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まえに書いたもの その4 『赤外線をよみとく』


以前、三か月に一度のペースで連載していた読売新聞大阪版コラム
『女のミカタ』 2017.3.27  掲載のものをば。

※ゲラで直した部分など、実際の紙面とは少し異なる場合があります。

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画面の半分以上を占める暗がりから、スッと現れる藤村志保さんの横顔。

日本髪を結ったその顔が正面を向き、シルエットになったかと思うと廊下を歩く足もとがアップで映し出される。
足袋の白さが美しい。

襖を開け、部屋に入ると天井からのアングルになり、寝ている女性に向かって手をつき一礼した後

「国のため、お部屋様のお命申し受けまする」

と短刀を抜き、女性に斬りかかる…。
1962年の大映映画『斬る』の鮮烈なオープニングだ。


この後、映画は市川雷蔵演じる侍の数奇な運命を描くのだけれど、冒頭2分のあまりのテンポの良さと映像美にクラクラしてしまった。


初めて見たときなにより驚いたのが、襖を開けて部屋へ入る瞬間、藤村志保の足が敷居を踏んづけていたこと。

えーっなにそれあかんでしょ!
子どものころ敷居踏んだら親に怒られたよ縁起でもない…とザワザワした
とたんの
「お命申し受けまする」。
あぁ、このザワザワも織り込み済みだったのか。


「なにかただならぬことが起きている」という禍々しい空気を、まっ白な
足袋が敷居を踏んづける一瞬で観客に想起させる。
映像がもの語る力の大きさを感じるのはこんなときだ。


でもこれ「敷居を踏んではイケマセン」という文化を共有している人にしか通じないわけで、そんなこと知らないよ、という人にとってはただの「部屋に入ったシーン」でしかない。

同じように、海外の映画や若い世代の作品にはきっと、私には見えない赤外線がいっぱい張り巡らせてあるのだろう。

そんな赤外線を読み解きたいからこそ、私は今日も本を読むし、いろんな世代の人と話をしたいのだ。



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