に隠し事は通用しないぞ。お前が殺したんだろ?」
松本「やってねーって言ってんだろ」
松本の頭の上にはかつ丼の映像がゆらゆら流れている。私は机を叩いて怒鳴った。
「お前がやったんだろ。そして、早いだろ」
かつ丼が消えた。松本は先ほどまでの表情とは一変した。机の音に驚いたのか?「早いだろ」に驚いたのか?どちらにしろ、先制パンチは効いたようだ。もう流れは掴んだ。さて、落としにかかるとしよう。
「お前がやったんだろ?」私は松本に優しく問うた。
すると松本の頭の上にかつ丼が。…?…あれ?…なぜだ?
松本「やってねーって言ってんだろ」
私「貴様―」
は?いかん。感情的になってしまった。落ち着け。今回の容疑者はなかなかしぶといということだ。まあ、こんな日もある。問題はない。まずはこいつの頭の中にあるかつ丼を消すことだ。
私「…これが凶器のナイフだ。お前はこれと同じ型のナイフを持っているな。よく見ろ」
松本はナイフを見た。すると松本の頭の上にはナイフが浮かび上がった。私は笑顔がこぼれた。
私「そうだ。このナイフでお前が殺したんだろ?」
すると松本の頭の上の映像のナイフがなぜかフェイドアウトしていった。そしてゆっくりとフォークがフェイドインしてきた。そしてフォークもフェイドアウトしてスプーンが現れた。そしてスプーンを経てはしが。
そのはしが光って映像が一瞬見えなくなった。光が収まって目が慣れてきた。するとはしの後ろにかつ丼の姿が。
「なぜだー」
私の声は書記の顔をこちらに振り向かせた。しかしもうそんな事はどうでもよかった。私はとにかく、この消しても消しても湧き上がってくるかつ丼を消したかった。
私「…松本、お前にもお袋さんがいるんだろ」
松本の頭の上に母の映像が。
よし!やはり定番は強い。松本は泣いている。さあ、ようやくだ。落とすよ。ごきげんよう。
私「お袋さんはお前がこんなことするなんて、望んでないはずだ」
松本「…はい」
私「お前を一生懸命育ててくれたんだろ?」
松本「…はい」
私「だったら…」
松本の頭の上にいる笑顔の母が動き出した。玉ねぎを切り始めた。
?
肉にパン粉つけてるよ。
まて。
母、揚げる。
まて。
母、つゆの入った鍋に先程切った玉ねぎを入れて、その上に揚げたかつを入れて煮込む。
まて。
母、卵いれる。
まて。
母にっこり、かつ丼どうぞ。
「まてーーーーー!!!」
「くそーーーーーーーーーー!!!!!」
私のひざは崩れ落ちた。
「…わかった、私の負けだ。ほら、注文していいぞ」
私は松本にメニューを渡した。松本の頭の上にカレーの映像が流れた。
「なぜだーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
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